見習い陰陽師の高校生活

風間義介

文字の大きさ
97 / 276
異端録

47、戻ってきた日常とその裏で

しおりを挟む
 中間試験を終え、へとへとになりながら帰途に就いた護と月美だったが、待ち受けていたのは修行の時間。
 だが、護はさぼろうという仕草すら見せることなく、自室に戻ると白単衣に着替えてすぐに滝のある庭へとむかっていった。

――護、さっきまでへとへとだったのに、どこにそんな体力が……

 護のそんな様子を眺めながら、月美は体を冷やして戻ってくる護に、何か温かいものを作ってあげようと思い、疲れた体に気合を入れ、台所へとむかっていった。
 エプロンを身につけ、髪をシュシュでまとめると、冷蔵庫に入っている食材を確認し始めた。

――お味噌はあるし、豚肉、人参、玉ねぎ……豚汁でもしようかな?いや、ないかなぁ……

 それでは夕食のメニューになってしまうと考え、頭を左右に振ってその考えを消し去る。
 かといって、それ以外に何ができるのだろうか、そう思った瞬間、ふと、視線を上げると蜂蜜の瓶が目についた。

――蜂蜜かぁ……なら、蜂蜜生姜かなぁ。あ、レモン果汁もあった!

 思わぬところで材料がそろったことで、月美の頬は自然と緩んだ。
 作るものが決まれば、月美の行動は早かった。
 やかんに水を入れてガスコンロにかける。
 生姜半分に切り、片方を細かく刻み、もう片方を輪切りにして護のマグカップに入れて、蜂蜜を大さじ三、四杯ほど、そこにレモン果汁を三滴垂らした。

――う~ん……ちょっと甘くなっちゃったかなぁ……けど、大丈夫かな、これくらいなら

 少しばかり、出来上がりを心配になりながら、月美はお湯が沸くまで待った。
 数分とせずにお湯が沸き、月美はガスを止め、お湯をマグカップに注ぎ、輪切りにした生姜をスプーンの腹で押しつぶしながらかき混ぜる。
 ある程度かき混ぜると、月美はマグカップの中身をかき混ぜていたスプーンですくい、二、三回、息を吹きかけてからすすってみた。
 蜂蜜の甘い風味とレモンのかすかな酸味が、生姜のピリッとした辛みを和らげながら口に広がっていく。
 すると、お腹の中からじんわりと体が温まっていくのを感じながら、これで大丈夫だろう、と満足そうに頷いた。
 タイミングを図っていたかのように、着替えを終えた護が頭を拭きながら入ってくる。
 護はまさか台所に月美がいるとは思わず、珍しく目を丸くしていた。

「……あれ?月美、部屋にいたんじゃ?」
「護が滝行から戻ってきたときに、あったまるものを用意しておこうと思ったの。はいこれ」

 そう言って、出来立ての蜂蜜レモン生姜が入ったマグカップを差し出した。
 差し出されたマグカップを受け取った護は、一言、お礼を言ってから、マグカップに口をつけるが。

「あつっ!!」
「あ、出来立てだから、気をつけて!」

 出来立ての熱さに悲鳴を上げてしまった。
 慌てて月美が説明すると護は、先に言ってくれ、といわんばかりのジト目を向けて、二、三回、息を吹きかけてから、少しずつ、生姜湯を口に含んだ。

「……うまい」
「ほんとっ?!」
「あぁ、ほんと……これ、月美が作ったのか?」
「うんっ!」
「そっか……ありがとう」

 柔らかな微笑みを浮かべながらお礼を言う護に、月美は、どういたしまして、と微笑みを返した。

----------------------------

 そのころ。
 月美が水鏡で見た場所とどこか似ているが、明らかに違う場所。
 そこには、すでに廃墟と化した研究施設があった。
 対外的には・・・・・廃墟の内部は荒廃しすぎているため、とても人が入ることの出来る状況ではないとして、立ち入りが禁止されている。
 だが、廃墟、いや正確には廃墟の地下にある空間には電気が通っていた。
 特に電気が集中している一角に、いくつかの人影があった。
 だが、彼らは何かの作業をしているわけでも、会話に花を咲かせているわけでも、まして、食事をしているわけでもない。
 頭にはいくつものコードがつながったゴーグルをつけられ、椅子から離れられないように手足を固定され、さらには何かの薬品なのだろうか。
 大量の液体が入ったいくつものパックに取り付けられたチューブが、露出している腕につなげられていた。

「あ……う……」
「うぅ……あ、あぁ……」

 ゴーグルで顔が隠れているため、表情は定かではないが、だらしなく半開きになっている口と、その端から流れている唾液と漏れ出ている言葉になっていない声。
 それらの様子から、おそらく正気を保てていないということは察することができる。
 そんな彼らの合間を縫うように、白衣を着た男が歩きながら、記録をつけていた。
 もはやその光景だけで、ここが非合法的かつ非人道的な実験施設であることは明確だ。

――三号、四号、六号、共に変化なし。他の奴らも同じ、か……これでは以前ほどの成果は得られないな

 白衣の男はそっとため息をついて、記録を付けていたノートを閉じる。

――理論は間違っていないはずだ。だというのにいまだに成果が出ないのは、実験材料が粗悪だからか?それとも、施設がお粗末なのか?

 いったい、何が原因で自分たちの研究が停滞しているのか。
 男の頭の中はそのことでいっぱいになっていた。
 非合法かつ非人道的なものとはいえ、彼もまた研究者の端くれ。
 思うような結果が出なければ、なぜそうなってしまうのか、理想の結果を得るためにはどうすればいいのかを考えることは、他の一般的な研究者と変わりないようだ。

「主任、少しよろしいでしょうか?」

 だが、その思考は彼を呼び止める声に一時停止する。
 思考の邪魔をされたことに苛立ちを感じたのか、不機嫌そうな様子で男は振り返った。

「……なんです?簡潔にお願いしますよ」
「お客人です。なんでも、研究の手伝いをしたいとか」
「……ほう?」

 苛立たし気に返答した男だったが、呼び止めた研究員の言葉に、その表情は一変し、興味深いとでもいいたそうなものへと変わる。
 男は研究員から客人を待たせている部屋を聞き、足早に向かった。
 部屋に到着すると、男はドアを開けて部屋に入っていく。

「どうもお待たせしました」
「いえいえ、研究者ともなれば自身の研究に時間を費やしたくなるのは当然のこと。気にしていませんよ」

 男の謝罪に微笑みを浮かべながら客人はそう返す。
 客人は、年の頃は六十を超えているように思える老人だった。
 だが、白く蓄えられた髭と目元のしわの割に肌には張りがあるため、もしかしたらもう少し若いのかもしれない。
 だが、そんなことはどうでもいい。
 重要なのは、この客人が持ち込んできた話だ。

「それでは、早速ですが、お話を聞かせていただきましょう」

 男は老人の前に座ると、黒い笑みを浮かべ、早速、話題を切り出す。
 その反応に、老人もまた、黒い笑みを浮かべていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...