見習い陰陽師の高校生活

風間義介

文字の大きさ
上 下
96 / 276
異端録

46、そしてこちらも……

しおりを挟む
 人間から妖へ変身する異形が製造されていると思われる研究所の調査を終えてから数日。
 特殊状況調査局本部では、光が書類仕事に追われていた。
 数日前に立ち入り・・・・調査・・を行った研究施設についての報告書の作成。
 そこに積み重ねられた書類のほとんどが、そのために必要となる資料だ。
 これほどの資料が必要となった理由は、光たちの記憶にある。
 原因はわからないのだが、研究施設に突入してから出るまでの間、つまり調査をしている間の記憶がすっぽりと抜けてしまっていたのだ。

――調査中に撮影した写真や映像、メモ書きの類が残っていたことは幸いだったが、なぜ私たちの記憶からあの日のことが抜けているんだ?

 これはもはや、誰かから術をかけられた可能性も考えるべきことだ。
 だが、自分を含めた職員たちの誰にも気づかれないで術をかけることができるほどの術者がはたしているのだろうか。
 その考えに至った瞬間。

――いや、一人だけ……あいつがいたな

 あいつ、というのは言わずもがな。護のことである。
 だが、いつ、どこで、どんなタイミングで自分に術をかけたのかまではわからない。

――考えていても仕方ない……さっさとこの山を片付けよう……

 いつまでも答えの出ない問いについて考えていてもしかたがない、と思ったのか。
 光は陰鬱そうなため息をついて、目の前にある書類の山との格闘を再開するのだった。

----------------------------

 一方、その頃。
 護と月美はクラスメイトと混じって中間試験を受けていた。

「そこまで、解答用紙を裏返して後ろから前に送ってくれ」

 チャイムが鳴り響くと同時に、試験監督の教師から終了と解答用紙回収の指示が流れてくる。
 数分としないうちに、解答用紙は回収され、生徒達は思い思いの手ごたえや感想を口にし始めた。

「やっべぇ、全部解けなかったぁ……」
「ねぇ、あそこの問題、答え何にした?」
「……あぁ……ったりぃ……」
「なぁ、終わったらどうする?」

 試験監督が教室から出るや否や、生徒たちは仲のいい友人同士で会話を始め、いつもの学校の休み時間のような雰囲気が生まれた。
 普段なら、その談話の中に月美も入っているのだが、今度ばかりは少し様子が違う。
 机に座ったまま、一心不乱に次の試験科目のノートを広げ、その中に書かれている内容を必死に頭に叩きこんでいた。
 いつもなら、こんなことはしていないのだが、護と一緒になって妖から頼まれた依頼に取り組んでいただけではない。
 修行にも付き合っていたために、必然的に勉強する時間が削られてしまった。
 そのため、こうして休憩時間を削って詰め込みをしているのだ。

――うぅ……護はなんであんなハードスケジュールを……

 月美はうらめしそうな目で護のほうへ視線をむける。
 視線の先に捉えた護の姿は、今の月美と同じ、必死に知識を叩きこんでいる姿だった。
 どうやら、護も自信満々で試験に臨んでいたわけではないようだ。
 普段は一緒に宿題をしたり勉強したりしているのだが、先日の妖たちからの依頼に力を注ぐようになってから、その時間は削られてしまった。
 その穴埋めを、いましているということのようだ。

――もしかして、護もわたしと同じ?

 そう感じた月美は、再び自分のノートに視線を落とした。
 そして時間は過ぎて。

「時間です。筆記用具を置いて、解答用紙を裏返して後ろから前に送ってください」

 最後の試験終了の合図が試験監督から出され、生徒たちは解答用紙を指示通り、前の席へと送った。
 すべての解答用紙を回収した監督教師が教室から出ていくと、再び教室はざわめきだす。

「月美~」
「護~」

 明美と清がそれぞれ親友に声をかけたが、反応がなかった。
 それもそのはず。
 これが最後とばかりに、二人とも全身全霊をかけて臨んだのだ。
 そのため、全エネルギーを使ってしまい、誰かとしゃべる気力すらなくなってしまったらしい。
 もっとも、護に関しては、誰かとしゃべることはないため、余力があるかもしれないのだが。

「お、お疲れのようだな……」
「土御門はともかく、月美があんな状態になってるのって珍しい……」
「いや、護があぁなるのも、実はけっこう珍しいぞ?」
「そうなの?」

 護との付き合いが始まったばかり、と言っても過言ではない明美は、その言葉に首を傾げた。
 だが実際のところ、清の言は正しい。
 基本的に他人を信用しない護は、弱っている姿を見せることがないが、よほど消耗してしまっているときや元々体調が優れていないときはその限りではない。
 なおこれは、護との付き合いの長い清だからこそ気づけたことであり、他のクラスメイトはまったく気づいていないのだが。

「あぁ、それからな。風森はともかく、今の護に声かけんのはやめとけ」
「なんで?」
「前に、あいつがあんな風になったときに声かけたことがあるんだけどよ……」

 そこまで言って、清の顔が徐々に青ざめていった。
 突然のその様子に、明美はどうしたのか慌てて問いかける。
 だが、清は大丈夫だと話し、明美を落ち着かせてから口を開いた。

「そりゃもうひどかった……」
「そ、そんなに?」
「あぁ……」
「む、無理に話さないで大丈夫だよ?ていうか、言わなくていい。こっちが怖い!!」

 普段、顔を真っ青にして震えることがない清の様子から、よほどのことだということは明美でなくとも理解できた。
 いや、むしろ聞いてしまったら大事な何か、具体的には多大な正気度《SAN値》を犠牲にしかねない気がしてならない。
 結局、清に何が起きたのかは謎のままだったが、不機嫌な状態の護に声を掛けるには、よほどの勇気が必要になるということだけは心に刻みこんだ明美だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶喪失だったが、元奴隷獣人少女とイチャイチャしながらも大鎌担いで神を殺す旅に出ました!

梅酒 凪都
ファンタジー
 目が覚めると主人公――カズナリは記憶を失っていた。そんなとき、生贄として祀られる運命だった獣人奴隷少女のアオイに出会う。だが、アオイの前に天使が舞い降りる。天使からアオイを救うべくその場にあった大鎌を手にし、人では殺すことのできないはずの天使を殺すことに成功する。  そして、神を殺す手助けをしてほしいというアオイの頼みを聞き入れ旅をすることになるのだった。カズナリは身も心も主人公一筋になってしまったアオイとイチャイチャしながらも神を殺すための旅に出るのだった。 ※00:00時更新予定 ※一章の幕間からイチャイチャし始めるので気になる方はそちらをご覧ください。

女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。 麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。 使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。 厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒! 忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪ 13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください! 最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^ ※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!  (なかなかお返事書けなくてごめんなさい) ※小説家になろう様にも投稿しています

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが当たり前になった世界。風間は平凡な会社員として日々を暮らしていたが、ある日見に覚えのないミスを犯し会社をクビになってしまう。その上親友だった男も彼女を奪われ婚約破棄までされてしまった。世の中が嫌になった風間は自暴自棄になり山に向かうがそこで誰からも見捨てられた放置ダンジョンを見つけてしまう。どことなく親近感を覚えた風間はダンジョンで暮らしてみることにするが、そこにはとても可愛らしいモンスターが隠れ住んでいた。ひょんなことでモンスターに懐かれた風間は様々なモンスターと暮らしダンジョン内でのスローライフを満喫していくことになるのだった。

和風ホラーとか異世界のSランクの冒険者なら余裕だと思った?

かにくくり
ファンタジー
 異世界からもたらされた呪いによって滅びた鈍異村の住民である小山内詩郎、北野愛、櫛引由美子の三人は死後幽霊となって自分達の村が滅びた理由を調べていた。  幽霊には寿命が無く、生者とは時間の感覚も違う。  真相が判明した頃には既に75年の歳月が流れていた。  鈍異村に呪いを持ち込んだ元凶である異世界の魔法使いエンフラーグは既に亡くなっていたが、詩郎達はエンフラーグが設立し、その子孫がギルドマスターを務めている冒険者ギルド【英雄の血脈】の存在を知る。  エンフラーグ本人じゃないなら復讐するには及ばないと思いつつも、長年怨み続けてきた気持ちに切りを付ける意味で彼らに接触してみた結果、彼らは全く悪びれる様子もなく逆に犠牲になった村人達を笑い物にする始末。  そっちがその気ならもう情けをかける必要はない。  異世界の連中に日本の怨霊の恐ろしさを思い知らせてやる。  詩郎達は怨霊の力で彼らを鈍異村に閉じ込め一人ずつ復讐を行っていく。  その中には密かに転生をしてギルドに潜り込んでいたエンフラーグ本人の姿もあった。  その過程で徐々に明らかになる異世界人の非道な行為の数々に、怨霊側につく者達も現れて復讐劇は更にエスカレートしていく。  これは和風ホラーを怨霊側の視点で描いてみた物語です。  小説家になろうにも投稿しています。

田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに、次々と慕われることに~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
田舎貴族であるユウマ-バルムンクは、十五歳を迎え王都にある貴族学校に通うことになった。 最強の師匠達に鍛えられ、田舎から出てきた彼は知らない。 自分の力が、王都にいる同世代の中で抜きん出ていることを。 そして、その価値観がずれているということも。 これは自分にとって普通の行動をしているのに、いつの間にかモテモテになったり、次々と降りかかる問題を平和?的に解決していく少年の学園無双物語である。 ※ 極端なざまぁや寝取られはなしてす。 基本ほのぼのやラブコメ、時に戦闘などをします。

VRMMO RPGで記憶を取り戻す為に覚醒したジョブ【合成士】で冒険する

語黎蒼
ファンタジー
【第1章あらすじ】 事故によって記憶を失ってしまった『日ノ内遊吾』 自分の名前も家族も忘れてしまった遊吾に兄の蒼太と姪のマリアに以前ハマっていたVRMMO RPGの続編をすれば記憶を戻す手掛かりになることができると勧められる 蒼太の提案で遊吾のキャラとマリアのキャラを入れ替えてVRMMO RPGをすることを提案され疑うこともなく入れ替えて、可愛い女の子になって冒険をしながら記憶を取り戻す話。

絶対防御とイメージ転送で異世界を乗り切ります

真理亜
ファンタジー
有栖佑樹はアラフォーの会社員、結城亜理須は女子高生、ある日豪雨に見舞われた二人は偶然にも大きな木の下で雨宿りする。 その木に落雷があり、ショックで気を失う。気がついた時、二人は見知らぬ山の中にいた。ここはどこだろう? と考えていたら、突如猪が襲ってきた。危ない! 咄嗟に亜理須を庇う佑樹。だがいつまで待っても衝撃は襲ってこない。 なんと猪は佑樹達の手前で壁に当たったように気絶していた。実は佑樹の絶対防御が発動していたのだ。 そんな事とは気付かず、当て所もなく山の中を歩く二人は、やがて空腹で動けなくなる。そんな時、亜理須がバイトしていたマッグのハンバーガーを食べたいとイメージする。 すると、なんと亜理須のイメージしたものが現れた。これは亜理須のイメージ転送が発動したのだ。それに気付いた佑樹は、亜理須の住んでいた家をイメージしてもらい、まずは衣食住の確保に成功する。 ホッとしたのもつかの間、今度は佑樹の体に変化が起きて... 異世界に飛ばされたオッサンと女子高生のお話。 ☆誤って消してしまった作品を再掲しています。ブックマークをして下さっていた皆さん、大変申し訳ございません。

処理中です...