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呪怨劇
序、闇に蠢くは妖のみならず
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人を傷つける『呪い』、人に恩恵をもたらす『呪い』。
どちらも正反対のものだが、その本質は同じ。神あるいは妖に助力を願い、結果をもたらすもの。
故に術者はどちらも『呪』と呼び、様々な用途でそれらを用いた。
科学万能となり、神秘が忘却の彼方へと追いやられた昨今でも、面白半分で呪を実行する人間は存在する。
だが、呪の扱いはその存在を知り、操る術者であっても入念な準備の上で行うものだ。
中途半端な準備と心構えで行使すれば、手痛いしっぺ返しを喰らうものであった。
まして、神秘の存在など一切知らない徒人が、その準備を知ることなく行使した場合、どうなることか。
それはもはや、神のみぞ知ることである。
初夏の青空よりも陰鬱になりそうな雨雲の方が見かけることが多くなった頃。
人気のない教室の片隅に、少女が一人、うずくまっていた。
制服を着ているところから察するに、この学校の生徒なのだろう。
その女子生徒は、うずくまっていたというよりも、何かを探しているようだ。
いや、より正確には何かを仕込んでいるという様子だった。
――これでよし……あとは仕掛けを御覧じろってね
何を仕込んだのかはわからないが、よくないものであるということは彼女の様子を見れば、誰でも理解できることだ。
仕込んでいる当の本人の目は、それだけ狂気に満ち、口元に浮かぶ笑みは歪んでいたのだから。
何が彼女をそこまで追い込んだのかはわからないが、これだけは確定的に明らかなことだった。
このままでは、何が起こるとしても、決して歓迎される事態にはならない。
そして、何かとんでもないことになってしまうということが。
だが、女子生徒にとってそんなことはどうでもいいことだった。
彼女にとって重要なのは、自分が仕込んだもので復讐を成し遂げるということ。
ただそれだけなのだから。
――人を呪わば穴二つ?知るか、そんなこと!!
呪いについて、必ずついて回ることわざが脳裏に浮かんだが、女子生徒は頭を横に振ってその言葉を無理やり、脳裏から追い払った。
もはや、自分にどのようなしっぺ返しがこようと、知ったことではないし、どうでもいいことだ。
そう思えてしまうほど、彼女には成し遂げたいと願う目的があった。
その目的とは。
――復讐してやる……誰にも、絶対にわからない方法で、証明しようのないこの方法で!!
誰にも証明することのできない方法での復讐。
それこそが、彼女が呪いを行う理由だった。
科学万能の現代において、呪いというものは、しょせん、効くはずのないおまじないのようなもの。
そのため、人間が一人、科学的説明ができない不可解な死を遂げたとしても、誰もそれが呪いによるものであるとは理解できるはずがない。
それだけではない。
――呪いは科学的に証明することができない。犯人が私だってわかったところで、なにもできはしない!
たとえ、呪いを行使した術者が自首したとしても、呪殺や呪詛というものは科学的かつ論理的な説明が出来ず、罪に問うことはできない。
彼女はそこを突いて、呪詛による復讐を行おうとしているようだが彼女は、自分自身が呪詛によって自分が変わってしまっていることに気づいていなかった。
そこにいるものは、もはや少女ではない。
人の皮をかぶり、人間社会に溶け込んでいた狂気の塊。
呪詛で発生した瘴気と憎悪によって、身も心も歪められた少女は、まるで能面の般若のような形相になっていた。
自身ではそのことに気づくことのないまま、細工も仕込みも終わらせた少女は、帰ろうとして立ち上がったその時。
「誰かいるか?……て、なんだ、居残りか?」
学校の警備員が巡回にきたらしい。
教室のドアを開け、居残っている少女に気づくと、警備員は怖がらせないようにしているつもりなのか、微笑みを浮かべながら女子生徒に声をかけてくる。
声に気づき、振り返った女子生徒の顔は、普通の少女のものとなんら変わりない、彼女本来の顔へと戻っていた。
「あ!す、すみません」
「なんだ、忘れ物でもしたのか?」
「実は、そんなところです。でも、もう見つかりました」
「そうか。そろそろ鍵をかけるから、もう帰りな」
「はい。そうします」
警備員の忠告を素直に受け入れ、女子生徒は教室を去っていく。
気を付けて、と見送ってくれた警備員にお辞儀を返し、げた箱へと向かっていった女子生徒の顔は、にたり、と笑っていた。
その笑みはこれから自分が復讐したい相手に起きることを思い浮かべてのことに対するものなのか。
それとも、うまく警備員を騙せたことに対するものなのかはわからなかった。
――これからよ……ふふふふ、あなたがこれからどうなっていくのか、楽しみで仕方ないわ
まだ成就するかもわからない呪詛が、もう成功したかのように、女子生徒は呪った相手の苦しむ姿を想像し、心中で笑いながら、家路についた。
だが、彼女が仕掛けた呪詛は同じ学校に通う見習い陰陽師によって、人知れず解除されてしまったため、発動することはなかった。
もし呪詛が解かれず、彼女の目論見通り発動していたら、彼女自身が呪った相手と同じ末路をたどることになる。
彼女がそれを知っていたかどうかはわからないが、いずれにしても彼女が自身の仕掛けた呪詛によって化け物となることは防がれたのだった。
どちらも正反対のものだが、その本質は同じ。神あるいは妖に助力を願い、結果をもたらすもの。
故に術者はどちらも『呪』と呼び、様々な用途でそれらを用いた。
科学万能となり、神秘が忘却の彼方へと追いやられた昨今でも、面白半分で呪を実行する人間は存在する。
だが、呪の扱いはその存在を知り、操る術者であっても入念な準備の上で行うものだ。
中途半端な準備と心構えで行使すれば、手痛いしっぺ返しを喰らうものであった。
まして、神秘の存在など一切知らない徒人が、その準備を知ることなく行使した場合、どうなることか。
それはもはや、神のみぞ知ることである。
初夏の青空よりも陰鬱になりそうな雨雲の方が見かけることが多くなった頃。
人気のない教室の片隅に、少女が一人、うずくまっていた。
制服を着ているところから察するに、この学校の生徒なのだろう。
その女子生徒は、うずくまっていたというよりも、何かを探しているようだ。
いや、より正確には何かを仕込んでいるという様子だった。
――これでよし……あとは仕掛けを御覧じろってね
何を仕込んだのかはわからないが、よくないものであるということは彼女の様子を見れば、誰でも理解できることだ。
仕込んでいる当の本人の目は、それだけ狂気に満ち、口元に浮かぶ笑みは歪んでいたのだから。
何が彼女をそこまで追い込んだのかはわからないが、これだけは確定的に明らかなことだった。
このままでは、何が起こるとしても、決して歓迎される事態にはならない。
そして、何かとんでもないことになってしまうということが。
だが、女子生徒にとってそんなことはどうでもいいことだった。
彼女にとって重要なのは、自分が仕込んだもので復讐を成し遂げるということ。
ただそれだけなのだから。
――人を呪わば穴二つ?知るか、そんなこと!!
呪いについて、必ずついて回ることわざが脳裏に浮かんだが、女子生徒は頭を横に振ってその言葉を無理やり、脳裏から追い払った。
もはや、自分にどのようなしっぺ返しがこようと、知ったことではないし、どうでもいいことだ。
そう思えてしまうほど、彼女には成し遂げたいと願う目的があった。
その目的とは。
――復讐してやる……誰にも、絶対にわからない方法で、証明しようのないこの方法で!!
誰にも証明することのできない方法での復讐。
それこそが、彼女が呪いを行う理由だった。
科学万能の現代において、呪いというものは、しょせん、効くはずのないおまじないのようなもの。
そのため、人間が一人、科学的説明ができない不可解な死を遂げたとしても、誰もそれが呪いによるものであるとは理解できるはずがない。
それだけではない。
――呪いは科学的に証明することができない。犯人が私だってわかったところで、なにもできはしない!
たとえ、呪いを行使した術者が自首したとしても、呪殺や呪詛というものは科学的かつ論理的な説明が出来ず、罪に問うことはできない。
彼女はそこを突いて、呪詛による復讐を行おうとしているようだが彼女は、自分自身が呪詛によって自分が変わってしまっていることに気づいていなかった。
そこにいるものは、もはや少女ではない。
人の皮をかぶり、人間社会に溶け込んでいた狂気の塊。
呪詛で発生した瘴気と憎悪によって、身も心も歪められた少女は、まるで能面の般若のような形相になっていた。
自身ではそのことに気づくことのないまま、細工も仕込みも終わらせた少女は、帰ろうとして立ち上がったその時。
「誰かいるか?……て、なんだ、居残りか?」
学校の警備員が巡回にきたらしい。
教室のドアを開け、居残っている少女に気づくと、警備員は怖がらせないようにしているつもりなのか、微笑みを浮かべながら女子生徒に声をかけてくる。
声に気づき、振り返った女子生徒の顔は、普通の少女のものとなんら変わりない、彼女本来の顔へと戻っていた。
「あ!す、すみません」
「なんだ、忘れ物でもしたのか?」
「実は、そんなところです。でも、もう見つかりました」
「そうか。そろそろ鍵をかけるから、もう帰りな」
「はい。そうします」
警備員の忠告を素直に受け入れ、女子生徒は教室を去っていく。
気を付けて、と見送ってくれた警備員にお辞儀を返し、げた箱へと向かっていった女子生徒の顔は、にたり、と笑っていた。
その笑みはこれから自分が復讐したい相手に起きることを思い浮かべてのことに対するものなのか。
それとも、うまく警備員を騙せたことに対するものなのかはわからなかった。
――これからよ……ふふふふ、あなたがこれからどうなっていくのか、楽しみで仕方ないわ
まだ成就するかもわからない呪詛が、もう成功したかのように、女子生徒は呪った相手の苦しむ姿を想像し、心中で笑いながら、家路についた。
だが、彼女が仕掛けた呪詛は同じ学校に通う見習い陰陽師によって、人知れず解除されてしまったため、発動することはなかった。
もし呪詛が解かれず、彼女の目論見通り発動していたら、彼女自身が呪った相手と同じ末路をたどることになる。
彼女がそれを知っていたかどうかはわからないが、いずれにしても彼女が自身の仕掛けた呪詛によって化け物となることは防がれたのだった。
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