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【続編】
137:愛人
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「パトリシア様はレオナルド様の年下の愛人。壮年でいぶし銀の魅力満点のレオナルド様と愛し合いたいのですが……。レオナルド様は老いには勝てず、ほとばしる情熱をぶつけながら、我が身の不便を嘆く……。この状況を広場で再現いただければ、間違いなく、『魔法の薬』の売り手から声がかかると思います!」
そういう設定を思いついたのは……グロリアだ。
グロリアは……見た目と違い、ラブロマンスの読み物や演劇が大好きで、そして妄想力がたくましかった。どうも私とレオナルドでありとあらゆるパターンの物語を妄想したことがあるらしく、その中の一つの設定を、今回の作戦で使うことにした。
その結果が今だ。
愛人という設定の派手なドレス。
年下の若い愛人を求める設定のアズレークは、先程から際どい場所に平気で触れるので、私は慌ててその手を押さえようとするのだが。逆にその手を絡めとられ、指一本ずつにキスをされ、腰砕けになりそうになる。
役に完全になりきっているのか、それともアズレークが元々そうなのか。とにかくこんなにあちこち触れられ、抱きしめられ、キスをされ……私はもういつ意識が吹き飛んでもおかしくない状態。しかもグロリア、ルカ、セシリオ、ロレンソ、加えて数名の騎士と、ロレンソに協力する街の人間も、この広場を見張っているのに。
衆人環視の中でのアズレークの熱烈なアピールに、そろそろ限界だった。アズレークはキスを繰り返す中で散々、自分の老いを投げている。『魔法の薬』の売り手もこれだけ嘆かれたら、絶対気づくと思うのだが。
来るなら早く来て欲しい。そうしないと私がもう……もちません……。
そう思ったまさにその時。
「あなたは見たところ、健康そのものに思えるのに。その年若いご令嬢と愛を交わす上で問題を抱えられていると。それを解決する『魔法の薬』をお分けしましょうか?」
年配の男性の声が聞こえる。動きを止めたアズレークと私は、ベンチの背後に全神経を向けることになった。
「振り向くのは止めてください。『魔法の薬』が欲しいのなら」
「分かった。ところで『魔法の薬』とは、何のことだね?」
アズレークがとぼけた表情で尋ねると。
「それを目的でここに来たのではないのかね?」
「私の目的はただ一つ。彼女を抱くことです。……ですが、それがかなわず、ホテルの部屋にいてもむなしくなる。だから気分転換で外に出てきたのですが……。嘆いたところで何も変わらず、悶々していました。見ればわかりますよね。彼女のこの体。この体を前にしておきながら。この体に触れてもなお、自分の……」
「もういいです、安心してください。もう嘆く必要はないですから」
アズレークは……名演技……迷演技過ぎて、私は笑いそうになってしまう。それをなんとか堪えるため、アズレークの胸に顔を埋めることになったのだが。それは……売り手の同情を買ったようだ。
「本当に。愛し合っている二人なのですね。……分かりました。いいでしょう。本当は金貨30枚が妥当と思いましたが。金貨20枚で手を打ちましょう」
金貨20枚!? 値引きしてもその金額とは……。
「つまりその対価を払えば、私は彼女と必ず結ばれると?」
「ええ、必ず、です」
「……もし失敗したら?」
「失敗はあり得ないですよ。私の力はそれに特化しているのですから。万が一にも失敗したというなら。またここに来てください。その時は無料で進呈しますよ。『魔法の薬』を」
それに特化した力……。
何だろう、こういう言い方をするということは……。
「よかろう。金貨20枚でこの想いが叶うなら」
アズレークは胸元からお金が入った袋を取り出す。
さらに上衣の左右のポケットから取り出した金貨を袋へと入れる。
「この袋には元々10枚の金貨が入っていた。そして左右のポケットに金貨が5枚ずつ入っていた。これをすべてこの袋にいれたから、全部で20枚あるはずだ」
「信用しましょう。ここで金貨を数えるのは、命をすり減らすことになりますから。ではこれを」
背後から伸びた手は、年配の男性に見える。そしてその手にはあの枯野の色の粉の入った瓶……!
アズレークの持つ金貨の入った袋と、売り手の手にある瓶が交換された瞬間。
「違法性のある薬の売買が行われていると報告があります」
「現行犯です。拘束させていただきます」
グロリアとセシリオの声が背後から聞こえた。
振り向いた瞬間。
熱風が起き、アズレークに抱きしめられた。
「氷結」
ロレンソの声に顔を上げると。
一瞬燃えるような緋色の翼を持つ、まるで天使のように見える男性が、宙で氷の塊に閉じ込められているように見えたが。
その氷は炎に包まれ、次の瞬間、そこには誰もいない。
いや、数十メートル移動した上空に、緋色の翼を持つ男性の姿が見えた。
「水よ、包み込め」
アズレークの詠唱と共に、水球に包まれた男性が落下する。
だが。
広場に落ちる寸前で、水を霧散させた。
さらに。
赤レンガ色に変わった翼を広げ、再び飛翔しようとしている。
「「風よ、切り裂け」」
アズレークと私の声が揃い、鋭い刀になった風が広がった翼にぶつかる。
女性の悲鳴のような甲高い声が響き、翼から羽が飛び散った。
「シルバークレイ(銀粘土)」
ロレンソの声と同時に、男性の周囲が銀色に輝き、顔以外がその銀色の光に包まれた。完全に身動きが封じられた男の元に、グロリアとセシリオ、騎士達が駆け寄った。
そういう設定を思いついたのは……グロリアだ。
グロリアは……見た目と違い、ラブロマンスの読み物や演劇が大好きで、そして妄想力がたくましかった。どうも私とレオナルドでありとあらゆるパターンの物語を妄想したことがあるらしく、その中の一つの設定を、今回の作戦で使うことにした。
その結果が今だ。
愛人という設定の派手なドレス。
年下の若い愛人を求める設定のアズレークは、先程から際どい場所に平気で触れるので、私は慌ててその手を押さえようとするのだが。逆にその手を絡めとられ、指一本ずつにキスをされ、腰砕けになりそうになる。
役に完全になりきっているのか、それともアズレークが元々そうなのか。とにかくこんなにあちこち触れられ、抱きしめられ、キスをされ……私はもういつ意識が吹き飛んでもおかしくない状態。しかもグロリア、ルカ、セシリオ、ロレンソ、加えて数名の騎士と、ロレンソに協力する街の人間も、この広場を見張っているのに。
衆人環視の中でのアズレークの熱烈なアピールに、そろそろ限界だった。アズレークはキスを繰り返す中で散々、自分の老いを投げている。『魔法の薬』の売り手もこれだけ嘆かれたら、絶対気づくと思うのだが。
来るなら早く来て欲しい。そうしないと私がもう……もちません……。
そう思ったまさにその時。
「あなたは見たところ、健康そのものに思えるのに。その年若いご令嬢と愛を交わす上で問題を抱えられていると。それを解決する『魔法の薬』をお分けしましょうか?」
年配の男性の声が聞こえる。動きを止めたアズレークと私は、ベンチの背後に全神経を向けることになった。
「振り向くのは止めてください。『魔法の薬』が欲しいのなら」
「分かった。ところで『魔法の薬』とは、何のことだね?」
アズレークがとぼけた表情で尋ねると。
「それを目的でここに来たのではないのかね?」
「私の目的はただ一つ。彼女を抱くことです。……ですが、それがかなわず、ホテルの部屋にいてもむなしくなる。だから気分転換で外に出てきたのですが……。嘆いたところで何も変わらず、悶々していました。見ればわかりますよね。彼女のこの体。この体を前にしておきながら。この体に触れてもなお、自分の……」
「もういいです、安心してください。もう嘆く必要はないですから」
アズレークは……名演技……迷演技過ぎて、私は笑いそうになってしまう。それをなんとか堪えるため、アズレークの胸に顔を埋めることになったのだが。それは……売り手の同情を買ったようだ。
「本当に。愛し合っている二人なのですね。……分かりました。いいでしょう。本当は金貨30枚が妥当と思いましたが。金貨20枚で手を打ちましょう」
金貨20枚!? 値引きしてもその金額とは……。
「つまりその対価を払えば、私は彼女と必ず結ばれると?」
「ええ、必ず、です」
「……もし失敗したら?」
「失敗はあり得ないですよ。私の力はそれに特化しているのですから。万が一にも失敗したというなら。またここに来てください。その時は無料で進呈しますよ。『魔法の薬』を」
それに特化した力……。
何だろう、こういう言い方をするということは……。
「よかろう。金貨20枚でこの想いが叶うなら」
アズレークは胸元からお金が入った袋を取り出す。
さらに上衣の左右のポケットから取り出した金貨を袋へと入れる。
「この袋には元々10枚の金貨が入っていた。そして左右のポケットに金貨が5枚ずつ入っていた。これをすべてこの袋にいれたから、全部で20枚あるはずだ」
「信用しましょう。ここで金貨を数えるのは、命をすり減らすことになりますから。ではこれを」
背後から伸びた手は、年配の男性に見える。そしてその手にはあの枯野の色の粉の入った瓶……!
アズレークの持つ金貨の入った袋と、売り手の手にある瓶が交換された瞬間。
「違法性のある薬の売買が行われていると報告があります」
「現行犯です。拘束させていただきます」
グロリアとセシリオの声が背後から聞こえた。
振り向いた瞬間。
熱風が起き、アズレークに抱きしめられた。
「氷結」
ロレンソの声に顔を上げると。
一瞬燃えるような緋色の翼を持つ、まるで天使のように見える男性が、宙で氷の塊に閉じ込められているように見えたが。
その氷は炎に包まれ、次の瞬間、そこには誰もいない。
いや、数十メートル移動した上空に、緋色の翼を持つ男性の姿が見えた。
「水よ、包み込め」
アズレークの詠唱と共に、水球に包まれた男性が落下する。
だが。
広場に落ちる寸前で、水を霧散させた。
さらに。
赤レンガ色に変わった翼を広げ、再び飛翔しようとしている。
「「風よ、切り裂け」」
アズレークと私の声が揃い、鋭い刀になった風が広がった翼にぶつかる。
女性の悲鳴のような甲高い声が響き、翼から羽が飛び散った。
「シルバークレイ(銀粘土)」
ロレンソの声と同時に、男性の周囲が銀色に輝き、顔以外がその銀色の光に包まれた。完全に身動きが封じられた男の元に、グロリアとセシリオ、騎士達が駆け寄った。
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