206 / 251
【続編】
94:笑顔を見ると笑顔になる
しおりを挟む
綺麗な赤い林檎を両手で持ったスノーは、お行儀よくハンカチを取り出し、林檎を拭いている。
その後ろの方に、レモネードを手に入れたアズレークが歩いてくるのが見えた。
ここはレディファーストと騎士道精神が根付く西洋風の乙女ゲーム『戦う公爵令嬢』という世界だから。アズレークがいろいろしてくれるのは、そこまで驚くことではないのかもしれない。それでも彼は、この国の最強魔術師であり、王族と同格とみなされている人物なのだ。それなのにこんなに甲斐甲斐しく尽くしてくれるなんて。
レモネードを手にこちらへ歩いてくるアズレークを見て笑顔になると。
私の笑顔に気づいたアズレークも輝くような笑顔になった。
スノーは大きく口を開け、林檎にかぶりつこうとしている。
その瞬間。
アズレークの顔から笑顔が消えた。
何かを叫んでいる。
え、何!?
何が起きたのか理解しようとすると。
赤い林檎が地面に転がる。
林檎の側面には小さな歯型が残り、スノーが齧った後だとよく分かった。
同時に。
スノーの体が私の方へと倒れてくる。
全てがスローモーションのような出来事に感じたが。
「パトリシア、スノーの口の中の林檎を取り出せ!」
アズレークの叫びに、慌てて、スノーの顔を持ち上げた。
そこで出そうになる悲鳴を堪え、口を開けさせ、すぐに林檎のかけらを取り出し地面に捨てる。
「スノー、スノー、どうしたの!?」
さっきまであんなに元気だったのに。
その顔には細い血管が浮き上がり、目を閉じ、グッタリしている。
その口と鼻に手をかざすと呼吸はしていた。
手首に触れると脈も感じる。
ただ、手がとても冷たい。
何が起きているか分からない。
治癒の魔法でどうにかできるの?
青ざめ、手をかざそうとすると、駆け付けたアズレークが林檎を拾い、取り出した布でくるんでこちらへ駆け寄る。
「アズレーク、スノーが、急に」
「気づくのが遅かった。まさか『呪い』がかけられていたなんて」
アズレークが歯ぎしりしながらスノーを抱え上げ、いくつかの呪文を唱える。それを終えると私を見た。
「パトリシア、屋敷に戻る。どこでもいい。私につかまるんだ」
頷いて立ち上がり、腕を掴んだ次の瞬間。
スノーの部屋に戻っている。
アズレークはスノーをソファに寝かせた。
「パトリシア、メイドを呼び、スノーの服を着替えさせ、ベッドで休ませて欲しい。私はこの林檎にかけられていた『呪い』を確認する」
「分かりました」
アズレークはすぐに部屋を出て行き、私はメイドを呼んだ。
すぐに部屋に来たメイドは、スノーを寝間着へと着替えさせてくれる。それを手伝いながらなぜ『呪い』が?と起きた事態について考えることになった。
アズレークは、『呪い』が林檎にかけられていたと言っている。ということは犯人は……ルクソール・プレジャー・ガーデンズにいた林檎を配っていた老婆?
老婆は……ニコニコとしていた。紫色のフードを被り、ローブを着たその姿は魔法使いのおばあさんのように見えた。『呪い』を林檎に込めているような人物には見えなかった。
だがもし、あの老婆が『呪い』をかけた犯人なら……。
大変なことに気づく。
あの老婆は沢山の人に林檎を配っていた。スノーのように『呪い』を受けてしまった人が沢山いるのではないか?
「パトリシア様、湯たんぽをお持ちしました」
メイドの声に我に返る。「ありがとう」と言って湯たんぽを受け取った。ガレシア王国に湯たんぽは存在していなかった。だがスノーが寒がりなので、湯たんぽを思い出し、メイドに頼み用意してもらったのだ。今ではスノーが毎晩寝る時に湯たんぽを使っていた。
メイド達がスノーをベッドに寝かせたので、その側に湯たんぽを置く。ブランケットと掛布団を重ねてかけ、ベッドを整えた。
スノーの様子に変化はなく、相変わらず体は冷たいが、湯たんぽは置いているし、暖炉もついている。ひとまずさっき気がついた、多くの人が『呪い』の脅威にさらされている件について、アズレークと話したいと感じていた。
アズレークの部屋に行こうかと思ったら。アズレークが部屋に入ってきた。
◇
部屋に入ってきたアズレークはソファに腰をおろし、私にも座るようにとすすめた。アズレークの隣に座り、彼が話すことを聞いた私は……とても驚くことになる。
スノーを寝間着に着替えさせ、ベッドで休ませる間にアズレークが行っていたことは、林檎にかけられた『呪い』の確認。ルクソール・プレジャー・ガーデンズに戻り、他に被害者がいないかの確認。林檎を配っていた老婆の確認。これらを行っていたのだという。
「まず、林檎にかけられていた『呪い』。それは林檎に食べる者の呼気がかかった瞬間に、発動する。その『呪い』は食べた者を冬眠に近い状態にするものだ。体温が下がり、眠ってしまう。起こすには……『呪い』を解く必要がある」
呼気がかかった瞬間に発動!?
なんて分かりにくい『呪い』なのだろう。
アズレークが気づけたのは奇跡だと思える。
「次に、他に『呪い』の被害者がいないかだが……」
その後ろの方に、レモネードを手に入れたアズレークが歩いてくるのが見えた。
ここはレディファーストと騎士道精神が根付く西洋風の乙女ゲーム『戦う公爵令嬢』という世界だから。アズレークがいろいろしてくれるのは、そこまで驚くことではないのかもしれない。それでも彼は、この国の最強魔術師であり、王族と同格とみなされている人物なのだ。それなのにこんなに甲斐甲斐しく尽くしてくれるなんて。
レモネードを手にこちらへ歩いてくるアズレークを見て笑顔になると。
私の笑顔に気づいたアズレークも輝くような笑顔になった。
スノーは大きく口を開け、林檎にかぶりつこうとしている。
その瞬間。
アズレークの顔から笑顔が消えた。
何かを叫んでいる。
え、何!?
何が起きたのか理解しようとすると。
赤い林檎が地面に転がる。
林檎の側面には小さな歯型が残り、スノーが齧った後だとよく分かった。
同時に。
スノーの体が私の方へと倒れてくる。
全てがスローモーションのような出来事に感じたが。
「パトリシア、スノーの口の中の林檎を取り出せ!」
アズレークの叫びに、慌てて、スノーの顔を持ち上げた。
そこで出そうになる悲鳴を堪え、口を開けさせ、すぐに林檎のかけらを取り出し地面に捨てる。
「スノー、スノー、どうしたの!?」
さっきまであんなに元気だったのに。
その顔には細い血管が浮き上がり、目を閉じ、グッタリしている。
その口と鼻に手をかざすと呼吸はしていた。
手首に触れると脈も感じる。
ただ、手がとても冷たい。
何が起きているか分からない。
治癒の魔法でどうにかできるの?
青ざめ、手をかざそうとすると、駆け付けたアズレークが林檎を拾い、取り出した布でくるんでこちらへ駆け寄る。
「アズレーク、スノーが、急に」
「気づくのが遅かった。まさか『呪い』がかけられていたなんて」
アズレークが歯ぎしりしながらスノーを抱え上げ、いくつかの呪文を唱える。それを終えると私を見た。
「パトリシア、屋敷に戻る。どこでもいい。私につかまるんだ」
頷いて立ち上がり、腕を掴んだ次の瞬間。
スノーの部屋に戻っている。
アズレークはスノーをソファに寝かせた。
「パトリシア、メイドを呼び、スノーの服を着替えさせ、ベッドで休ませて欲しい。私はこの林檎にかけられていた『呪い』を確認する」
「分かりました」
アズレークはすぐに部屋を出て行き、私はメイドを呼んだ。
すぐに部屋に来たメイドは、スノーを寝間着へと着替えさせてくれる。それを手伝いながらなぜ『呪い』が?と起きた事態について考えることになった。
アズレークは、『呪い』が林檎にかけられていたと言っている。ということは犯人は……ルクソール・プレジャー・ガーデンズにいた林檎を配っていた老婆?
老婆は……ニコニコとしていた。紫色のフードを被り、ローブを着たその姿は魔法使いのおばあさんのように見えた。『呪い』を林檎に込めているような人物には見えなかった。
だがもし、あの老婆が『呪い』をかけた犯人なら……。
大変なことに気づく。
あの老婆は沢山の人に林檎を配っていた。スノーのように『呪い』を受けてしまった人が沢山いるのではないか?
「パトリシア様、湯たんぽをお持ちしました」
メイドの声に我に返る。「ありがとう」と言って湯たんぽを受け取った。ガレシア王国に湯たんぽは存在していなかった。だがスノーが寒がりなので、湯たんぽを思い出し、メイドに頼み用意してもらったのだ。今ではスノーが毎晩寝る時に湯たんぽを使っていた。
メイド達がスノーをベッドに寝かせたので、その側に湯たんぽを置く。ブランケットと掛布団を重ねてかけ、ベッドを整えた。
スノーの様子に変化はなく、相変わらず体は冷たいが、湯たんぽは置いているし、暖炉もついている。ひとまずさっき気がついた、多くの人が『呪い』の脅威にさらされている件について、アズレークと話したいと感じていた。
アズレークの部屋に行こうかと思ったら。アズレークが部屋に入ってきた。
◇
部屋に入ってきたアズレークはソファに腰をおろし、私にも座るようにとすすめた。アズレークの隣に座り、彼が話すことを聞いた私は……とても驚くことになる。
スノーを寝間着に着替えさせ、ベッドで休ませる間にアズレークが行っていたことは、林檎にかけられた『呪い』の確認。ルクソール・プレジャー・ガーデンズに戻り、他に被害者がいないかの確認。林檎を配っていた老婆の確認。これらを行っていたのだという。
「まず、林檎にかけられていた『呪い』。それは林檎に食べる者の呼気がかかった瞬間に、発動する。その『呪い』は食べた者を冬眠に近い状態にするものだ。体温が下がり、眠ってしまう。起こすには……『呪い』を解く必要がある」
呼気がかかった瞬間に発動!?
なんて分かりにくい『呪い』なのだろう。
アズレークが気づけたのは奇跡だと思える。
「次に、他に『呪い』の被害者がいないかだが……」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,198
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる