上 下
198 / 251
【続編】

86:それだけでは済まないはず

しおりを挟む
激しい呼吸により魔力を奪おうとした。
それに気づいたアズレークは……。

「まさか……、触れられたのか? 番(つがい)の証である逆鱗に?」

私が返事をするより前に。

「だからか。ここに近づくにつれ、パトリシアの気配を強く感じた。逆鱗に強い反応を感知したが……」

その後は絶句し、顔を伏せていたが。
突然、上半身を起こしたアズレークの黒曜石のような瞳は、赤黒く輝いている。
とてつもない怒りをその瞳から感じ、驚きつつも、この感情を鎮めなければ、大変なことになると思えた。

「アズレーク、落ち着いて、お願い」

必死にその体を抱きしめ、唇を重ねる。
アズレークの体はワナワナと震えていたが。

私を抱きしめると、力を抜き、ベッドへと横たわった。
苦しそうな呼吸を繰り返したアズレークは、呻くようにして私に尋ねる。

「……逆鱗に触れられた以外は……?」

首筋にキスを何度もされ、抱きしめられたのだが。
これは言うべきなのか……?

「魔力を奪うほど呼吸を激しくさせるのであれば。……逆鱗だけでは済まないはずだ」

アズレークは鋭い。
黙っていたら不安を煽るだけだ。
意を決し打ち明けると……。

「……消し炭にしておけばよかった」
「アズレーク! そんなこと言わないで」

アズレークは私の両手首を掴むと、上半身を起こした。
今にも赤黒く輝きそうな瞳で私を見下ろす。
ロレンソに対する怒りの言葉を口にすると思ったが……。

「……パトリシア、すまなかった。君をさらわれたのは私の落ち度だ。逆鱗に触れられた上に……、辛かっただろう」

黒い瞳は怒りではなく、悲しみと申し訳ないという気持ちで溢れている。その瞳を見ていると、私も泣きそうになってしまう。

「アズレーク……」

逆鱗に触れていいのはアズレークだけだ。
私を抱きしめていいのはアズレークだけだ。
首筋へのキスだってアズレーク以外にはされたくない。

「……私は短い睡眠でも魔力がかなり回復する。パトリシアは今、魔力切れだ。魔力を送ろう」

私が頷くと。
アズレークは掴んでいた両手首を離した。
代わりに自身の手の平と私の手の平をあわせ、そのまま指を折り曲げぎゅっと握りしめた。

静かに唇を重ねると、少し開いた口の隙間からゆっくりと魔力が流れ込んでくる。
唇や歯に熱い魔力の気配を感じる。
口腔内に入り込んだ熱の塊が、喉の奥へと伝っていく。
ここしばらくは。
レオナルドから魔力を送られていた。
アズレークから魔力を送られるのは久々だったが……。
改めて気づく。
アズレークの魔力は、レオナルドの魔力より熱くて重い。

心臓がドクドクと大きな音を立てている。
体がじんわりと温かくなっていく。
どんどん体温が上昇していき、口の中も喉も、温かくなる。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界じゃスローライフはままならない~聖獣の主人は島育ち~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:31,596pt お気に入り:8,866

王子殿下に強引に婚約破棄されました。その理由がすごい。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:411

わたくしは悪役令嬢ですので、どうぞお気になさらずに

恋愛 / 完結 24h.ポイント:440pt お気に入り:105

万年二番手令嬢の恋(完結)

恋愛 / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:2,125

この想いを受け止めて

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:14

処理中です...