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【続編】

85:呼吸

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チラッと私を見るアズレークの瞳には激情の炎が燃えている。これは火傷しそうと思った私は、そのままアズレークにぎゅっと抱きつく。アズレークはそんな私を抱きしめ、先程同様、深呼吸を繰り返した。そしてなんとか怒りをおさめてくれた。

「もう他にはないか、パトリシア?」
「はい、他には……」

「他にはないです」と答えかけたのだが。
とんでもないことを思い出してしまう。
私が勝手に魔法を使えないようにするため、ロレンソは魔力を奪うと私を脅した。その方法は呼吸を乱し、魔力を放出させるというものだったが……。

最初の時は、本当に一瞬だった。
だが温泉を楽しみ、サンルームで寛いでいた私のとろこへきたロレンソは……。

そうだ!
サンルームにいた時に天気は急変した。
つまりその時、ブラックドラゴンの姿になったアズレークはグレイシャー帝国にいた、もしくはグレイシャー帝国のすぐ近くの洋上にいた。ロレンソは逆鱗に触れたのだ。そしてそれに私は反応していたのだ。……これはバレている。

いや、バレるも何も、変なことはしていない。ただ呼吸を乱し、魔力を放出しただけだ。隠す必要はない。

「アズレーク、私、ロレンソ先生から魔法を使うことを禁じられていたの。でもこっそり魔力を鳥の形にして飛ばしたでしょう。それがバレてしまったの。そうしたらロレンソ先生は私から魔力を奪うと言って……」

「魔力を奪う……?」

そう呟くと、アズレークは黙り込む。
アズレークは魔力を奪う方法を知らないのだろうか?
じっとアズレークを見つめていると、考えながら口を開く。

「魔力は……魔法を使わなくても、体から少しずつ失われていく。でもそれはほんのわずかだ。魔力を奪うなどできるのか……? ああ、できるか。魔法を使わせればいい。いや、だが、パトリシアには魔法を使うことを禁じている。それなのに魔法を使わせるわけがない」

どうやら呼吸を乱すことで魔力を奪う方法を、アズレークは知らないようだ。その方法をアズレークに知らせようとすると。ハッと何か思いついたらしいアズレークが私を見る。

「……呼吸があるな。激しい呼吸をすれば、その呼気から魔力が逃げていく……」

さすが、というか、アズレークなのだ。すぐ気づいて当然なのかもしれない。
自力で方法を思いついた。そして私に尋ねる。

「激しい呼吸をさせることで、ロレンソはパトリシアから魔力を奪おうとしたのか?」

私が頷くと、アズレークは不安そうな顔になり、息を飲んだ。
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