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【続編】

10:鑑賞するだけで満足なのに、まさか……

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つい、「さま」をつけて呼びそうになった私を見たレオナルドは。

「パトリシアは相変わらずレオナルドの僕には慣れないようだね」

そう言ってこちらに視線を向けるレオナルドは……。

紺碧色の澄んだ瞳を私に向けた。
アズレークの瞳は黒曜石のようで、見つめられると吸い込まれそうだ。それに見つめ合うと魔法で抑えていても、逆鱗が反応そうになる。それだけブラックドラゴンの血が色濃く残っているということだろう。

でもレオナルドのこの紺碧の瞳は……。美し過ぎて思わず鑑賞してため息をついてしまう。恐れ多くて何もできない。

「レオナルドとアズレーク。どちらも同じなんだけどね……」

そう言ったレオナルドはすっとベンチに乗せていた私の手を握った。

「えっ」

思わず驚きの声を挙げてしまう。
同時に一気に緊張感が駆け抜け、背筋をピンと伸ばしている。
まさかここで手を握られるなんて思わなかった。
混乱する気持ちから、心臓が早鐘を打っている。

レオナルドは私の様子を見てクスクスと笑う。

「手を掴んだけなのに。どうしたのですか、その反応は」

優雅過ぎる仕草で脚を組み、こちらを流し目で見る。
カーッと顔が赤くなるのを自覚した。
美貌のレオナルドの言葉に、ドキドキするより恥ずかしくなってしまう。

「アズレークとレオナルドは同一だと分かっている。でも体が勝手にこんな反応をしてしまう。そんなところでしょうか」

レオナルドは冷静に私を分析している。
まさにその通りなのでコクコクと頷く。

「急ぐ必要はないでしょう。でも慣れていただかないと。婚儀の時はこの姿になりますらかね」

その通りだった。
ここ王宮では勿論。
自身の屋敷で過ごす時もレオナルドの姿なのだ。
彼の両親もレオナルドの姿が基本だと思っている。
私の両親と会った時もレオナルドの姿だった。

アズレークの姿を知る人は、どれぐらいいるのだろう?
そんな疑問もあるが、重要なことは――。

慣れる。

そう、レオナルドの姿に慣れる。
それは……必要なことだった。
アズレークの姿になるのはあくまで二人きりの時と決めているのだから。

「そ、そのレオナルドさま……いえ、レオナルド。頑張ります。慣れるようにしますから」

「そうだね。できる限り僕も協力するよ」

レオナルドが再び優美に微笑んだ。
アイスブルーの髪が陽光を受け、キラキラ輝いている。

美しい……。
この美貌は絶対に観賞用だと思う。

心臓の鼓動はまだ早い。

慣れるのだろうか。
全身黒ずくめのアズレークと違い過ぎるのに……。

軽やかな鳥の鳴き声が遠くで聞こえた。
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