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【視点更新】
アズレークの心境「90:ここでパニックを起こしてはいけない」(2)
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パトリシアの気配が感じられなくなると、底知れぬ絶望を覚えてしまう。
それでも王宮付きの魔術師レオナルドとして、すべきことがあった。ドルレアン公爵とその娘カロリーナの犯した罪を白日の下にさらす。そうすることがパトリシアを救うことになる。私の番(つがい)を助けることになるのだ。そう自分に言い聞かせ、一切の感情を遮断し、事にあたった。そして再びパトリシアの気配を感じ取った。
狂おしい程の喜びが、全身を駆け抜ける。
凍り付いた心が、優しい光で溶かされていく。
全身が温かさで、満たされていると感じる。
失われた世界に色と光を再び見出し、希望と喜びに包まれた。
王太子はパトリシアを愛していた。子供の頃から、ずっと。
私はすぐそばにパトリシアがいたのに、番(つがい)とは気づかなかった。今さら気づいても遅い。パトリシアもまた、王太子のことを愛しているのだから。
そばにいてくれれば。
たとえ、私の想いは実ることがなくても。
パトリシアがあの優しい笑顔を向ける相手は、私ではない。
聡明な琥珀色の瞳が見つめる先にいるのは、私ではない。
あの唇に触れることができるのは、私ではない。
それならばせめて。
同じ王宮にいて、その姿をたまに目にすることができ、毎日その存在と無事を確認できれば、それでいい。それにもう、アズレークの姿になることはないだろう。大丈夫。抑えきれる。
このレオナルドの姿であれば。
◇
「もう落ち着いたな。私はこれで行くよ」
「あ、あの、待ってください」
掴んだ袖を申し訳なさそうに離したパトリシアを見た瞬間。
何も言わずに抱きしめ、あの場から連れ去りたいと思っていた。
呪いも、王太子も、王宮も、魔術師としてのレオナルドも。
すべてを忘れたいと思った。
すべてを失っても構わないと感じていた。
ただ、パトリシアだけを欲しい、そう願っていたのに。
「……なんだ?」
そう冷たく言うことしかできなかった。
あの時のパトリシアの、一瞬見せた悲しそうな瞳。
思い出すと胸が張り裂けそうになる――。
ハッとして目が覚めた。
連日、ドルレアン公爵とその一族郎党の対処に追われ、ベッドで横になり眠ることもなかった。執務机に向かい、頬杖をついたまま、眠っていたようだ。
少し。
体を横にした方がいいだろうか。
そう思い、椅子から立ち上がりかけたその刹那。
心臓を鷲掴みにされたような心地になり、動けなくなった。
何が、何が起きている……?
震えを感じる。でもこれは私の震えではない。
これは――。
パトリシア。
彼女の身に何かが起きている。
今すぐ、彼女の元へ向かわなければならない。
執務室に飛び込んできた騎士が叫ぶ。
「魔術師レオナルド様、大変です! ゴメス伯爵を尋問した結果、刺客が放たれていることが判明しました。王太子様の視察に紛れ込ませた、ドルレアン公爵の息のかかる騎士の口封じのためです。そしてベラスケス公爵の令嬢パトリシアの殺害も命じたと、白状しました」
報告を終えた騎士の前に、魔術師レオナルドの姿はなかった。
だが、そこに彼はいたはずだ。
なぜなら、彼が手にしていた書類が、ゆらりゆらりと絨毯の上に落ちていったのだから。
あとがき:
ひとまず視点更新はここまでですが、読者様からリクエストがあればまた更新あるかもしれません。あの時、あの登場人物はどんな心境だったか知りたい!などありましたらお知らせくださいませ。
この後、続編スタートですが、必死の投稿を振り返り、スマホやアプリの読者様のことを考えると、1話あたりの文字数が……多過ぎるのではと思いました。もう少しサクサク読めるよう、続編では調整いたします! もしかしてあらすじも長い……でしょうか? とにかく初めてなので手探りです(汗)。
ということで引き続き温かく見守っていただけますと幸いです。
何卒宜しくお願い致します☆
それでも王宮付きの魔術師レオナルドとして、すべきことがあった。ドルレアン公爵とその娘カロリーナの犯した罪を白日の下にさらす。そうすることがパトリシアを救うことになる。私の番(つがい)を助けることになるのだ。そう自分に言い聞かせ、一切の感情を遮断し、事にあたった。そして再びパトリシアの気配を感じ取った。
狂おしい程の喜びが、全身を駆け抜ける。
凍り付いた心が、優しい光で溶かされていく。
全身が温かさで、満たされていると感じる。
失われた世界に色と光を再び見出し、希望と喜びに包まれた。
王太子はパトリシアを愛していた。子供の頃から、ずっと。
私はすぐそばにパトリシアがいたのに、番(つがい)とは気づかなかった。今さら気づいても遅い。パトリシアもまた、王太子のことを愛しているのだから。
そばにいてくれれば。
たとえ、私の想いは実ることがなくても。
パトリシアがあの優しい笑顔を向ける相手は、私ではない。
聡明な琥珀色の瞳が見つめる先にいるのは、私ではない。
あの唇に触れることができるのは、私ではない。
それならばせめて。
同じ王宮にいて、その姿をたまに目にすることができ、毎日その存在と無事を確認できれば、それでいい。それにもう、アズレークの姿になることはないだろう。大丈夫。抑えきれる。
このレオナルドの姿であれば。
◇
「もう落ち着いたな。私はこれで行くよ」
「あ、あの、待ってください」
掴んだ袖を申し訳なさそうに離したパトリシアを見た瞬間。
何も言わずに抱きしめ、あの場から連れ去りたいと思っていた。
呪いも、王太子も、王宮も、魔術師としてのレオナルドも。
すべてを忘れたいと思った。
すべてを失っても構わないと感じていた。
ただ、パトリシアだけを欲しい、そう願っていたのに。
「……なんだ?」
そう冷たく言うことしかできなかった。
あの時のパトリシアの、一瞬見せた悲しそうな瞳。
思い出すと胸が張り裂けそうになる――。
ハッとして目が覚めた。
連日、ドルレアン公爵とその一族郎党の対処に追われ、ベッドで横になり眠ることもなかった。執務机に向かい、頬杖をついたまま、眠っていたようだ。
少し。
体を横にした方がいいだろうか。
そう思い、椅子から立ち上がりかけたその刹那。
心臓を鷲掴みにされたような心地になり、動けなくなった。
何が、何が起きている……?
震えを感じる。でもこれは私の震えではない。
これは――。
パトリシア。
彼女の身に何かが起きている。
今すぐ、彼女の元へ向かわなければならない。
執務室に飛び込んできた騎士が叫ぶ。
「魔術師レオナルド様、大変です! ゴメス伯爵を尋問した結果、刺客が放たれていることが判明しました。王太子様の視察に紛れ込ませた、ドルレアン公爵の息のかかる騎士の口封じのためです。そしてベラスケス公爵の令嬢パトリシアの殺害も命じたと、白状しました」
報告を終えた騎士の前に、魔術師レオナルドの姿はなかった。
だが、そこに彼はいたはずだ。
なぜなら、彼が手にしていた書類が、ゆらりゆらりと絨毯の上に落ちていったのだから。
あとがき:
ひとまず視点更新はここまでですが、読者様からリクエストがあればまた更新あるかもしれません。あの時、あの登場人物はどんな心境だったか知りたい!などありましたらお知らせくださいませ。
この後、続編スタートですが、必死の投稿を振り返り、スマホやアプリの読者様のことを考えると、1話あたりの文字数が……多過ぎるのではと思いました。もう少しサクサク読めるよう、続編では調整いたします! もしかしてあらすじも長い……でしょうか? とにかく初めてなので手探りです(汗)。
ということで引き続き温かく見守っていただけますと幸いです。
何卒宜しくお願い致します☆
応援ありがとうございます!
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