上 下
44 / 251

44:聖女さま、お願いがあります

しおりを挟む
二階へと続く階段の辺りに、長身で、光り輝くシルバーブロンドの髪が見える。毛皮のついた蒼いマントには、背中に王家の紋章が刺繍されている。

あれは、アルベルト……!

常に背筋が伸び、優雅な雰囲気を醸し出しているはずのアルベルトが、今は騎士に支えられ、階段をのぼっている。

え、具合が悪いの……?

気になるが、ミネルバは見当たらないし、勝手な行動はできない。仕方なくそのまま、まかない部屋に戻った。

「オリビアさま、あれが王太子さまですか?」

食事を再開させたスノーが、私に尋ねる。

「ええ、そうよ。なんだか元気がなかったわね。長旅で疲れたのかしら」

「ゴーストとは違う何かが、王太子さまに憑りついているように見えましたよ」

「!? スノー何か見えたの!?」

するとスノーは、コクリと頷く。

「なんというか、不穏なオーラみたいなものに、全身が包まれそうになっています」

「私には何も見えなかったわ……」

一体、アルベルトの身に何が起きているのだろう?
ゴーストとは違う何かって、何……?
しかも憑りついているって……。
それが具合の悪さの原因なのだろうか?

その時だった。

バタバタと足音がして、私達のいる部屋の扉が、突然開け放たれた。

「聖女さま、お願いがあります」

力強い声と共に部屋に飛び込んできたのは、乙女ゲー『戦う公爵令嬢』に登場する攻略対象の一人、三騎士の中の「槍の騎士」と言われるマルクス・アレマンだ!

三騎士というのは、王太子を守る三人の騎士で、剣の騎士・弓の騎士・槍の騎士がいる。それぞれの武器で国内一の腕前を持つと言われている。

槍の騎士であるマルクス・アレマンは庶民の出であるが、とにかく槍の腕が立つ。100メートル先にいたイノシシを、槍一本でしとめたことが認められ、見習い騎士になった。その後は槍以外の武器でも力を発揮し、王太子の三騎士の一人に抜擢された。

風貌はとにかくワイルド。ウルフヘアの髪はブルグレーで、瞳は金色。健康的な肌色で、全身にくまなく筋肉がつき、贅肉はゼロに等しい。身長も2メートルに届く高さで、体力もある。それなのになかなか肌を見せないので、ファンをヤキモキさせたキャラだ。

今もロイヤルブルーの軍服に、裏地はグレー、表はネイビーカラーのマントを羽織り、足元は茶色の革のロングブーツを履き、きっちり肌が隠されている。

そのマルクスが私の腕を掴み、懸命の表情で「今すぐ、アルベルト王太子を見て欲しい」という。

いきなりアルベルトと対面するという状況に、私は戸惑いながらも、とりあえず席を立ち、スノーを見る。するとマルクスがスノーに気づき、私に尋ねる。

「この子供は?」

「私の従者です。彼女にはゴーストが見える不思議な力があるので、一緒に連れて行きたいのですが」

「……よかろう」

マルクスはそのまま私の手をつかみ、部屋を出ると、一目散に階段をのぼっていく。

な、なんて速さ。

アルベルトがいるであろう部屋についた時、私は息が切れていた。

私の後ろでスノーも、ぜー、ぜー言っている。

「こっちだ」

そのままマルクスに腕をひかれ、向かったのは……。

浴室!?
……!
もう心臓が止まるかと思った。

まず目に飛び込んできたのは、三騎士の一人「剣の騎士」ミゲル・ロペス・フォルネーゼだ。

襟足の長い黄金色の髪、切れ長で澄んだムーングレイの瞳。透明感のある肌に鼻梁の通った鼻。潤いを感じさせる艶のある唇。

均整の取れた体は彫像のような美しさで、特に脚の長さが際立つ。

マルクスと同じ軍服を着ているが、裏地はグレーで表はシルバーホワイトのマントを羽織っている。

公爵家の次男であるが、家督を継ぐ予定がないことから武術を極め、騎士として研鑽を積んできた。特に剣の腕が立つことから、三騎士の花形・剣の騎士に抜擢された。

王道の騎士を行く容姿と性格のため、ファンの間では、「最も薔薇の背景が似合う攻略対象」と言われていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

あなたの子ですが、内緒で育てます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:568pt お気に入り:5,643

BL短篇集

BL / 連載中 24h.ポイント:333pt お気に入り:80

婚約破棄を望んでいたのでしょう?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:908pt お気に入り:3,490

亡くなった王太子妃

恋愛 / 完結 24h.ポイント:376pt お気に入り:3,356

処理中です...