上 下
27 / 251

27:君には刺激が強すぎたと思う

しおりを挟む
アズレークが魔法で作りだしたモンスターゴーストは……実に不気味だった。

巨大なハエみたいなものだったり、毒蛇のような姿だったり、二足歩行するヤギだったり……。

その姿を見た瞬間、あまりのおぞましさについ動きが止まってしまう。

「オリビア、また動きが止まっている。それだと君がモンスターゴーストにやられてしまう」

そんな風に注意を受けることが何度もあった。自分でもしっかり動かなければと思うのだが、モンスターゴーストはとにかく気味が悪く……。

結局、今日は座学なしで、一日がかかりでモンスターゴーストと対峙することになった。

お昼には、スノーやメイドが執事と共に、昼食を差し入れてくれた。

午後も引き続き森で練習をするという私にスノーは「頑張ってください」と、何度もエールを送ってくれる。

こうして午後も懸命に練習に励んだ結果。

なんとか撃退できるようになった。
撃退できるようになったのだが……。
それは塩水に満たされた聖杯を投げつけるという撃退方法。

間違った方法ではないが、かなりの荒技で、これで大丈夫なのかと思っていると……。

「オリビア、今日は一日よく頑張った。聖杯を投げつけて撃退する。この方法でいいのかと不安になっているかもしれない。でも、これで問題ない」

「そうなのですか!?」

驚く私の頭に、アズレークが優しく触れた。
何気ない動作だが、私の胸はキュンとしてしまう。

「モンスターゴーストは動きが鈍い。だから聖杯に聖水を……塩水で満たす時間はちゃんとある。聖杯を投げつけず、落ち着いてふりまくこともできる。でも今回私はスパルタで、魔法で作りだしたモンスターゴーストの動きを早くしていた。実際のモンスターゴーストを見たら、その緩慢な動きに驚くだろう」

私の頭から手をはなしたアズレークは、さらに申し訳なさそうな顔をする。

「モンスターゴーストは見ての通り、不気味な姿をしたものが多い。今日、一日がかりで見せたモンスターゴーストが、文献で紹介されているすべてに等しい。実はね、オリビアに見慣れてほしいという思いがあった。一度見たことがあるモンスターゴーストであれば、気味が悪いと思っても、初めて見た時より素早く反応できるはずだから」

「な、なるほど。確かに最後の方は、もう麻痺してきたというか……。不気味さを通り越して、なんだか愛嬌があるように見えました」

するとアズレークが私の腕を掴んだ。

「ごめん、オリビア。モンスターゴーストに愛嬌を感じるなんて……。君は聖女でもない、元はただの公爵令嬢。そんな君には刺激が強すぎたと思う」

「いえ、大丈夫ですよ。見慣れることで動けるというのは、事実だと思いますから」

「君は……強いな」

アズレークの細い指が、私の頬に触れた。
当然のように、心臓がドクンと跳ね上がる。
黒曜石のような瞳は、夕方の曇り空の下でも、輝いて見える。

思わず、その瞳に吸い込まれそうになる。

「……暗くならないうちに帰ろう」

すっと私の頬から指を離し、視線を逸らすと、アズレークは馬が待つ場所へと歩き出した。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令嬢は家族に支えられて運命と生きる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:65

処理中です...