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時には知識より必要なこと

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【もしもしぃッ!?】

 数回のコールの後にスマホの向こうからスピーカーにしたのかと思うくらいの大声が聞こえ、思わず一つしかないスマホを握り潰したくなったのをなんとか堪えた。

「やかましいぞ、親父殿」

【悪かった、謝るからそんな他人行儀な呼び方はやめてくれ……って、なんかそっちうるさくないか?】

 勢いに任せた割に早くも弱気になる我が父親。ファンタジー系が好物な父さんに話を聞けばもしかしたら良い意見が聞けるかもしれないと思い電話した。

「あぁ、父さんならわかると思うから説明省いて話すけど、今絶賛魔物と戦闘中」

【マジか!どんなの?狼とかゴーレムとか?それとも竜と戦っちゃってる?】

 めっちゃグイグイくるじゃん。アニメとか漫画好きだとは知ってたけど、まさかここまでとは……まぁ、兎にも角にも話が早くて助かるし、何かアドバイスは貰えそうだな。

「蛇っぽいやつだよ。八岐大蛇って知ってるだろ?八本の首があって東京ドームに収まるかどうかぐらいの大きさがある上に、それぞれ魔法の属性を口から吐いて飛ばして攻撃してくる奴だ。しかも真っ二つにしてやったのに平然と生きてて再生しようとしてやがる厄介な奴だ」

【何それスゲー見たい】

 我が子のピンチかもしれない状況なのに完全に他人事のような父親の言動に呆れてしまう。

「だったら後で動画でも撮って送るよ……送れるかわからんけど。それよりも聞きたいことがあるんだけど」

【その状況で聞きたいことって言ったら、どうやってそんな生命力の強い奴を殺すかってところか?】

「本当に察しが良くて助かるよ。何か方法はある?」

 するとすぐに答えてくれるかと思ったスマホの向こうの父は悩むようにうなだれるような声を出す。

【……いや、父を頼ってくれるのは嬉しいんだけどさ、あんまりためになるような答えはあげられないかもよ?】

「それはなん――でっと」

 飛んでくる蛇からの攻撃を避けつつ聞き返す。

【なんでって、そりゃお前……俺が好きな漫画やアニメはあくまで『人が考えた創作物』だからだよ。たしかに異世界だとか魔力だとか魔物ってワードは同じだけどさ、その作品によって不老不死の倒し方ってのは千差万別で色々あるのよ。例えば体のどこかにある核を壊さない限り絶対にしなないとか心臓を別の場所に保管してあるとか……場合によっては相性的に特定の人物じゃないと絶対に倒せなかったりもする】

「えっと……つまり?」

【……手探りで頑張ってくれ、としか】

「マジか」

 死なない相手を倒せとか面倒な……でもこんな奴をこのまま野放しにするわけにもいかないし、やるしかないんだけど。

【まぁ、こうやって最中に電話してくるくらいだ、苦戦するほどじゃないんだろ?】

「そうっちゃそうだけど……」

【だったらバラバラにするなり圧し潰すなりして一度徹底的にやっちまえ!それでも死なないってんなら別の方法を探すんだ。その世界は魔法の世界なんだし、もしかしたら特攻効果のある魔法があるかもしれないだろ?】

 そんな父さんの言葉に「あぁ」と自然と納得した声が自分の口から漏れ、次第に笑いが込み上げてきた。

「そうだった、まだ真っ二つに斬った『だけ』だったな。俺としたことが、それで生きてたってだけで動揺しちまってたみたいだ」

【それでこそ俺たちの息子だ。異世界だとか魔法だとか気にせず、いつも通りやり過ぎちまえ。話はそれからだろ?】

 電話越しで父が笑っているのがよくわかる声色を聞いて、心のどこかで安堵した気がした。父さんは俺がいなくなっても父であることに変わりがないことに安心感を覚えたのかもしれない。
 そして「じゃあ」とか「またな」という別れの挨拶も口にせずに父さんの方から電話を切った。特にそれに対して不満もなく、スマホをポケットに戻した。

「……さて、弱点はわからないままだったが、別の案が浮かぶまではコイツをぶちのめすとするか」

「あの、アニキ?」

「なんだ?」

 ジルが背中で何か言いにくそうにし、恐る恐る聞いてきた。

「その……スマホってやつでアイツの弱点は探れないんですか?」

「…………あっ」

 自分が今まさに使っていたスマホで「魔物の弱点を調べることができるかも」という可能性を完全に忘れていた。
 まさか敵の弱点をスマホで調べるとかゲームじゃあるまいし……なんて考えがどっかにあったからかもしれないけれど、改めて考えると凄く恥ずかしくなってきたぜチクショウ。

「……まぁ、せっかくの死なない敵なんだし、少しくらい遊んでも構わないよな?」

 ただの娯楽。そう後付けの言い訳をジルに言うフリをして自分を誤魔化す。
 そんな言ってて悲しい言い訳にジルは笑顔で返してくる。

「はい!アニキの強さ、もっと近くで見せてください!」

 知ってか知らずか、微笑ましくもある彼の愚直な素直さに笑ってしまう。

「うっし、それじゃ第二ラウンド開始といくか!」

 話をしているうちに完全に元通りになった八首の蛇。……そういえばコイツの名前は何て言うんだ?
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