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三年生
128 私の進む道
しおりを挟む私にとって、魔法学園最後のサマーパーティーが始まった。
会場には、色とりどりのドレスを身を纏った女生徒達と、慣れぬ正装に身を包んだ男子生徒達が集まっている。
「踊ろう、シェリル」
今日のウィルフレッド様は髪色と同じ藍色に黒い刺繍が入ったフロックコート。
ちなみに私も藍色に黒い刺繍が入ったドレスだ。
メーデイア公爵家が公式の場で身に付ける色らしい。
まだ婚約者なのに、見事なくらいお揃い感満載でちょっと恥ずかしい。
差し出された手に私の手を重ねると、ウィルフレッド様の温もりを感じて胸がドキドキした。
ウィルフレッド様にエスコートされてダンスホールに出ると、レオナルド殿下がディアナ王女と、アマーリエ様がライリー様と踊っているのが見えた。
オリビア様はユラン様と踊っている。
仲良し三人娘とマチルダ様がお食事スペースで楽しそうに何か食べているのも見えた。
「シェリル、エルダーから手紙が来たんだって?」
ウィルフレッド様が踊りながら小さな声で聞いてきた。
「はい。来年の春には子供が生まれるって書いてありました。幸せそうで良かったです」
「う、うん」
エルダー様のことはみんながあまり教えてくれないから知らなかったけど、いつの間にやら結婚していたらしい。
シュトレ公爵家の血を絶やさないためと書いてあったけど、文面から奥さんを大切にしている様子が伺えた。
私のせいじゃないと分かってはいても、何となく罪悪感があったから、エルダー様が幸せそうで本当に良かったと思う。
「そ、それで、私達の結婚なんだけど…」
「それは三年後です。ウィル様も私も魔術師団の仕事に慣れてからです」
「う…うん」
私とウィルフレッド様の結婚は三年後に決まった。
ウィルフレッド様とアントレーネ様はもっと早くしたいみたいだけど、これは譲れない。
「結婚はまだですけど、魔術師団にはメーデイアのお屋敷から通うことになってるんですから、毎日一緒ですよ」
魔術師団にも寮はあるけど、今まで女性魔術師団員がいなかったので男の人ばかりなのだ。
それでもいいと言ったんだけど、ウィルフレッド様に猛反対されてしまった。
さらに、また誘拐されたら大変だから警備のしっかりしているメーデイア邸から通うようにとレオナルド殿下からお達しが出てしまった。
「それはそれで生殺しなんだけど…」
ウィルフレッド様がボソボソと呟いた。
「結婚は三年後です!」
ピシリと言い切った私を見ながら、ウィルフレッド様が切なげな溜息を吐いた。
ウィルフレッド様と二曲踊った後、レオナルド殿下と無理矢理踊らされ、続けてユラン様とも踊り、さらにライリー様に持ち上げられてグルングルン回された。
いや、何で?
「目…目が回る~」
フラフラとよろける私をガシッと支える手。
見るとアマーリエ様だった。
結構力強い。
「大丈夫?シェリル」
「大丈夫じゃありません~」
「もう!ライリー!何でシェリルを持ち上げてグルグル回ったりしたの!」
「すまん。領地の子供達があれやると喜ぶから、つい」
「シェリルは小さいけど子供じゃありませんわ!」
アマーリエ様、小さいは余計です。
って突っ込みたいけどそれどころじゃない。
世界が回ってる~~~。
「シェリル!」
ウィルフレッド様が慌てた様子で駆け付けてくれた。
「ああ、ウィル。悪いけどシェリルをそこのテラスで休ませてあげて頂戴」
「うん。シェリル大丈夫?」
「うっ…気持ち悪くなってきた」
思わず口元を抑えると、フワリと体が浮いて目の前にウィルフレッド様の黒い瞳があった。
「!!!」
お姫様抱っこだ!!!
「っ!ウィル様!下ろしてください!」
顔が近い!
「駄目だ」
ウィルフレッド様はすげなくそう言って、私を抱えたままテラスに向かう。
お姫様抱っこされた私に、周囲の生暖かい視線が降り注ぐ。
去年のサマーパーティーでもこんなことあったよね?
二年連続お姫様抱っことか恥ずかしすぎる。
顔が熱くなるのを感じて、思わずウィルフレッド様の胸に隠れるようにして目を閉じた。
「少し魔力を流そうか?」
テラスのベンチに私を下ろし、心配そうに私の顔を覗き込むウィルフレッド様。
「だっ駄目です!」
「え?どうして?」
慌てて拒否した私にウィルフレッド様が驚いた顔をする。
「最近変なんです」
「変って何が?」
「前はウィル様の魔力で気持ちよくなって眠くなったのに、最近は体が熱くなったり心臓がバクバクして息が苦しくなるんです」
「!!!」
そうじゃなくてもお姫様抱っこで顔が熱くてドキドキしてるのに、今ウィルフレッド様の魔力を流されたら、余計におかしくなりそうな気がする。
「あ…そ、そうなんだ。それは…えっと…」
「?」
何だかウィルフレッド様が挙動不審だ。
「の、飲み物持ってくる!」
そう言って挙動不審なウィルフレッド様がテラスから急ぎ足で去って行った。
その後ろ姿を見ながら私は溜息を吐いた。
ウィルフレッド様は積極的になった。
一年生の時からずっと私が好きだったと言うわりに、碌に話したこともなかったくらい見ていただけだったくせにだ。
さらに去年の合同遠征実習の後からやたら耳元で話しかけてきたり、手や頬に口付けをしてきたりするようになった。
最初は恥ずかしくて逃げてしまっていたけど、レオナルド殿下からそんなに逃げたらウィルが可哀想だと苦言を呈されてしまった。
それで頑張って耐えるようにしていたら、今年に入って壁ドンや顎クイをされるようになった。
さすがにおかしいと思って問い詰めたら、レオナルド殿下とアマーリエ様に余計なお世話な指導をされていたことが判明した。
暇なのかな?
レオナルド殿下もアマーリエ様も公務に学業にと忙しい筈なのに、従兄弟と婚約者の関係を指導する程暇なのかな?
兄妹揃って私を暇つぶしに巻き込まないで頂きたい。
フゥッともう一度溜息を吐くと、私は夜の空を見上げた。
ウィルフレッド様の髪のような深い藍色の夜の空に、白い星々がチラチラと瞬く。
もう世界は回って見えない。
顔の火照りや動悸もおさまった。
流石にこの顔の火照りと動悸が更年期の症状じゃないことは分かる。
前世ではあんなことやこんなこともすでに経験済みだったのに、今の私はウブウブな思春期乙女にまで退化してしまっているようだ。
いや、今の年齢的には思春期乙女で正解なんだけど。
何をされても恥ずかしい。
やたらと恥ずかしい。
ちょっとしたことで死ぬほどドキドキしてしまう。
でも……
嫌じゃない。
ウィルフレッド様に触られるのも、壁ドンされるのも嫌ではない。
恥ずかしいだけで。
むしろ……
「シェリル」
ウィルフレッド様が小さなガラスの器を持って戻ってきた。
「あ!アイス!」
「うん。クラスの女子が飲み物よりアイスの方がシェリルが喜ぶって」
「はい!嬉しいです!」
私が喜ぶ顔を見て、ウィルフレッド様がいそいそと隣りに座る。
器を受け取ろうと手を伸ばしたら、アイスが盛られたスプーンが口元に差し出された。
「え?」
「はい、あーん」
「ええ?」
いや、何ですか?!
「じ、自分で食べられます!」
「駄目」
「えええー?!」
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パクンッとスプーンを口に入れると、冷たくて甘いミルクアイスが舌の上でトロンと溶けた。
「んんんんん~」
「美味しい?シェリル」
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「あ~~~ん」
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「ふふっ、そうだね」
私が笑顔でそう言うと、ウィルフレッド様も笑顔で私の口にアイスを運ぶ。
なんて素晴らしい!
氷の魔術を見つけてくれたウィルフレッド様に感謝だ。
ついでに海産物とか冷やして運べるようになれば、海から離れた王都でも燻製や塩漬けじゃない魚が食べられるようになるかもしれない。
そんなことを考えながら最後の一口になったアイスをもらおうと口を開けて待つ。
と、スプーンが私の前を素通りしてウィルフレッド様の口にパクンと入ってしまった。
「ええ?!最後のアイスー!」
ショックで呆然としていたら、ふいにウィルフレッド様の顔が近づいた。
「!!!」
ふにゅっと柔らかいものが私の唇に当たり、ニュルンと冷たくて甘い何かが口の中に入ってきた。
「~~~~~!!!」
つるんと出ていく何か。
いいいいい、今のナニ?!
見つめ合う目と目。
ウィルフレッド様の顔が赤く染まっていく。
多分私も赤くなっているだろう。
「あ、甘い…な」
「う…うん…」
目の前がチカチカするけど、落ち着け、私!
「シェリル」
そしてまた、ウィルフレッド様の顔がゆっくり近付いてきた。
「愛してる、シェリル……」
「!!!」
慌ててキュッと目を瞑ると、フニュンと柔らかいものが唇に押し当てられて……
甘いミルクの味がした。
過去も今も未来も繋がっている。
でも、辛かった過去の思いに囚われていたら先に進めない。
過去に受けた傷は消えないけど、私は前を向いて歩いて行こう。
私が進む道は、未来にあるのだから。
進もう
新しい道を探して
前に
前に………
fin
~~~~~~~~~~~~~~
これにて「王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください」は完結となります。
最後までお読み頂きありがとうございました。
お気に入り登録をして頂いた皆様、しおりをつけてくださった皆様、感想をくださった皆様、本当にありがとうございました。
初めての長編で体調的に辛いこともありましたが、こうして最後まで書き切ることが出来たのは皆様のおかげです。
一度ここで完結とさせて頂きますが、この後たぶん年明けに少しだけ、本編のあちこちでその存在だけをちらつかせていたヤツ視点のお話しを上げる予定でいます。
ちなみにざまぁではありません。
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新しいお話しも考えていますので、またお読み頂けると嬉しいです。
本当に本当に、ありがとうございました✨✨✨
むとうみつき
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