【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき

文字の大きさ
127 / 135
三年生

127 前へ進むために

しおりを挟む

「ハヒ~」

私は大きく息を吐き、まだまだ続く螺旋状に伸びた階段を見上げた。

「エレベーター……オリビア様にエレベーターを作って貰おう…」

私はそう呟きながら目線を足もとに移し、次の石段に足をかけた。


去年の春祭りに倒壊した研究棟を建て直す時、ついでに塔を作って欲しいと言ったのは、占星術をこよなく愛する呪術学の先生だ。

星を近くで見たかったらしい。

せっかくだからと塔の中心を階ごとに小分けにして、倉庫として活用出来るように設計された。

でもそのせいで、両側を石の壁に挟まれた螺旋状に延々と続く階段が出来上がってしまい、閉塞感が半端ないことになってしまった。

作られた当初は物珍しさから登る生徒が列をなしていたけど、気持ち悪くなったり目を回して途中棄権する人が続出して、今は騎士を目指す生徒が訓練と称して駆け上がるだけになっている。


「ヒィ~、やっと着いた~」

ヘロヘロになりながら何とか天辺まで登り切ると、目の前に広がるのは遮るもののない一面の青空。

「ハア、くらくらする」

塔の天辺は腰高の柵があるだけで、壁も天井もない。
両側を壁で挟まれた階段を延々と登って来た身には堪らない開放感だ。

「風魔法でシールドが張ってあるって聞いたけど、ちょっと怖いな」

そう言いながらも柵に手を掛け意を決して下を見ると、魔法学園が一望出来る大絶景が広がっていた。

校舎も、寮も、ライリー様と訓練したグラウンドも、マチルダ様と歩いた並木道も、朝の新しい光りを浴びて白く輝いている。



今日、私は魔法学園を卒業する。



三年間過ごした魔法学園を眼下に見ながら、早朝の清々しい空気を思い切り吸い込む。

ライリー様の体力テストから、毎日続けてきたランニング。

今日は最後にやりたいことがあって、わざわざ塔を登って来たのだ。


三年間、本当に色々なことがあった。

修平への想いを断ち切れず、がむしゃらに癒しの魔術の研究とバイトに明け暮れた一年生。

アマーリエ様の暇つぶしに巻き込まれて嫌がらせをされたり誘拐されたり、マチルダ様の家出を手伝ったりした激動の二年生。

友人達と学園生活を楽しみながら、魔術師見習いとして魔法の研究をしつつ、逃げるカルロス様を捕まえるのが上手になった三年生。

大変なこともあったけど、マチルダ様やクラスメイト達、オリビア様やディアナ王女と親しくなれたことは、私の人生の財産になると思う。
運命共同体も出来たことだし。


何より、結婚なんて考えていなかった私に、生涯を共にしたいと思える大切な人が出来た。


「朝からこんなに体力使って、サマーパーティーまでもつんだろうか」

あまりのヘトヘト加減にちょっと心配になる。

まだ七時前だけど、朝食を食べ終わるとすぐに寮の食堂でドレスの着付け大会が始まるのだ。

着付け大会が終わったらウィルフレッド様が寮に迎えに来てくれることになっている。

仲良しの三人娘とマチルダ様は学園内にエスコートする男性がいないので、みんなで一緒に会場に向かうことにしたらしい。

ちなみに四人の中で婚約者がいないのは婚活令嬢だけだ。

そう、彼女の婚活は終わっていない。
卒業後は花嫁修行を兼ねて王宮侍女になることが決まっていて、狙うは王宮で働く文官だそうだ。



「さてと」

私はスカートのポケットから折り畳まれた紙を取り出した。

何度も開いては涙をこぼしたその紙は、ボロボロな上にデコボコと波打っていて、書かれた文字は掠れてすでに殆ど読めなくなっている。


『浮気男ざまあみろ計画』


と、書かれていた筈のその紙は、前世を思い出した私がこの世界で生きる為の道標だった。

「…なんか、懐かしい」

最近殆ど見ることがなかったその紙を見ていると、何ともいえない気持ちが心の奥から湧き上がってくる。



ふわり

と、前世の光景が蘇る。


白いモヤに包まれて細部は見えないけど、ずっとずっと悩まされてきたあの光景だ。

生まれ変わって世界まで変わっても忘れることの出来なかったあの出来事は、いまだに私を混乱させる。

救いなのは以前のように苦しくなったりしないことだろう。


私は目の前に現れた光景を吹き払うかのように大きく息を吐いた。


「でももう、引き返すことも立ち止まることも出来ないから」


声に出してそう言うと、私は手に持った『浮気男ざまあみろ計画』を、ゆっくりと、真ん中から引き裂いた。


辛いこともあったけど、この計画があったから今の私があるともいえる。

魔法の研究や勉強を頑張って、女性初の魔術師団入りを果たすことが出来たのは、この計画があったからこそだ。

でもこれから先は、浮気男にざまあみろと言ってやる為じゃなく、私自身の目標や幸せの為に生きて行きたいと思うから。


ピリピリと、細かく細かく裂いていく。


そして、小さな破片になった過去の私の道標。


「新しい道へ進もう」


決意を込めてそう呟くと、私は手のひらいっぱいに詰まれた小さな破片を、そのまま柵の外に差し出した。


「おお~!」


ヒラヒラフワフワ、小さな破片が風魔法のシールドに煽られて上に上に舞い上がる。


私の中に残った修平への想いを乗せて、朝の光を受けた破片がキラキラと瞬きながら上空へ消えていく。


「綺麗…」


空に消えていく破片を見ていたら、ふと、誰かに呼ばれたような気がした。


「?」

振り返ったけど誰もいない。


「………」

誰もいないけど、誰かいるような気がして落ち着かない。

幽霊?
こんな朝っぱらから?

「いや、幽霊なんていない!そして私に霊感はない!」

私は思いっきり頭を振って、足早に階段へ続くドアに向かった。

が、ドアを開けた瞬間、また呼ばれたような気がして振り返る。


「………」

やっぱり誰もいない。


どんなに目を凝らして見ても、青空に囲まれた何もない空間が広がっているだけ。


でも、何となく、

何か、懐かしい人がそこにいるような……




気のせいかもしれない。

気のせいだと思う。

でも……



じっと、誰もいないその空間に目を凝らす。

そこにいる。

何故か分からないけど、そう感じた。





「さようなら、修平」



口から、自然と言葉が溢れた。




気のせいかもしれない。

多分気のせいだ。



声が、聞こえた気がした。




私は誰もいないその場所に向かって小さく頷き、決意を込めて笑ってみせた。





さようなら、修平。

私は前に進むよ。





私は塔を後にした。


この先の道がどんなに辛くても、振り返ることも立ち止まることもしないと心に誓いながら。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ
ファンタジー
 2020.9.6.完結いたしました。  2020.9.28. 追補を入れました。  2021.4. 2. 追補を追加しました。  人が精霊と袂を分かった世界。  魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。  幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。  ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。  人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。  そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。  オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。

婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス
ファンタジー
王宮の広間は、冷え切った空気に満ちていた。  玉座の前にひとり、少女が|跪い《ひざまず》ていた。  エリーゼ=アルセリア。  目の前に立つのは、王国第一王子、シャルル=レインハルト。 「─エリーゼ=アルセリア。貴様との婚約は、ここに破棄する」 「……なぜ、ですか……?」  声が震える。  彼女の問いに、王子は冷然と答えた。 「貴様が、カリーナ嬢をいじめたからだ」 「そ、そんな……! 私が、姉様を、いじめた……?」 「カリーナ嬢からすべて聞いている。お前は陰湿な手段で彼女を苦しめ、王家の威信をも|貶めた《おとし》さらに、王家に対する謀反を企てているとか」  広間にざわめきが広がる。  ──すべて、仕組まれていたのだ。 「私は、姉様にも王家にも……そんなこと……していません……!」  必死に訴えるエリーゼの声は、虚しく広間に消えた。 「黙れ!」  シャルルの一喝が、広間に響き渡る。 「貴様のような下劣な女を、王家に迎え入れるわけにはいかぬ」  広間は、再び深い静寂に沈んだ。 「よって、貴様との婚約は破棄。さらに──」  王子は、無慈悲に言葉を重ねた。 「国外追放を命じる」  その宣告に、エリーゼの膝が崩れた。 「そ、そんな……!」  桃色の髪が広間に広がる。  必死にすがろうとするも、誰も助けようとはしなかった。 「王の不在時に|謀反《むほん》を企てる不届き者など不要。王国のためにもな」  シャルルの隣で、カリーナがくすりと笑った。  まるで、エリーゼの絶望を甘美な蜜のように味わうかのように。  なぜ。  なぜ、こんなことに──。  エリーゼは、震える指で自らの胸を掴む。  彼女はただ、幼い頃から姉に憧れ、姉に尽くし、姉を支えようとしていただけだったのに。  それが裏切りで返され、今、すべてを失おうとしている。 兵士たちが進み出る。  無骨な手で、エリーゼの両手を後ろ手に縛り上げた。 「離して、ください……っ」  必死に抵抗するも、力は弱い。。  誰も助けない。エリーゼは、見た。  カリーナが、微笑みながらシャルルに腕を絡め、勝者の顔でこちらを見下ろしているのを。  ──すべては、最初から、こうなるよう仕組まれていたのだ。  重い扉が開かれる。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

【完結】立場を弁えぬモブ令嬢Aは、ヒロインをぶっ潰し、ついでに恋も叶えちゃいます!

MEIKO
ファンタジー
最近まで死の病に冒されていたランドン伯爵家令嬢のアリシア。十六歳になったのを機に、胸をときめかせながら帝都学園にやって来た。「病も克服したし、今日からドキドキワクワクの学園生活が始まるんだわ!」そう思いながら一歩踏み入れた瞬間浮かれ過ぎてコケた。その時、突然奇妙な記憶が呼び醒まされる。見たこともない子爵家の令嬢ルーシーが、学園に通う見目麗しい男性達との恋模様を繰り広げる乙女ゲームの場面が、次から次へと思い浮かぶ。この記憶って、もしかして前世?かつての自分は、日本人の女子高生だったことを思い出す。そして目の前で転んでしまった私を心配そうに見つめる美しい令嬢キャロラインは、断罪される側の人間なのだと気付く…。「こんな見た目も心も綺麗な方が、そんな目に遭っていいいわけ!?」おまけに婚約者までもがヒロインに懸想していて、自分に見向きもしない。そう愕然としたアリシアは、自らキャロライン嬢の取り巻きAとなり、断罪を阻止し婚約者の目を覚まさせようと暗躍することを決める。ヒロインのヤロウ…赦すまじ!  笑って泣けるコメディです。この作品のアイデアが浮かんだ時、男女の恋愛以外には考えられず、BLじゃない物語は初挑戦です。貴族的表現を取り入れていますが、あくまで違う世界です。おかしいところもあるかと思いますが、ご了承下さいね。

処理中です...