【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき

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修平の夢

129 修平の夢① 〜後悔

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大変大変お待たせしてしまい、申し訳ありませんでしたm(_ _)m

ヤツ視点『修平の夢』
全六話になります。

朝夕六時に一話ずつ公開いたします。

よろしくお願いします。


※注意
ざまぁはありません




~~~~~~~~~~~~~~~~





夢を見た。


雨が振る中、金髪の小さな女の子が川を堰き止めていた大きな石を、振り上げた手から放たれた風でスッパリ二つに割る夢だ。


すごいな。
この子魔法が使えるんだ。

と、少し羨ましく思っていたら、少女が力尽きたようにパタンと倒れた。

少女の青白い頬に雨に濡れた髪が張り付いている。


大変だ!
誰か!誰か助けてやってくれ!!!



そう叫んで目が覚めた。




「痛っ……」

頭がズキズキ痛んで気持ちが悪い。

昨夜の酒がまだ残っているようだ。


半分だけカーテンが閉められた薄暗い居間。

酔う為だけに飲んだ、ビールの缶やワインの空き瓶が床に転がっている。

俺は寝ていたソファーからそっと身を起こした。


「仕事…行かなくちゃ…」

痛む頭を動かさないようにソロソロと手を伸ばし、テーブルの上に置かれた携帯を手に取る。

ー 今日は土曜日。仕事は休み。

いつの間にか止まっていたアラーム表示の下に書かれた文字を見て溜息を吐いた。


休みだった。


俺はそのままソファーに蹲り、下に落ちていた毛布を引っ張り上げてくるまった。




「お前、本当にダメ人間になったな」

「………」


二日酔いで朦朧とする俺を見下ろしながらそう言うのは、親友のヒロ。

三カ月前、一ヶ月後に結婚式を控えた恋人の直を『不慮の事故』で亡くし、ただ茫然と生きるだけになっていた俺を何くれとなく気にかけてくれている。

家が近所なこともあって、何かあった時の為に合鍵を渡しているからズカズカと部屋に入って来る。

今日も、仕事が休みだと一日寝てるか呑んでるかになる俺を心配して、弁当を買って来てくれたようだ。


「まだソファーに寝てんのか?」

そう言ってチラリと寝室のドアを見ながら、空き缶が並ぶテーブルにコンビニの袋を置いた。


あれ以来、俺は寝室に入っていない。

直と選んだベッドやこだわって買った肌触りの良い寝具には、忘れたくない直の姿と同時に、忘れたい俺の後悔が染み込んでいる。

あの日の全てを消せたらいいのに。


シャッとカーテンを開ける音がして、バンッと勢いよくベランダの戸も開けられる。

冷たい風が入って来て、思わず身をすくめた。

「寒い」

「たまには換気しろよ。酒とゴミと埃と…あとお前も!くっせーんだよ!」


俺は風呂場に放り込まれた。






直と書いてナオと読む。

その名の通り素直で真っ直ぐな直と出会ったのは、大学に入ってすぐの頃。

出来立ての友人に誘われて行った飲み会で、紹介された何人かの女の子のうちの一人だった。

値踏みを含むほかの女子達の笑顔と違い、屈託なく笑う直は可愛かった。


正直俺は、見た目は良い方だと思う。

小学生の頃から高校まで、何回も女の子に告白されたし、その内の何人かとは付き合ったこともある。

彼女になれば特別感もあってほかの子より優しくしたし、それなりのこともしたけど、彼女達が言うようにいつも一緒にいたいとは思えなかった。

男同士で遊ぶほうが楽しかったし、だったら彼女も一緒にみんなで遊べばいいと思っていた。

二人でいたいと言われたこともあったけど、そういう子とは段々距離が出来てしまった。

そのせいか、いつも最後は向こうから別れを告げられるか、自然消滅になることが多かった。

高校の時最後に付き合ってた彼女には、別れ際泣きながら責められた。
面倒臭くなって、しばらく彼女はいらないと思っていたから、女の目で俺を見ていない直の存在はありがたかった。

直も男とか女とか関係なくみんなでワイワイするのが好きで、気が合うなと思った。

なにより色を含んだ目線を送ってきたり、無闇に触ってきたりしない直の隣りは居心地が良かった。


でも、心配にもなった。

直は、素直なのはいいことだけど人の悪意に鈍いからホイホイと騙される。
真っ直ぐなのはいいことだけど、何故か斜めな方向にも真っ直ぐ突き進んで行くことがある。


「何にもしなくても稼げる方法を特別に教えてくれるって!面白そうだから行ってくる!」

「霊界と繋がってる占い師の先生に紹介してもらえるんだ!楽しみ~!」

いやいや。
怪しさ満点だろ?

何でついて行こうとすんの?

すぐ騙される直に呆れたけど、何でか放っておけない。

屈託のない笑顔を守ってやりたい。

だから直がおかしなことに巻き込まれないように、それとなく見守っていたのに。


「二個上の先輩にサークル誘われたんだ。今日飲み会があるって言うから行ってくる」

裏で有名なヤリサーだった。

「直!お前ふざけんなよ!警戒心ないにも程があるだろ!」

思わず声が大きくなってしまった。

「え?何怒ってるの?」

キョトン顔の直を見て、頭に血がのぼった。

「マジふざけんな!俺がどれだけ…っ!とにかく、今日の飲み会は行くな!サークルも駄目だ!」

驚いていた直の顔が一転して険しくなる。

「何で修平にそんなこと言われなきゃいけないの?」

「うるさい!とにかくその先輩も駄目だ!もう関わるな!」

「はあ?」

しまった、強く言い過ぎた。
と思った時にはもう遅かった。

「私が誰と関わろうとどのサークルに入ろうと、修平には関係ないでしょ!そんなこと言うなら修平こそ私に関わらないで!」

「あ!直!」

背を向けて走り去る直。

慌てて追いかけようとしたらヒロに止められた。

「あのサークルのことは俺が説明してくるから、お前も一回頭冷やせ」


その後、問題のサークルの実情を聞かされた直は俺に謝ってきてくれた。
俺も、焦ったあまり押し付けるような言い方になってしまったことを謝った。

自分でもあれは無いと思った。
いくら直を心配してたとはいえ、あんな風に強い言葉で直の行動を制限するようなことを言うなんて…。

でも直が、汚い男共の餌食になるなんて考えただけでも許せなかった。
はらわたが煮えくり返るってこういうことをいうんだと思った。

俺はそれとなく見守るのを止めて、なるべく直の側にいるようにした。

いつも一緒にいれば直の行動を制限することなく、何かあってもすぐに直を守れると考えたからだ。

直は可愛いのに無防備すぎる。


そう、直は可愛い。

パッと見はどこにでもいそうな女の子なのに、明るい笑顔やちょっとした仕草が目を惹きつけるし、素直なところも、たまに強気になって突っ走るところも堪らなく可愛い。

直が楽しそうにしてると俺も楽しくなるし、直が悲しげにしていると俺までなんだか悲しくなってくる。

だから、直には笑顔でいて欲しい。
素直で真っ直ぐなままでいて欲しい。

その気持ちはどんどん膨らんでいった。



「修平、いい加減告白したら?」

ある日、ヒロに言われた。

「は?」

意味がわからなかった。

「好きなんだろ?直のこと」

「え?」

「え?って、何?まさか自分で気付いてないとか言わないよな」

「き……」


……気付いてなかった。



それまで、告白されたことはあってもしたことはなかった。
付き合いたいとか、好きだとか、自分から思う相手はいなかった。


言われてみれば、直のことが心配だといいながら居心地のいい直の隣りを陣取り、あわよくば直の笑顔を独り占めしようと必死になって男共を牽制していた。

男女関係なくみんなで騒ぐのが好きだったのに、直と二人っきりの方が嬉しいと思うようになっていた。


直には、俺だけを見ていて欲しい。
俺の隣りで笑っていて欲しい。
可愛い直を独り占めしてしまいたい。


……そうか、俺は直のことが好きなんだ。


出会って半年。

やっと自分の気持ちに気がついた。






風呂場から出てきたら、ヒロがゴミを纏めてくれていた。

久しぶりに綺麗になったテーブルの上にヒロが買ってきてくれたコンビニ弁当を置いて、モソモソと食べる。

「飯くらい食えよ」

「今、食ってるだろ」

「ゴミ、酒ばっかりだったぞ。呑むなとは言わないけど、なんか食えよ」

ヒロはちょっとイラついたように言った。


ヒロはあの日、何があったのか知っている。

だから、直を失ってから抜け殻のようになってしまった俺に責任を感じてこうして面倒をみてくれている。


あの日、本当はヒロとあの女と三人で結婚式の二次会の打ち合わせをする予定だった。

でも、待ち合わせたカフェに来たのはあの女だけ。
ヒロは急な仕事で来れなくなったと聞かされた。

そして、お祝いを選ぶ参考にしたいから俺達の家を見せて欲しいと言われて、この部屋に招いてしまった。

女は泣きながら、ずっと俺のことが好きだったと言た。
一度だけでいいから思い出が欲しいと縋られた。

それが直への裏切りであると、ちゃんと考えれば分かったはずなのに、結婚という人生の一大行事を前に追い立てられるような焦りと言い知れない不安を抱えていた俺は、熱に浮かされたように流れに乗ってしまった。


ヒロはあの女の気持ちを知っていて、俺から直接断られれば諦めがつくだろうと送り出したらしい。
ずっと直一筋だった俺が、ほかの女に靡くわけないと思っていたそうだ。

実際、俺は直しか見ていなかった。
いつもの俺だったら、ほかの女にどんなに言い寄られても靡いたりしなかっただろう。

魔が差したとしか言いようのないあの日のあの瞬間。

体調不良で早く帰って来た直に見られてしまったのは、残酷な偶然だったのか、必然だったのか。


どちらにしても、すべては俺の意思の弱さが招いた結果だ。


そして、誰よりも愛しくて大切にしたかった存在を、傷付けて死なせてしまった。

親友のヒロにも、消すことのできない罪悪感を植え付けてしまった。


直もヒロも悪くない。

悪いのは俺だ。

それなのに俺は、自分の弱さも自分の罪も、直がいない現実も受け入れられず目を逸らし続けている。



俺は……

最低だ。

人間のクズだ。


死ぬなら、俺が死んでしまえば良かったのに。
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