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二年生 後期
50 門限は十八時
しおりを挟む「アンさん!セイラさん!」
「シェリル!」
「シェリルちゃん!」
二人にがっしりと抱きしめられる。
「貴女達がアンとセイラね。マチルダがお世話になったわね」
叔母さん…改め、フローラ様がそう言って、アンさんとセイラさんに微笑みかけた。
さっきうっかり叔母さんと呼んだら、私にはフローラという名前があるのよ!と名前呼びを強要された。
マチルダ様との血の繋がりを強く感じた。
「今日はこの二人に護衛を依頼したのよ」
フローラ様が私の方を見て、パッチンとウインクをした。
今日は、フローラ様が王都でお買い物をするとのことで、私もご一緒することになったのだ。
昨日、レオナルド殿下の執務室でうっかり眠ってしまった私が、自分の部屋で目を覚ましたのは夜遅い時間だった。
寝ている間にマチルダ様が部屋を訪ねて来てくれたらしく、会えなくて残念がっていたら、フローラ様がレオナルド殿下から私の外出許可をもぎ取って来てくれたらしい。
王宮から出た所で馬車が止まったからどうしたのかと思ったら、アンさんとセイラさんがいて驚いた。
「マチルダちゃんも、元気そうで良かったわ」
「シェリルは何でむくれてるんだ?」
「レオナルド殿下に門限は十八時までって言われてから、ずっとむくれていますのよ」
「当たり前です!」
久しぶりに会えたマチルダ様とのお買い物。
アンさんとセイラさんにだって話したいことが沢山あるのに、門限が十八時なんて早すぎる。
安全のために王宮で保護されているのは分かるけど、何で門限までレオナルド殿下に決められなきゃいけないんだ!
「まあ!本当に栗鼠のようね!」
プシュー
空気の抜ける音。
フローラ様が嬉しそうに私の頬を両手で挟んで押していた。
膨らんでいたらしい。
「さあ、時間は有限よ!行きましょう!」
フローラ様がそう言って、アンさんが私達と一緒に馬車に乗り、セイラさんは御者と御者台に座った。
「アンとセイラには感謝してもしきれないわ。私の可愛い姪…今は娘ね。マチルダのために色々動いてくれてありがとう」
「私からも改めてお礼を言わせてくださいませ。本当にありがとうございました」
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それでずっと忙しそうにしてたんだ。
「王都が嫌になったら、いつでもリーバイ領にいらしてね。優秀な冒険者は大歓迎よ」
フローラ様がちゃっかり自領にアンさん達を勧誘する。
思わずフローラ様を睨みつけた。
「マチルダ様を連れて帰る上に、アンさん達まで連れて行くつもりですか?」
「あら、マチルダちゃん。学園に戻るんじゃないの?」
そう、マチルダ様はフローラ様とリーバイ男爵と一緒に、領地に帰ってしまうのだ。
「ええ、学園は体調不良で休みになっていましたけど、改めて休学届けを出して来ましたの」
マチルダ様の失踪は表向きにはされていないけど、どうやら妹があちこちで話していたようで、噂が広まってしまっているらしい。
「レオナルド殿下から、噂が落ち着くまで復学は待つようにとお話しがありましたの」
マチルダ様も残念そうだ。
あと半期で卒業だったのに。
教師になると言っていたマチルダ様。
基礎教育は終えているけど、学園を卒業したほうが道は広がるだろう。
「レオナルド殿下が何か企んで…考えているようだったから、案外早く復学出来るかもしれなくてよ」
フローラ様、今、企んでるって言った?
「来年度復学出来たら、マチルダとシェリルは同級生になるわね」
フローラ様の言葉に、私とマチルダ様は顔を見合わせる。
「それは、楽しそうですわ!」
「マチルダ様!絶対来年度から復学してください!」
マチルダ様と同級生!
しかもマチルダ様は優秀だから、たぶんAクラス。
そうなったらクラスメイトだ。
「なんだか来年度が楽しみになってきました」
王宮に軟禁されて、王族だの後ろ盾だの面倒くさいことを言われて、ずっと沈みがちだった気持ちが少し軽くなった。
ガタンと音がして馬車が止まる。
「着いたみたいね。さあ、まずはお昼を食べましょう」
フローラ様がさっさと馬車を降りて行く。
「え?」
「まあ!」
馬車を降りて、私とマチルダ様は唖然とした。
「食べてみたかったのよ~、ここの揚げ芋!」
フローラ様が嬉しそうに私のバイト先だった宿屋に入って行った。
宿屋の食堂は貸し切りになっていて、フローラ様とマチルダ様と私、それにアンさんとセイラさんも一緒にお昼を食べた。
フローラ様は、旦那さん特製衣を纏った揚げ芋をお気に召したようだ。
何でもマチルダ様に、宿屋で食べた付け合わせの揚げ芋が普通の揚げ芋と違ったと聞いて、どうしても食べたかったらしい。
私もいきなりバイトを休みにされてしまったことを、旦那さんと女将さんに謝ることが出来て少しホッとした。
「そういえば、来年度はマチルダ様の妹の……人も、魔法学園に入学するんじゃなかったですか?」
名前なんだっけ?
「レイチェルよ、シェリル」
まだ口に出して聞いてないのに、マチルダ様が教えてくれた。
「来年度からマチルダ様が学園に戻って来れたら嬉しいけど、そのレイチェル…さんが一年生で入って来たら、マチルダ様が嫌な思いをしませんか?」
「それが…」
マチルダ様が何か言いづらそうな顔をしている。
「レイチェル嬢は、魔法学園には入れないよ」
何故かセイラさんが得意気に言った。
「え?どういうことですか?」
「マチルダちゃんの妹ね、魔力が足りないの」
「ええ?!」
私が驚いてマチルダ様を見ると、マチルダ様は恥ずかしそうに下を向いてしまった。
魔法学園に入学するには、当たり前だけどある程度の魔力量が必要になる。
魔力は六歳と十三歳の時に教会で測定してもらうけど、貴族の子は六歳の測定の時に魔力量が少ない場合は、魔力量を増やすための訓練をするのだ。
結婚した時、夫婦の魔力量や質が違い過ぎると子供が出来にくくなるらしい。
貴族の婚姻は血を継ぐ子を成すことが一番の重要事項だ。
つまり、魔力量があまりに少ないと結婚相手として選んでもらえない。
魔法学園に入学するための規定魔力量は、貴族の魔力量の平均ラインと言われている。
下位貴族は規定魔力量に満たない人もいるけど、伯爵家以上の高位貴族で、魔力量が足りなくて学園に入れないというのは恥ずかしいことだろう。
「ええ~っと。…まあ、魔力量があっても、試験で落ちたんじゃないですかね」
そう、魔力量が規定以上でも、試験に受からなければたとえ王族でも入学は出来ない。
マチルダ様の妹は基礎教育も終わっていないと聞いている。
魔法学園に入るなら、それよりだいぶ先の学力が必要だ。
「そう…ですわね…」
マチルダ様は下を向いたまま、弱々しい声で言った。
「トドメ刺すなよ!シェリル!」
「ええ?!どっちにしても無理だったって、元気付けようと思ったのに!」
「うふふっ。ハリソン伯爵も可哀想にね。陛下も宰相も何の恨みがあったのかは知らないけど、その出来の良く無い娘の後始末は、全部ハリソン伯爵に押し付けるつもりみたいですもの」
フローラ様が楽しそうに言う。
何の恨みがあったのかは知っているけど、気軽に話せる内容じゃない。
「マチルダを大切にしなかった婚約者の家だろ?一応そっちも調べたけど、碌なことしてなかったから、いいんじゃないか?」
セイラさんも楽しそうに言う。
碌なことしてないんだ、あのおじさん。
じゃあいいか。
っていうか、婚約者の家まで調べてたんだ。
凄いな二人とも。
「あ、そういえば!この前セイラさんが楽しみにしておけって言ってたのは、このことですか?」
「ん?ああ。マチルダが来ることとか、フローラ様の養女になることとか、な」
ニヤリと笑うセイラさん。
「驚いた?シェリルちゃん」
アンさんもニコリと笑う。
「驚いたし、嬉しいですけど、教えてくれても良かったのに」
私も色々調べるのを手伝いたかった。
「シェリルちゃんに言うと、私達と一緒に調査するとか言い出しそうだったから内緒にしてたのよ」
うっ!
「遊びじゃないからな」
うう!
その通りすぎて返す言葉がない。
でも、アンさんとセイラさんがいてくれて本当に良かった。
私とマチルダ様だけじゃ、こんなに上手くいかなかっただろう。
笑顔でフローラ様とおしゃべりをするマチルダ様の姿を見ながら、アンさんとセイラさんへの感謝の気持ちで一杯になった。
その後、フローラ様に仕立て屋に連れて行かれたり、流行りのカフェで美味しいケーキを食べたりしていたら、レオナルド殿下に言われた門限を過ぎてしまったけど、怒られることは無かった。
来年度、学園での再会を約束したマチルダ様が最後にこっそり教えてくれたのは、アルノー先輩にプロポーズされたというお惚気報告だった。
アルノー先輩の生き生き艶々な笑顔からそうじゃないかとは思ってたけど、マチルダ様の幸せそうな笑顔が何より嬉しいと思った。
こうしてマチルダ様は領地に帰り、私はマチルダ様のいない学園生活に戻った。
来年度マチルダ様が学園に戻ってくるのが楽しみだ。
その頃には王宮軟禁生活も終わりになっていてくれると嬉しいんだけどな…。
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