【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき

文字の大きさ
34 / 135
二年生 冬休み

34 シェリルの涙

しおりを挟む

新しい年になり、私は昼間は錬金術師ギルド、夜は宿屋の食堂のバイトをこなす日々に戻った。

マチルダ様からは何の便りもないけど、アンさんからの情報によると、星祭り当日にリーバイ男爵領に到着したようだ。

アンさんはそれだけ私に伝えると、忙しそうに去って行った。
アンさんとセイラさんは、最近殆ど宿屋に帰って来ていない。


働いている間はいい。
でも、寮の部屋でひとりになると、どうしても考えてしまう。

マチルダ様は、いつまでも自分を見てくれない家族に見切りを付けて、新しく自分の人生を始める為に旅立って行った。


私は?

私はどうなんだろう。


最初は前世の記憶を活かして、新しい人生を楽しもうと思っていた筈だった。

でも、いつの間にか前世の記憶に囚われて、人との関わりを避け、楽しむことに抵抗を感じていた。

アイツとのことも、よく考えたら前世の人生で起きたことで、今の私の人生には全く関係無いのだ。

あるのは私の頭の中。

記憶の中だけ…。


私の心に残る傷。
この傷だって、本来なら前世の私のもので、今の私には関係ないはずなのに…。

いつまでも塞がらず痛みを感じ、塞がったかのように思えても、また何かのきっかけで傷がひらき、激しい痛みを感じる心の傷。

前世の記憶の中にしかないはずの傷が、今の私を苦しめている。


これまで、アイツにざまあみろと言ってやるために魔法の研究をしてきた。

色んな魔法を研究したけど、闇魔法の癒しの魔術は、前世の記憶が蘇ってから時々起こるパニックを何とか出来ないかと考え出したものだ。

この世界には体の傷や病気を治す方法はあったけど、心の傷や病気を治す方法は、癒しと安寧を司る闇の神に祈ることしかなかったから。

最初は記憶操作であの出来事の記憶を消してしまえばいいんじゃないかと考えた。
でも、記憶操作のような大きな魔術には大量の魔力がいる。
私の魔力量では記憶操作は出来なかった。

意識や心や記憶に影響を与える闇魔法。

闇魔法は闇の神の力。
癒しと安寧を司る闇の神。

だとしたら、心の傷を癒し、人々に安寧を与えることこそが、闇魔法の本来の力なんじゃないだろうか?

記憶操作や洗脳のような魔術しか使われていないようだけど、心の傷を癒すことも出来るんじゃないだろうか?

そう考えて研究を続けた。

少しずつ理論が形になり、いざ自分で試してみようとしたら、落とし穴に気付いた。
闇魔法は自分で自分にかけることは出来ないのだ。

光魔法の回復や治癒は自分にもかけられるのに、闇魔法は自分にはかけられない。

魔法学園に入学して、様々な資料を調べたり先生達にも相談し、こっそり試してみたりもしたけど、やっぱり自分で自分に闇魔法はかけられなかった。

癒しの魔術をかける時、傷になった出来事の一部が術者に見えてしまう。

私の心の傷は、今の私のものではなく、前世の私のものだ。

転生者についての資料が無かったことを考えると、前世の記憶を持つ人間という存在は、一般的では無いのだろう。

私の心の傷を、この世界の誰かに見せる訳にはいかない。

せっかく見つけた前世の苦しみを和らげる方法も、自分には使えない。

私は一生、アイツの裏切りを思い返しては傷付かなくてはいけないんだろうか。


前世の記憶なんて、無ければ良かったのに。


でも、前世の記憶が無ければ、そもそも魔法の研究をしようとは思わなかっただろう。
闇の神のお力から、癒しの魔術を思い付くことも無かっただろう。

そうしたら、アルノー先輩は心の傷に苦しみ、立ち直れなかったかもしれない。

そもそも奨学金を受けてまで魔法学園に入る必要もなかっただろう。

そうしたらマチルダ様やウィルフレッド様や、アンさんやセイラさんに出会うことすらなかっただろう。

浮気男ざまあみろ計画に邁進していたからこそ、今の私があるともいえるのだ。


「頭の中がぐるぐるだ」

寮の部屋のベッドに転がりうだうだ考えていた私は、立ち上がり机の上の日記を開く。
中には浮気男ざまあみろ計画を書いた紙。

懐かしい日本語で書かれたそれは、私がこの世界で生きて行くための道標だった。


「十五年」

この世界に生まれて十五年。

「アイツ、どうしてるだろう」

結婚とかしたんだろうか。

「子供とかいるのかな」

三人欲しいと言っていた。

「会いたい」

会えない。

「会いたいよ、修平…」

浮気男でもいい。
もう一度ちゃんと会って話しがしたい。

「私、異世界に転生したんだよ」

しかも魔法のある世界だ。

「羨ましいでしょ」

目の前の懐かしい日本語が、込み上げた涙でゆるゆる滲んで見える。

「ざまあみろ」

堪えきれなかった涙がぽたりと落ちて、書かれた文字を滲ませた。



いくら頑張って目標を達成しても、その成果を見せたい人には届かない。

私はいつになったら、前世の記憶に見切りをつけて、新しい人生を始めることが出来るんだろう。


何度も零した涙で、滲んで読めなくなってしまった計画書を見ながら、また新しい涙を落とす。


私は…いつになったら……。


ぽたぽた落ちる涙を拭うことも出来ず、滲んでいく計画書を抱きしめた。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ
ファンタジー
 2020.9.6.完結いたしました。  2020.9.28. 追補を入れました。  2021.4. 2. 追補を追加しました。  人が精霊と袂を分かった世界。  魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。  幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。  ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。  人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。  そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。  オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。

婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス
ファンタジー
王宮の広間は、冷え切った空気に満ちていた。  玉座の前にひとり、少女が|跪い《ひざまず》ていた。  エリーゼ=アルセリア。  目の前に立つのは、王国第一王子、シャルル=レインハルト。 「─エリーゼ=アルセリア。貴様との婚約は、ここに破棄する」 「……なぜ、ですか……?」  声が震える。  彼女の問いに、王子は冷然と答えた。 「貴様が、カリーナ嬢をいじめたからだ」 「そ、そんな……! 私が、姉様を、いじめた……?」 「カリーナ嬢からすべて聞いている。お前は陰湿な手段で彼女を苦しめ、王家の威信をも|貶めた《おとし》さらに、王家に対する謀反を企てているとか」  広間にざわめきが広がる。  ──すべて、仕組まれていたのだ。 「私は、姉様にも王家にも……そんなこと……していません……!」  必死に訴えるエリーゼの声は、虚しく広間に消えた。 「黙れ!」  シャルルの一喝が、広間に響き渡る。 「貴様のような下劣な女を、王家に迎え入れるわけにはいかぬ」  広間は、再び深い静寂に沈んだ。 「よって、貴様との婚約は破棄。さらに──」  王子は、無慈悲に言葉を重ねた。 「国外追放を命じる」  その宣告に、エリーゼの膝が崩れた。 「そ、そんな……!」  桃色の髪が広間に広がる。  必死にすがろうとするも、誰も助けようとはしなかった。 「王の不在時に|謀反《むほん》を企てる不届き者など不要。王国のためにもな」  シャルルの隣で、カリーナがくすりと笑った。  まるで、エリーゼの絶望を甘美な蜜のように味わうかのように。  なぜ。  なぜ、こんなことに──。  エリーゼは、震える指で自らの胸を掴む。  彼女はただ、幼い頃から姉に憧れ、姉に尽くし、姉を支えようとしていただけだったのに。  それが裏切りで返され、今、すべてを失おうとしている。 兵士たちが進み出る。  無骨な手で、エリーゼの両手を後ろ手に縛り上げた。 「離して、ください……っ」  必死に抵抗するも、力は弱い。。  誰も助けない。エリーゼは、見た。  カリーナが、微笑みながらシャルルに腕を絡め、勝者の顔でこちらを見下ろしているのを。  ──すべては、最初から、こうなるよう仕組まれていたのだ。  重い扉が開かれる。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

この状況には、訳がある

兎田りん
ファンタジー
 どうしてこんなことになったのか…    ファルムファス・メロディアスは頭を抱えていた。  居なくてもいい場所に、しなくてもいい装いをしている事の居心地の悪さといったら!  俺の関係ない所でやってくれ!  ファルムファスの握りしめた拳の行方はどこに ○更新状況○ 2023/2/15投稿開始 毎週水曜20時頃次回投稿の予定

処理中です...