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二年生 冬休み
35 公爵邸のお茶会
しおりを挟む冬休み最後の風の日。
「シェリルお姉様、お茶のお代わりは如何ですか?」
白を基調に落ち着いた青の装飾で彩られた、ハイベルグ公爵邸の上品な応接室。
私の前には、サラサラの金髪にブルーグレーの瞳の見目麗しい少女。
可愛いというより綺麗系のスラリと整った顔立ちだ。
「オリビアもケーキをもうひとつどうですか?」
「お兄様、わたくしそれを食べたら三つ目になってしまいますわ」
「三つでも四つでも、食べられるだけ食べたらいいですよ」
いや、四つは流石にヤバいだろう。
私は心の中でそう突っ込んで、華奢なカップに入れられた香り高い紅茶をひと口飲んだ。
ちなみに私はすでにケーキを三つ食べている。
これ以上はいけないと、必死で自分と戦っている最中だ。
今日は約束通り、ユラン様の妹のオリビア様に会いにハイベルグ公爵邸に来ている。
オリビア様は最初少しだけ緊張しているようだったけど、ヒュドラの尻尾を切った時の話しや、バイト先の話しをしているうちに和んできたらしい。
いつの間にか私をお姉様と呼び出した。
そして、何故かユラン様もずっと一緒にお茶を飲んでいる。
学園では冷たい顔をしていることが多いのに、オリビア様には滅茶苦茶甘い顔をしてデレデレだ。
シスコン?
ユラン様はシスコンなのかな?
「では、シェリルお姉様は、女性でも仕事を持つことは出来るとお考えなのですね」
「そうです。むしろ、どうして女性が仕事を持ってはいけないとされているのか、不思議に思っています」
「どうして…」
オリビア様が綺麗な眉をキュッと寄せて、私の言ったことを考えている。
「女性は男性に比べて力が弱く、外に出て働くのは危険だからですよ」
ユラン様がオリビア様に言い聞かせるように優しく言う。
せっかくオリビア様が考えているのに…邪魔だな、ユラン様。
「男性でも力の弱い人はいますよね?」
「…っ」
ユラン様に睨まれた。
睨み返しておこう。
「女性には、男性には無い身の危険があるということです」
睨み返した目をサラッと逸らされ、言い返される。
それは確かにその通りだ。
「女性に身の危険を及ぼそうとする奴らを、撃退する魔道具があったら売れそうですね」
「それは素敵ですね!!!」
オリビア様がパッと顔を上げ、キラキラした目で私を見てきた。
まっ…眩しい?!
「オリビア…」
ユラン様が困ったような顔でオリビア様を見る。
オリビア様はユラン様の目線を受けて少し俯くと、恥ずかしそうに頬を染めた。
「わたくし、魔道具が好きなんですの。シェリルお姉様が考案された眠りの魔道具、素晴らしかったですわ」
俯いて頬を染めたままチラチラ上目遣いで見られて、私まで頬が熱くなる。
恥じらう美少女…。
破壊力抜群過ぎませんか?!
「魔法学園に入学して、魔道具学の授業を受けるのを楽しみにしていましたの…」
そう言いながら、段々声が小さくなり悲しげな表情になるオリビア様。
そういえば、学園には行かず修道院に入りたいと言っていると聞いた気がする。
オリビア様、魔道具が好きなんだ…。
あ、そうだ!
「オリビア様、学園の春祭りにいらしたことはありますか?」
春祭りは毎年三月末にある学園祭のようなものだ。
「え?いいえ」
「もし良かったら、今度の春祭り来てみませんか?」
「ええ?!」
目を丸くして驚くオリビア様、対象的にユラン様は渋い顔。
人が怖いと引き籠っている妹に何を言ってるんだ、という声が聞こえてきそうだ。
「学園の春祭りでは、生徒が作った魔道具の展示もありますけど、魔道具学のオーガスト先生が、毎年新しい魔道具を発表するんです」
驚いて目を丸くしていたオリビア様が、新しい魔道具と聞いてさらに目を大きく見開く。
「去年はゴーレムの心臓という魔道具を作って、土魔法で作った人造ゴーレムにダンスをさせていました」
予めインプットした動きを繰り返すしか出来ないらしいけど、無機物を外からでなく内側から動かすのが最新技術だったらしい。
「まあ!なんて素晴らしい魔道具なんでしょう!」
オリビア様は椅子から立ち上がり興奮気味に言った。
「オリビア、落ち着きなさい」
「お兄様は実際ご覧になりましたの?どうしてわたくしに教えてくださらなかったんですか?」
ユラン様は明らかに困った顔をしている。
「去年は…いや、次から魔道具の情報を聞いたらオリビアに知らせますよ」
「あっ…」
ユラン様の優しい声に、今度はオリビア様が困った顔になる。
「ごめんなさい、お兄様…去年は…わたくし…」
部屋に閉じ籠っていた時期だ。
兄妹の間になんともいえない空気が漂う。
それにオリビア様の表情が暗くなってしまった。
これはまずい。
何とかオリビア様の気持ちを明るい方に戻したい。
「あ、そういえばウィル様も、新しい魔道具を春祭りで発表すると言ってましたよ」
「ウィル?」
「ウィル兄様が?」
兄妹ふたり揃って私を見た。
「シェリルお姉様は、ウィル兄様と親しくされていらっしゃるんですの?」
「んん?親しいというか…合同遠征実習で同じチームでしたし、仲間です。星祭りの夜に偶然会って聞いたんです」
「「星祭りの夜?!」」
今度は声も揃った。
「はい。去年はオーガスト先生のゴーレムに負けてしまったから、今年は頑張ると言ってました。勝ち負けは競ってないと思うんですけどね」
どうやって勝敗を決めているのか気になる。
「まあ、そうですの…」
オリビア様は何やら考え込んでしまった。
ユラン様は…アレ?機嫌悪そう?
「マクウェン嬢は、いつからウィルを名前で呼ぶようになったんですか?」
「え?」
「ライリーのことも名前で呼んでいましたね」
「ああ…」
そうだった。
アマーリエ様の暇つぶしに付き合わされている三人の中で、家名呼びしてるのはユラン様だけになってしまったんだ。
ウィルフレッド様は関係ないけど。
「先程、ウィルのことを合同遠征実習で同じチームだった仲間だと言っていましたが、私も同じチームでした」
そうですね。
「班も一緒でした」
そうでした。
「お兄様、お名前で呼んで欲しいのなら、そう仰ったらいいではありませんか」
「なっ!ち、ちが…!そうではなくて、同じチームで同じ班の仲間なのだから、その…」
オリビア様の冷たい視線にユラン様が慌てている。
ライリー様を名前呼びにしたのは、何か成果を見せないとアマーリエ様が納得しないと困っていたからだ。
これまでユラン様はアマーリエ様の暇つぶしにあまり関わってなかったけど、降嫁の件まで持ち出されて困ってるのかもしれない。
でも、ユラン様まで名前呼びにしたら、アマーリエ様を喜ばせてしまいそうで何か嫌だ。
「シェリルお姉様、家名のハイベルグで呼ぶと、お兄様だけでなく、わたくしも父もお返事をしてしまいますわ」
オリビア様がにっこり微笑む。
「間違いのないように、お兄様のことは名前で呼んであげてくださいませ」
思わずユラン様を見たらパチリと目が合った。
そして逸らされた。
え?何で?!
「シェリルお姉様だけがお兄様を名前で呼ぶのもおかしいですわ。お兄様もマクウェン嬢ではなく、お名前で呼ばせて頂きましょうね」
困惑する私を他所に、有無を言わせない口調でオリビア様が言い切った。
いや、今あの人、思いっきり私から目を逸らしましたよ?
本当はたいして親しくもない私と名前で呼び合うの嫌なんじゃないですか?
「あの、無理しなくても…」
「名前で呼んでください」
目を逸らしたままユラン様が言った。
本当にいいのかな?
まあ、本人が名前で呼んでいいと言うなら、私が拒否することは出来ないけど。
何しろユラン様は国を牛耳る宰相閣下のご子息だ。
これでアマーリエ様のお取り巻き三人衆、全員名前呼びすることになってしまった。
なんだかもう諦めの境地だ。
「春祭り、考えてみますわ」
帰り際、オリビア様がそう言って明るい笑顔を見せてくれた。
闇魔法の癒しの術を使わなくても、気持ちを前向きにすることは出来る。
オリビア様の笑顔に元気付けられ、私も少し前を向く気持ちになった。
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