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極道恋浪漫 第一章
59 対峙のとき
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遊郭街最奥、羅辰邸――。
紫月の案内によって砦の皇帝・焔は父の隼と鐘崎父子と共に遊郭街頭目である羅辰の元へと乗り込んだ。
当然だが頭目の羅辰は驚いたようだ。紫月に向かってなぜこんな勝手をしたのかと罵倒するも、既に完璧なまでの包囲網を整えて来ている香港裏社会の頭領・周一族を前にしてはおいそれと反撃もままならない。さすがに頭目の部屋へ入り込んだのは周隼を筆頭に息子の焔と鐘崎父子、それに案内役の紫月のみであったが、邸の外には側近たちが万が一の為にと武装姿で待機していた。
「お前さんが遊郭街の頭目か――。此度はとんだことをしでかしてくれたものだな。我が息子の婚約者である雪吹冰を拐った上に、男遊廓で売り物にしようとしていたとはな」
覚悟はできていような――と、周隼自らが問いただす。
「……クッ、ファミリーのトップたるそちら様が直々にお出ましとは。恐れ入ったものですな。だが――ご子息の婚約者殿の件については、既に当方からきちんと謝罪を申し上げたはず」
頭目という男はチラリと紫月を見やりながら薄く苦笑する。その者が大金を持って謝りに行っただろうがと言いたいのだろう。
「確かに謝罪は受け取った。だが、あの程度で済ませようとは我々も舐められたものだ」
隼は平然とそう返した。
「やはり――お気が治らんですかな。ではあとどのくらい積めばお許しいただけるのであろう」
頭目も引く気は更々無いようだ。謝罪金が足りないのであれば、男遊郭の頭である紫月に客を取らせて、いかようにも追加金を出すぞと言わんばかりだ。自分では手を汚さずに、紫月のような男娼たちに平気で苦労を強いようという魂胆が見え見えだ。
「――ふ、どこまで舐めくされば気が済むのであろうな。この私がそのような小銭で納得するとでも?」
「小銭とは――いささかきついお言葉ですな。ではいったいどうすればお気が済むのやら」
「そうだな。ここの経営権を渡してもらう。それで今回のことはサラにしてやる」
隼の言葉に、さすがの頭目も額を筋立てた。
「ここの経営権だと……? ふざけているのか」
「ふざけてなどいない。我が息子の婚約者を拐い、男娼にしようなどと企んだ代償としては安いもんだろうが」
それとも愚息の婚約者などその程度の価値しか無い代物だとバカにしているのか――と、隼は頭目を見下ろした。
「は――! 弱りましたな。まさかこの私に出ていけとでも? いくらこの香港を仕切る頭領とても、言っていいことと悪いことがありませんかね」
「心外なことを言う。本来、出ていけ――などと生やさしいことを言うつもりはないがな。其方は今ここで我々に始末されても当然のことをしたのだ。それを経営権だけで勘弁してやろうというこちらの寛容さが気に入らないと言うか?」
「――始末ですか。物騒なことをおっしゃる。さすがにマフィアの頭領はえげつないですな」
「えげつないのは貴様の方であろう。我が息子の婚約者のみならず、年端もゆかぬ少年少女たちを次々と拐い、無理やり客を取らせているとは到底目を瞑れん話だ」
「嫌な物言いをなさる。それが遊郭の商売というものなのですよ、頭領・周。少年少女とおっしゃいますが、遊郭には禿といって、幼い頃からこの商売の為に教育を受ける者が必要不可欠でしてね。この世界を知らない部外者に口を出して欲しくはありませんね」
「見苦しい言い訳は要らん。貴様は使い物にならなくなった遊女男娼らを医者に診せることもせず、それどころか阿片を盛って言いなりにし、病と分かれば治療もせずに葬ってきたというではないか。私が何も知らないとでも思うか」
「はは、なるほど……。つまり――すべてお見通しというわけですか」
いったいいつの間に調べたのやらと呆れ気味に肩をすくめた。
紫月の案内によって砦の皇帝・焔は父の隼と鐘崎父子と共に遊郭街頭目である羅辰の元へと乗り込んだ。
当然だが頭目の羅辰は驚いたようだ。紫月に向かってなぜこんな勝手をしたのかと罵倒するも、既に完璧なまでの包囲網を整えて来ている香港裏社会の頭領・周一族を前にしてはおいそれと反撃もままならない。さすがに頭目の部屋へ入り込んだのは周隼を筆頭に息子の焔と鐘崎父子、それに案内役の紫月のみであったが、邸の外には側近たちが万が一の為にと武装姿で待機していた。
「お前さんが遊郭街の頭目か――。此度はとんだことをしでかしてくれたものだな。我が息子の婚約者である雪吹冰を拐った上に、男遊廓で売り物にしようとしていたとはな」
覚悟はできていような――と、周隼自らが問いただす。
「……クッ、ファミリーのトップたるそちら様が直々にお出ましとは。恐れ入ったものですな。だが――ご子息の婚約者殿の件については、既に当方からきちんと謝罪を申し上げたはず」
頭目という男はチラリと紫月を見やりながら薄く苦笑する。その者が大金を持って謝りに行っただろうがと言いたいのだろう。
「確かに謝罪は受け取った。だが、あの程度で済ませようとは我々も舐められたものだ」
隼は平然とそう返した。
「やはり――お気が治らんですかな。ではあとどのくらい積めばお許しいただけるのであろう」
頭目も引く気は更々無いようだ。謝罪金が足りないのであれば、男遊郭の頭である紫月に客を取らせて、いかようにも追加金を出すぞと言わんばかりだ。自分では手を汚さずに、紫月のような男娼たちに平気で苦労を強いようという魂胆が見え見えだ。
「――ふ、どこまで舐めくされば気が済むのであろうな。この私がそのような小銭で納得するとでも?」
「小銭とは――いささかきついお言葉ですな。ではいったいどうすればお気が済むのやら」
「そうだな。ここの経営権を渡してもらう。それで今回のことはサラにしてやる」
隼の言葉に、さすがの頭目も額を筋立てた。
「ここの経営権だと……? ふざけているのか」
「ふざけてなどいない。我が息子の婚約者を拐い、男娼にしようなどと企んだ代償としては安いもんだろうが」
それとも愚息の婚約者などその程度の価値しか無い代物だとバカにしているのか――と、隼は頭目を見下ろした。
「は――! 弱りましたな。まさかこの私に出ていけとでも? いくらこの香港を仕切る頭領とても、言っていいことと悪いことがありませんかね」
「心外なことを言う。本来、出ていけ――などと生やさしいことを言うつもりはないがな。其方は今ここで我々に始末されても当然のことをしたのだ。それを経営権だけで勘弁してやろうというこちらの寛容さが気に入らないと言うか?」
「――始末ですか。物騒なことをおっしゃる。さすがにマフィアの頭領はえげつないですな」
「えげつないのは貴様の方であろう。我が息子の婚約者のみならず、年端もゆかぬ少年少女たちを次々と拐い、無理やり客を取らせているとは到底目を瞑れん話だ」
「嫌な物言いをなさる。それが遊郭の商売というものなのですよ、頭領・周。少年少女とおっしゃいますが、遊郭には禿といって、幼い頃からこの商売の為に教育を受ける者が必要不可欠でしてね。この世界を知らない部外者に口を出して欲しくはありませんね」
「見苦しい言い訳は要らん。貴様は使い物にならなくなった遊女男娼らを医者に診せることもせず、それどころか阿片を盛って言いなりにし、病と分かれば治療もせずに葬ってきたというではないか。私が何も知らないとでも思うか」
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