62 / 124
極道恋浪漫 第一章
60
しおりを挟む
「貴様のような輩にここを牛耳らせておくわけにはいかんのでな。最後の温情だ。命をとるとまでは言わん。早急にここを立ち退くがいい」
そう言った隼に、男は気味の悪い笑みを浮かべると、
「やれやれ――。お噂通りの甘ちゃんですな、ここ香港裏社会のトップ様は」
嘲笑と共に軽く脚を組み直す。と同時に、隼らを目掛けて周囲一八〇度から武装した連中が取り囲んだ。
「私なら――温情云々以前に即刻手打ちにしていよう。巷の者がそちらさんを何と言っているかご存知ないか? 香港マフィアのトップ、周隼は人情ごっこがお好きな甘ちゃん頭領――とね?」
羅辰の皮肉に乗ずるように武装連中たちはこぞって小馬鹿にしたように隼らを見つめて嘲笑し合う。彼らは皆、この頭目・羅辰の側近連中のようだ。各々の手にはヌンチャクや鉄製の棒といった武器が握られている。
「甘ちゃん――とな。耳の痛いことだ」
当然か、隼らも黙ってはいない。すぐ後ろにいた鐘崎父子や息子の焔らが懐に忍ばせていた銃を構えては対峙の姿勢を取った。
相手はヌンチャクなどに対してこちらは飛び道具だ。優劣は一目瞭然――。だが、羅辰は焦りもせずにせせら笑った。
「およしなさいな。そんな物騒な物をどうやって持ち込んだんだか――。これでは検閲所を厳しく訊さねばなりませんな。まあ、それはともかくとして丸腰同然の者に対して飛び道具とはお情けない。それに――そんなものをぶっ放せば、困るのはあなた方ですよ」
笑いながらチラリと自らの頭上に視線をくれた。
「ご覧なさい。ここの天井にはとある仕掛けが組み込んでありましてね。一発でも銃弾なんぞをぶっ放せば、その衝撃波で爆発物が反応することになっているのですよ」
「なに――ッ!?」
「ご存知の通りここは地下街です。天井に風穴が開けば、ここは崩れてあなた方はお陀仏ですよ。もちろん、私どもも無事では済みませんがね。ただし――この地下街に生きる何百という遊女男娼らも無事では済まない。下手をすれば地上の――あなた様が治める香港の街とて多少なりと被害が出るのは必然。せっかく情が厚いとお噂の頭領殿だ。堅気を巻き込んで見殺しにしては、いささか不人情ではありませんかな?」
それでもいいならどうぞ撃ちなされ――と、勝ち誇ったように笑みを浮かべる羅辰に、一同はギリリと唇を噛み締めた。
つまり、この男は、これまでもそうして自らの身を守ってきたというわけか。これでは如何に射撃の腕が良かろうと宝の持ち腐れだ。まさか発砲の衝撃波に反応する爆発物が仕掛けられていたなどとは、この場の誰一人、そう――男遊郭を仕切る紫月でさえも知る由もなかったということだ。
打つ手を失い眉根を寄せる隼らを横目に羅辰は言った。
「お役目!」
呼ばれて姿を現したのは飛燕であった。その腰には先日会った時と同様、二振りの日本刀が据えられている。
そう言った隼に、男は気味の悪い笑みを浮かべると、
「やれやれ――。お噂通りの甘ちゃんですな、ここ香港裏社会のトップ様は」
嘲笑と共に軽く脚を組み直す。と同時に、隼らを目掛けて周囲一八〇度から武装した連中が取り囲んだ。
「私なら――温情云々以前に即刻手打ちにしていよう。巷の者がそちらさんを何と言っているかご存知ないか? 香港マフィアのトップ、周隼は人情ごっこがお好きな甘ちゃん頭領――とね?」
羅辰の皮肉に乗ずるように武装連中たちはこぞって小馬鹿にしたように隼らを見つめて嘲笑し合う。彼らは皆、この頭目・羅辰の側近連中のようだ。各々の手にはヌンチャクや鉄製の棒といった武器が握られている。
「甘ちゃん――とな。耳の痛いことだ」
当然か、隼らも黙ってはいない。すぐ後ろにいた鐘崎父子や息子の焔らが懐に忍ばせていた銃を構えては対峙の姿勢を取った。
相手はヌンチャクなどに対してこちらは飛び道具だ。優劣は一目瞭然――。だが、羅辰は焦りもせずにせせら笑った。
「およしなさいな。そんな物騒な物をどうやって持ち込んだんだか――。これでは検閲所を厳しく訊さねばなりませんな。まあ、それはともかくとして丸腰同然の者に対して飛び道具とはお情けない。それに――そんなものをぶっ放せば、困るのはあなた方ですよ」
笑いながらチラリと自らの頭上に視線をくれた。
「ご覧なさい。ここの天井にはとある仕掛けが組み込んでありましてね。一発でも銃弾なんぞをぶっ放せば、その衝撃波で爆発物が反応することになっているのですよ」
「なに――ッ!?」
「ご存知の通りここは地下街です。天井に風穴が開けば、ここは崩れてあなた方はお陀仏ですよ。もちろん、私どもも無事では済みませんがね。ただし――この地下街に生きる何百という遊女男娼らも無事では済まない。下手をすれば地上の――あなた様が治める香港の街とて多少なりと被害が出るのは必然。せっかく情が厚いとお噂の頭領殿だ。堅気を巻き込んで見殺しにしては、いささか不人情ではありませんかな?」
それでもいいならどうぞ撃ちなされ――と、勝ち誇ったように笑みを浮かべる羅辰に、一同はギリリと唇を噛み締めた。
つまり、この男は、これまでもそうして自らの身を守ってきたというわけか。これでは如何に射撃の腕が良かろうと宝の持ち腐れだ。まさか発砲の衝撃波に反応する爆発物が仕掛けられていたなどとは、この場の誰一人、そう――男遊郭を仕切る紫月でさえも知る由もなかったということだ。
打つ手を失い眉根を寄せる隼らを横目に羅辰は言った。
「お役目!」
呼ばれて姿を現したのは飛燕であった。その腰には先日会った時と同様、二振りの日本刀が据えられている。
25
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
溺愛極道と逃げたがりのウサギ
イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。
想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。
悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。
※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。
二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる