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極道恋浪漫 第一章
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「な、遼。俺さ、この歳ンなっておめえみてえなダチができるなんて思ってなかった。皇帝様や遼の親父さんたちもそうだけど、皆んなすげえあったかくていい人たちでさ」
自分にとって心から信頼できる相手といえば、これまでは下男の菫だけだったそうだ。彼は生真面目で心根のやさしい――紫月にとって善人といえる人物なのだそうだ。
「けど菫と俺の二人だけじゃ、あの頭目に楯突くなんて逆立ちしたって出来やしねえ」
それどころか、人の善い菫に思わぬとばっちりが降り掛からないようにと気遣うだけが精一杯だったそうだ。
「遼や皇帝様たちと知り合いになれてさ、俺も菫も正直ホッとできることが多くなったのは確かだよ。今までと違って何かあればおめえらに相談できると思うと気持ちの軽さが全然違うんだ」
だが、そうだからこそ心配の種が増えたのも事実だと言って紫月は不安げに瞳を揺らした。
「おめえらの力を信用してないわけじゃねえ。けど――心配なんだ。あの頭目を相手にして、おめえらに何かあったらと思うと……」
頭目と正面切って対峙した挙句、せっかく築き上げられようとしていたお前らとの縁までを失くしてしまったらと思うと怖いんだ――紫月はそう言った。
「なあ、紫月。ここの頭目ってのはそんなにやべえヤツなのか? 実際、周家でも頭目の顔さえ知らねえというし、いったいどんな人物なのかとな」
「確かにあの人は――普段から極々近しい側近連中以外とは滅多に顔を合わせねえ人ではあるんだけど……」
「おめえは会ったことがあるんだろう?」
「うん、まあ……。何つったらいいのか、この街であの人に逆らったらまずいってのは本能で感じてる。ご機嫌取りってわけじゃねえが、何か用があってあの人に会う際にもな、いつも顔色窺いながら話すのに苦労するって感じかな」
「――なるほど。だったら今回の冰の件でも気苦労だったんじゃねえか?」
冰の件ではこの紫月が頭目との間を取り持ってくれたお陰で、無事に救出することが叶ったわけだが、そんなに気難しい頭目が相手なら苦労したのではないかと思うわけだ。
「うん、まあ。けど冰君のことに関しては何かあったらおめえらと相談できるしと思ってたしな。それ以前に冰君の婚約者があの皇帝様だっていう時点で、例え頭目でも無碍には扱えねえって分かってたから。言うほど苦労じゃなかったんだけどな」
紫月は薄く笑い、だがその笑顔が儚げで、言葉には出さずともやはり相当の気苦労があったに違いない。遼二は心からそれを労うと共に、早急の対処が必要と身に染みて思うのだった。
「紫月、その頭目ってのは幾つくらいのヤツなんだ」
「幾つって歳のことか? そうだな、六十過ぎってところかな。遼や皇帝様の親父さんたちよりはちょっと上かなって感じだけど」
とにかく見た目だけでも絶対に逆らってはいけないという黒いオーラが漂っている人物だそうだ。
「頭目の側に付いてる連中も雰囲気は似たようなもんでな。何ていうか……そりゃ人の道を外れてるだろってな非道なことを平気でしそうな感じの連中だ」
変な話だが、触らぬ神に祟りなしとでもいおうか、やたらに関わり合いたくない雰囲気なのだそうだ。
「――そうか」
「な、遼……。俺にできることがあれば――おめえらのやろうとしてること、手伝いたい。普通は頭目に会うことすら難しいくらいだから。けど俺が取り継げば……」
「紫月――そいつは有り難えが」
彼に仲立ちをさせて頭目から逆恨みを買うようなことがあってはならない。かといって、この紫月の助力なしにはそれこそ頭目に会うことすらままならないだろう。
「焔や親父たちとも相談の上だが、お前さんの力が必要になる時は――頼む」
「うん、もちろん! 俺で役に立つなら何でもするぜ!」
「すまねえ、紫月」
例えそうなってもこの紫月のことは自分の手で必ず守る――遼二は強く心に誓うのだった。
◇ ◇ ◇
自分にとって心から信頼できる相手といえば、これまでは下男の菫だけだったそうだ。彼は生真面目で心根のやさしい――紫月にとって善人といえる人物なのだそうだ。
「けど菫と俺の二人だけじゃ、あの頭目に楯突くなんて逆立ちしたって出来やしねえ」
それどころか、人の善い菫に思わぬとばっちりが降り掛からないようにと気遣うだけが精一杯だったそうだ。
「遼や皇帝様たちと知り合いになれてさ、俺も菫も正直ホッとできることが多くなったのは確かだよ。今までと違って何かあればおめえらに相談できると思うと気持ちの軽さが全然違うんだ」
だが、そうだからこそ心配の種が増えたのも事実だと言って紫月は不安げに瞳を揺らした。
「おめえらの力を信用してないわけじゃねえ。けど――心配なんだ。あの頭目を相手にして、おめえらに何かあったらと思うと……」
頭目と正面切って対峙した挙句、せっかく築き上げられようとしていたお前らとの縁までを失くしてしまったらと思うと怖いんだ――紫月はそう言った。
「なあ、紫月。ここの頭目ってのはそんなにやべえヤツなのか? 実際、周家でも頭目の顔さえ知らねえというし、いったいどんな人物なのかとな」
「確かにあの人は――普段から極々近しい側近連中以外とは滅多に顔を合わせねえ人ではあるんだけど……」
「おめえは会ったことがあるんだろう?」
「うん、まあ……。何つったらいいのか、この街であの人に逆らったらまずいってのは本能で感じてる。ご機嫌取りってわけじゃねえが、何か用があってあの人に会う際にもな、いつも顔色窺いながら話すのに苦労するって感じかな」
「――なるほど。だったら今回の冰の件でも気苦労だったんじゃねえか?」
冰の件ではこの紫月が頭目との間を取り持ってくれたお陰で、無事に救出することが叶ったわけだが、そんなに気難しい頭目が相手なら苦労したのではないかと思うわけだ。
「うん、まあ。けど冰君のことに関しては何かあったらおめえらと相談できるしと思ってたしな。それ以前に冰君の婚約者があの皇帝様だっていう時点で、例え頭目でも無碍には扱えねえって分かってたから。言うほど苦労じゃなかったんだけどな」
紫月は薄く笑い、だがその笑顔が儚げで、言葉には出さずともやはり相当の気苦労があったに違いない。遼二は心からそれを労うと共に、早急の対処が必要と身に染みて思うのだった。
「紫月、その頭目ってのは幾つくらいのヤツなんだ」
「幾つって歳のことか? そうだな、六十過ぎってところかな。遼や皇帝様の親父さんたちよりはちょっと上かなって感じだけど」
とにかく見た目だけでも絶対に逆らってはいけないという黒いオーラが漂っている人物だそうだ。
「頭目の側に付いてる連中も雰囲気は似たようなもんでな。何ていうか……そりゃ人の道を外れてるだろってな非道なことを平気でしそうな感じの連中だ」
変な話だが、触らぬ神に祟りなしとでもいおうか、やたらに関わり合いたくない雰囲気なのだそうだ。
「――そうか」
「な、遼……。俺にできることがあれば――おめえらのやろうとしてること、手伝いたい。普通は頭目に会うことすら難しいくらいだから。けど俺が取り継げば……」
「紫月――そいつは有り難えが」
彼に仲立ちをさせて頭目から逆恨みを買うようなことがあってはならない。かといって、この紫月の助力なしにはそれこそ頭目に会うことすらままならないだろう。
「焔や親父たちとも相談の上だが、お前さんの力が必要になる時は――頼む」
「うん、もちろん! 俺で役に立つなら何でもするぜ!」
「すまねえ、紫月」
例えそうなってもこの紫月のことは自分の手で必ず守る――遼二は強く心に誓うのだった。
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