余命一年の転生モブ令嬢のはずが、美貌の侯爵様の執愛に捕らわれています

つゆり 花燈

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第一章(書籍化により、前半削除されています)

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 アリシティアは公爵とエリアスの前に、別の皿を並べた。

「もう一品。こちらの肉と野菜のサラダもお召し上がりください。先程使った肉と同じ物を薄くそいで、シンプルに白ワインと塩を入れたお湯で茹でています。上にかかったドレッシングは、胡麻から作った物で、胡麻はアリヴェイル領で取れた物を使っています」

 公爵とエリアスに説明しながら、アリシティアは室内にいる秘書官たちにも、皿を配っていく。


「…野菜が入ってる」

 エリアスが目の前に置かれた皿を見て、不快そうに呟いた。

「サラダだもん。わざわざ早起きして朝市まで行ったんだから、ちゃんと野菜も食べてね。それにこのドレッシング、完成させるのに半年もかかったのよ? できた時は我ながら天才かと思ったわ」


 アリシティアは毎晩こっそり試行錯誤を繰り返し、半年かけて前世でお気に入りだったメーカーの胡麻ドレッシングの味を再現したのだ。
 豚肉の冷しゃぶにかけても、生野菜にかけても、間違いなく美味しいと、自信を持って言える。



「アリス…暇なのか?」

 エリアスが呆れたように問う。アリシティアはため息を吐き出した。

「そんなわけないじゃない。考え事をしながらできるから、丁度良かったの」

 そんな二人のやり取りを眺めながら、公爵が口を開いた。

「アリス、イチャついてるところ悪いけど、食後に珈琲を淹れて貰っても?」

「今の会話をどう聞いたら、イチャついているように聞こえるのかはわかりませんが、分かりました」


 アリシティアは執務室の隣にある、小さなキッチンに姿を消した。


 丁度その時。
扉がノックされた。






「失礼します、叔父上。……と、エリアス?」

 挨拶と共に、ルイスが入ってきた。
彼は執務室の来客用のテーブルで食事をしている公爵とエリアスを見て、眉根を寄せる。



「うさぎは逃げたな……」

 エリアスの小さな呟きに、公爵は苦笑した。




「叔父上とエリアスが一緒に、執務室で昼食ですか?」

 ルイスは公爵に指し示されたソファーに腰を下ろし、テーブルを眺める。

サラダの上に乗った肉の部分だけを食べたエリアスは「この肉甘いな…」などと、呟いていた。



「まあ、たまにはね」

 公爵の返事に少し考えたルイスが、「ああ!」と、思い出したように声を上げた。


「もしかして叔父上の所のメイドが作った昼食ですか? やたらと可愛いメイドが月に数度、叔父上の昼食を作りに来ていると、文官が噂していました。たまたま一緒に食べた人達は、皆揃って大絶賛していましたが…。でもなんでエリアスだけ? 僕はその昼食に招かれた事はありませんけど?」



 ルイスが拗ねたように、公爵をじっとりと睨めつける。そんなルイスに、公爵は苦笑した。


「エリアスだって招いたことはないけど、勝手に来るんだよ。それに、人を招くような昼食ではなくて、領地で取れた物を売り出すための、試食会みたいなものだからね。必ずしも美味しいとは限らない」

「そうなんですか?」

 公爵の説明に、納得がいかないとでも言うように、ルイスは目を眇めた。





「そんな事より、今朝のエヴァンジェリンはどうだった?」

 公爵がルイスに問う。ルイスは気怠げに息を吐いた。


「いつも通りです。昨夜は結局2度、僕の控え室に人をよこしたようでした。なので、その理由を聞いたのですが、珍しいワインが手に入ったから一緒に飲もうと思ったと言っていました」

「アリシティアの事については?」

「何も。全く気にもとめていないようでした。だけどそれよりも、何やら怪しい薬を手に入れたようです。僕のお茶に盛られてました」

「飲んだのか?」


 エリアスが口を挟む。ルイスは首を横に振った。

「ほんの少し口に入っただけ。毒の類ではない筈。最初は媚薬かとも思ったのだけど、多分違う。どちらにしても、何か分からない物を大人しく飲む訳にはいかないので、叔父上に呼ばれている事を忘れていたと言って、急いで逃げてきました」

「あいつ、また変な物を手に入れたのか」

 呆れたように、エリアスは眉根を寄せた。

「飲み慣れた茶葉の紅茶に入っていたから気がついたけど、他の飲み物なら気付かなかったと思う。それで? 正妃派の動きは、想定通りですか?」

 ルイスは公爵を見た。

「そうだね、エヴァンジェリンを使ってラローヴェルを取り込むのは、無理だと騒いでいるようだよ」


「僕なんて取り込んだ所で、アルフレード兄上がいる限り、エヴァンジェリンを女王にするのは、不可能だと思いますけどね」

「まあ、少なくとも王太子派と正妃派の力の均衡は崩れるんじゃないかな。しばらく向こうの派閥は荒れるね。うまく内部分裂でもしてくれたらいいんだけどなぁ…」




「あ!!」

 二人の会話を聞いていたエリアスが、ふいに思い出したように声を上げた。



「エリアス、どうした?」

「もしかすると、ルイスが盛られた薬って、これかも」



 公爵に問われて、エリアスは胸ポケットから小瓶を取り出した。

────────────

アルフレード、エリアス、ルイスは従兄弟になります。
ルイスは国王の姉の息子です。
ルイスがアルフレードを兄上と呼ぶのは間違いではありません。
ちなみにアリシティアも幼い頃はアルフレードを兄上と呼んでいました。
(今はアルフレードお兄様と呼んでます)
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