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第一章(書籍化により、前半削除されています)
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しおりを挟むエリアスは小瓶をテーブルに置いた。一見、透明の液体が入った、ただの綺麗なガラス瓶に見える。ルイスはエリアスの隣からそれを覗き込んだ。
「何これ?」
「正式な名前は無くて、巷では『恋人の本音が聞ける薬』と、呼ばれているらしい。城下で年頃の女性に人気なんだってさ」
「どういう効能があるの?」
「恋した人に飲ませると、その人の本音が聞ける。…まあ、そのまんまだな。とはいえ、城下で流通してる大半が偽物。ただのシロップだ。紅茶に入れて恋人に飲ませると、告白して貰えるかも…という。おまじないみたいな感じかな?」
「大半は偽物って事は、一部は本物ってこと?」
「そう、本物は日の光に透かすと虹色に輝くそうだ」
エリアスの説明を聞きながら、テーブルを片付けた秘書官が、口を開いた。
「それ、城下の影から報告は上がっています。本物は出回ってる数も極端に少なく、害もないようです。飲む量によって、1日から5日程、幼い子供のように無邪気になるとか、人を疑わないとか…。素直に心の内を話すらしく、自白剤の失敗作なのでは……との意見もあります。ただ、自白剤ほど強い効果もなく、中毒性も後遺症もないようです」
秘書官は話しながら、ソファーに腰掛けている三人の前に、紅茶の入ったカップを並べた。
「ふーん。少し借りるよ、エリアス」
公爵は小瓶を手に取り、光にかざす。瓶の中で揺れる液体は、キラキラと虹色に輝いていた。
「エヴァンジェリンが手に入れたのは、多分これじゃないかな。昨日のルイスの行動の裏を聞き出そうとしたってところか? まあ、今までのアリスとの関係性を知っていれば、裏があると思うのは当たり前だろうな」
エリアスの言葉に、公爵は顎に拳を当て眉根を寄せる。
「ほんと、昨日のルイスのあれはやりすぎだよ。…でもまあそうだね。薬については、1度ちゃんと調べておく方が良いなぁ……。でも、これって、どう見ても『魔女の薬』だよねぇ」
短く唸り、そのまま考え込む。そんな公爵の懸念を察し、エリアスは苦笑した。
「そうなると、調べられるのも、魔女だけですね。彼らに頼み事をするのは、色々と難しいですしね」
「問題はそこだね」
エリアスの意見に同意するように、公爵は深く息を吐いた。
「なら、錬金術師の塔で調べてもらっては? ドールの友人の魔女の薬を作る彼…彼女?なんか、適任では?」
秘書官の言葉に公爵はさらに唸る。
「ベアトリーチェ殿ねぇ。癖のある人物でね。天才と言われているが、自分がやりたい事しかしないから、素直に言うことをきいてくれるかなぁ。そもそもが錬金術師の塔に罪人として閉じ込めてる訳だし」
「あれ?あの人罪人だったの?魔女なのに?」
エリアスの問いに公爵が頷く。
「自称ね。本当の所は私もよくわからない。あの姿だし。ただ『魔女の薬』を作るのは確かだ。昔、ベアトリーチェ殿が、気まぐれに作って売り捌いた物の中に、惚れ薬があってね。あれは流石に放置できなくて捕えたんだ。だけど、遠縁とはいえ、宰相の親戚筋だし、子供の頃から国の発展に寄与する薬を多く作り出している。罪人としてただ牢に入れるのもどうかなと思って。それに何よりも、本当に魔女なら、それはそれで大問題だしね」
「ああ、確かに。下手をすれば国が滅ぶ」
エリアスは公爵の懸念を感じ取った。
この世界には魔女や魔術師といった、『この世の理』から外れた魔法使いと呼ばれる者達が存在する。彼らは時として、気まぐれに人に構う。だが、彼らに『人の理』を押し付ける事は許されない。
それはこの国が出来た時からの、決して違えてはならない不文律だ。
「だからね、錬金術師の塔にとりあえず入って貰って、好きにさせている。名目上は罪人だけど、本人はあの環境を気に入っているようだから、まあ、良いかなと…。ピンクのうさぎの目も、ベアトリーチェ殿の研究だよ」
「ピンクのうさぎって?」
ルイスの問いに、湯気を立てるティーカップを持ったエリアスが、公爵の代わりに答えた。
「叔父上の可愛いペットだよ。ふーん、あれ魔女殿が作ったのか…良いなぁ…」
後半は独り言のように呟き、エリアスはカップを口に運ぶ。その言葉を公爵は補足した。
「昔ね、私の庭園で白兎をひろったんだ。そのこをベアトリーチェ殿に預けたら、ピンクの兎になって返ってきたんだよね。毛の色だけじゃなく、目の色も変わってたから最初は本当に驚いたよ」
公爵は1人納得したようになんども頷く。そんな公爵の姿に、ルイスは怪訝そうに目を眇めた。
「それは単に、別の兎にすり替えられた訳では?」
「ないんだよねぇそれが。翌日には元の姿に戻ってるし。今もたまにピンクになるんだ。本当に不思議だよねぇ」
気怠げに笑った公爵は、紅茶を飲み終えると、自らの机に戻り便箋を取り出しペンをとった。
「エリアス、この薬貰って良い?」
「そのつもりで持って来たので構いません」
「ありがとう。それじゃあ、ルイスはこれを錬金術師の塔のベアトリーチェ殿の所に持って行って、詳しく調べてもらって来てくれるかな」
公爵は便箋にペンを走らせた後、折りたたんで封筒に入れる。
「別に構いませんが、何故僕なんですか?」
「ベアトリーチェ殿は綺麗なものが大好きだからね。君が顔を見せれば、喜んで調べてくれるさ。…それに、今から行けば面白いものが見られるよ。多分ね」
封筒と小瓶をルイスに差し出した公爵は、意味ありげに微笑んだ。
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