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第一章

11.ピンクのうさぎとカツサンド 1

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こちらは、web版『一年後に死亡予定の嫌われ婚約者が、あなたの幸せのためにできる事』の1章続編となります。
ここまでのweb版ストーリーは、後日あらすじを公開予定です。

ここから先は、書籍版のデビュタント翌日と重なります。
(書籍版とこちらのWeb版は繋がっていません)


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼



 夜会の翌日。午前中に執務室にやってきたメイド姿の少女を見て、ガーフィールド公爵は、脱力したように肩を落とした。

「昨日の文句を言いにきたのかい?」

「まさか。それはあくまでもオマケです」

 公爵は苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべる。そんな公爵とは裏腹に、メイドは艶やかに微笑んだ。

 左右二つに分けて耳下で結んだピンクブロンドの髪に、ブルーグレーの瞳。けぶるような長いまつ毛。くっきりとしたアーモンドアイの少女は、一目でガーフィールド公爵家のメイドだと分かる、特徴的なメイド服を着ていた。


 白いブラウスの上に、胸元が大きく開いた黒いワンピースを重ね、その上にはたっぷりとギャザーをとった白いエプロンをつけている。
 スカート部分は全円のフレアスカートになっていて、その裾からは、何重にも重ねられたレースがのぞいていた。





「いやだ、私には用はない。帰ってくれ」

 メイド姿の少女を警戒するように、公爵は椅子から腰を浮かせる。完全に逃げる態勢に入った公爵に向けて、メイドは手に持った大きなバスケットを見せつけた。

「まあ、そういわず。閣下、昼食に新メニューはいかがですか?」

 少女の言葉に公爵の肩がぴくりと震えた。そのまま思案するように沈黙する。
 けれど、しばらくした後、9歳から自分を振り回してきた部下を前にして、「降参」と言わんばかりに、浮かしていた腰を椅子に落とした。








 公爵は手に持ったサンドイッチを、口に入れ咀嚼した。サクっと音がする。その後ジュワッと肉とソースの味が口の中に広がった。

 とても分厚く切られた肉なのに、臭みは全くなく、柔らかい。何より肉の味は濃厚だった。



「これは……美味しい……」

 公爵が呆然と呟く。その姿を見て、メイドは得意げにうなずいた。

「その肉はブランド豚……他の豚とは違う付加価値を持つ高級肉として、品種改良しました。そして調理につかった油は菜の花から作り出した油です。動物からとったものや木の実からとった油とは違い、とても軽い味わいになります。ローヴェル領で話を聞いてくれる人達を探して、試行錯誤しつつ、ようやくここまで来ました」

 このメイドが出してくる異国の物らしき料理は、毎回、その美味しさに唖然とさせられる。しかし……

「豚の品種改良…」

「領民の生活に密着した1次産業に付加価値をつけることが出来れば、領民全体の生活の底上げに繋がります。今回は農家、畜産家、あと、孤児院の子供たちにも臨時の仕事として手伝って頂きました」

「……うん、まあ、いいや。それで?」

「ローヴェル領の予算をください!!予算の問題で、話に乗ってくれる領民が少なすぎて、領のブランドとして軌道にのせるにはお金が足りません」

「アリシティア。君、人の領地で何してるの? 勝手に……」



 メイド姿のアリシティアに、じっとりとした視線を送り、公爵は二口目のカツサンドを口に入れた。

 髪の毛も目の色も違う。それだけではなく、目の形や鼻の高さまで、メイクのせいか違って見える。だが、目の前のメイドは、子供の頃から見ているアリシティアで間違いはなかった。

「だって、うちのアリヴェイル伯爵領は王都から離れすぎていて、不便だったんです」

「あのね、ローヴェル領の事なら、ルイスに言いなさい」

「嫌です。ルイス様は絶対に怒るから。閣下が裏から手を回して下さい」

 つんと顔を背けるアリシティアの言葉を遮るように、唐突に呑気な声が響いた。



「肉が美味しい。外側のサクサクが今までにない食感。油を多く使った感じはするけど、油の重みや匂いが全くしない。もうひとつくれる? 熱いサンドイッチも良いね」

 公爵の前に座って、それまで黙々と食べていた第二王子であるエリアスが、ひと皿分のカツサンドを全て食べきって、ようやく声を出した。

「ほんと? やっぱりカツサンドって転生物の鉄板なだけあるわね」

「鉄板?」

「なんでもない。あ、宣伝の一環として、城下でお店をひらこうと思っているのだけど、リアス出資してくれる?……っていうか、いつもの事だけど今日はリアスはなんでいるの?」

 アリシティアは招いてもいない客を、半ば呆れたような顔で見る。

「出資は計画次第だな。ピンク頭の公爵家のメイド服を着たうさぎが、大きなバスケットを持って叔父上の執務室に入っていったと俺の影から報告が入った。だから、昼に合わせて頑張って仕事を終わらせた」

「あっそ…」



 アリシティアは苦笑し、エリアスの皿にカツサンドを取り分けた。

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