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肉食系ヒロインちゃんは、隠しルートの攻略対象である私の婚約者を狙っている

婚約者はサイコパス

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 心臓が締め付けられる。絶望に息が止まる。私の目からポロポロと涙が溢れた。

「ア…レクさま、私、痛いとか、苦しいのは…嫌です」

 ふるふると首を横にふる。
 アレク様がどうしても飲めと言うのなら、飲まないとは言わない。けれど、それでも必死に訴えてみる。
 アレク様はサイコパスだと、まるちゃんが言っていた。だから私が死ぬのはきっとアレク様の中では決定事項なのだろう。それでも、少しでも私に情があるなら、せめて楽に死ねる毒にしてほしい。それなのに……。


「ごめんね? 痛くて苦しいのはどうしようもないんだ。だけど大丈夫。君の心臓がショックで止まらないように、安定剤も入っているから」


 全然大丈夫ではない。
どうやら、アレク様は私をすぐに死なせる気はないらしい。ショック死すら許しては貰えないのだ。
いや、もしかすると、それがサイコパスなアレク様なりの情なのだろうか。


 アレク様が差し出した薬瓶を受け取らなければならないけれど、恐怖に手が震えた。

 私の手が震えているのを見て、アレク様は小さく溜息した。

 ああ、大好きなアレク様を失望させてしまった。私はアレク様と出会った時に、絶対に彼を悲しませないし、裏切らないと約束したのに。

 私はゆっくり息を吐いてから、震える手を伸ばした。そして、アレク様の手から薬瓶を受け取って、一気に飲み下した。

 そんな私の姿を見て笑みを浮かべたアレク様は、天使のような清らかな美しさがあった。


 まるちゃん、アレク様って本当にサイコパスなんだね。




 毒は、飲むと同時に血反吐を吐いてのたうちまわるようなものではなかった。でも、喉が熱くなるのを感じた。これから訪れるだろう痛みと苦しみに、足が震えて崩れ落ちそうになった時、私の身体をアレク様が支えてくれた。


「アレク様…。熱い…」


 徐々に身体が熱くなる。熱が出てきたのだろうか。ここから痛みが出るのだろうか。

「薬が効いてくるまで、もうしばらく待とうね。薬が効く前にしてしまって、ティアラが心臓発作を起こすと大変だから」


 そう言ってアレク様は私を抱き上げ、奥の寝室へと連れて行った。心臓がばくばくする。
 しばらく待ってどうするんだろう。まさか、アレク様自らの手で拷問とか…。

 いや、アレク様はそんな野蛮な事はしない。…多分。アレク様は紳士なサイコパスだと思う。



 アレク様は寝台に私をおろした。アレク様の匂いがする。それだけで私はもういっぱいいっぱいだった。意識を失いそうになる。だけどアレク様はそれを許さず、ペチペチと私の頬を叩いた。


「こんな事で気絶してはだめだよ、ティアラ」


 気絶くらい許して欲しい。どうせ毒が効いてくれば、痛みで目が覚めるんだから。

「もう大丈夫かな」

 しばらくの間、私の頭をただ撫でていたアレク様は、小さく呟き私の頬に触れた。私の涙は止まっていて、視界はとってもクリアだ。彼の美しい瞳は真っすぐに私を見つめていて、こんな時だというのに、切なさに胸が締め付けられる。

「ティアラ」

 彼のとてつもなく美しい顔が近づいてくる。そして…。

 唇がほんの一瞬触れた。


 その衝撃ははかりしれなくて、何度目かわからないけれど、私の呼吸は止まった。

「ティアラ、息をして」


 アレク様の言葉に、真っ白になってとまった思考回路が、何とか再起動する。

 私の心臓は動いている。

「今、もしかして…」

「うん、ティアラにキスした」


 アレク様の言葉に再び呼吸を忘れかけた私に、

「だめだよ、息するの忘れちゃ」

 と、アレク様は鼻先を擦り合わせて笑った。そしてもう一度唇が押し付けられた。



「ねえ、口を開けて」

 私は言われた通り、少しだけ口を開いた。だって私にはアレク様のいう事は絶対だから。

 なんだろう、実はもう毒が脳に回っていて、死ぬ前に私の願望を夢にみているのだろうか。

 そうかもしれない。そうでなければ、アレク様とキスなんてして、私が正気を保っていられるとは思えないから。


「んっ……」


 ぬるりとアレク様の舌が入ってきた。私はどれくらい口を開けばいいか分からず、アレク様に合わせる。彼の舌が私の歯列をなぞり、私の舌に触れた。瞬間、驚いて舌を引っ込めようとしたけれど、アレク様の舌は私の舌をそのまま絡め取って、吸い上げた。



 ゾクゾクとしたどこか覚えのある感覚に恐怖して、私は思わず彼の服を掴んだ。呼吸が苦しい。

 私の心の声が聞こえたのか、もしくは私の表情から読み取ったのか、アレク様の唇が離れた。

「大丈夫。ゆっくり息をするんだ。これからもっとすごい事をするけど、死んじゃ駄目だよ?」

 毒を飲ませておいて死んではいけないだなんて、アレク様は無茶をいう。だけど私は頷いた。

「いい子だね、ティア」

 彼は鼻先を擦り合わせて、唇が触れるか触れないかの距離で、褒めてくれた。それが嬉しくて、私は笑った。痛くて苦しいと思っていたのに、こんなにすてきな夢が見れたのだ。思い残す事はない。

 だって、アレク様と現実にこんな事をすれば、私は間違いなく気絶するか、下手すれば心臓発作を起こす。





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