なくした約束

田古みゆう

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なくした約束(6)

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 鈴木綾音に感じる小さな違和感に首を傾げつつ、母校の門をくぐる。駐輪場を通り過ぎグラウンドを横目に、先を行く皆の足はどうやら中庭へ向かっているようだ。高校時代をぼんやりと過ごしていたからなのか、あまり思い出らしい思い出もないのだが、こうして校内を歩けば、確かにこんな感じだったかもしれないと、薄っすらと当時のことが思い出された。

 先頭はすでに目的の場所に辿り着いているらしく、中庭の一角に小さな人垣ができていた。

「なあ。いくらタイムカプセルを埋めたとはいえ、勝手に掘っていいのか?」

 隣の友人に至極当然の疑問をぶつけると、向こうも当然というように面白くなさそうな声で答える。

「ちゃんと事前に許可をもらってるんだろ。でなきゃ、いくら卒業生とはいえ無断で校内に入ることなんてできないだろ。このご時世」
「まあ、確かにそうか」

 高校生の頃には考えたこともないような会話を当たり前のように交わしながら、俺たちも人垣の最後尾に加わった。

 タイムカプセルといえば、埋めた場所が分からず皆で大捜索。泥だらけになりつつも結局見つけられなかった、なんてことをテレビやなんかでよく聞く。

 もしもタイムカプセルを埋めた記憶のない俺が捜索担当だったら、そんなドラマチックなことも起こり得ただろうが、俺たちの幹事は酔っていながらもしっかりとした奴だった。お目当てのものは一切捜索されることもなく、すこぶるあっさりと掘り返された。

 土から出されたそれは、泥だらけのプラスチックの容器だった。十年くらいでは劣化もしていないようで、何だかタイムカプセルというには風情のないただのゴミに俺には見えた。しかし、元同級生たちは楽し気にキャッキャッと声を弾ませながら、まるで徳川埋蔵金でも掘りあてたような期待に満ちた目を向けている。あの頃から、俺と彼らにはこれほどの温度差があったのだろう。

 冷めた目をする俺をよそに、タイムカプセルは丁寧に開封され、中に封印されていたお宝がそれぞれの手へと渡されていった。俺の名前も呼ばれ、なんだ、十年前の俺はしっかりとクラスのイベントに参加していたんだな、などと変に感心をしつつ自身の宝を回収した。

 俺に手渡されたものは、密閉された袋に入った小さな紙切れだった。それを見ても俺の記憶は刺激されない。手の中に収まる小さな紙片に首を傾げる。まさか、十年後の自分に向けて手紙を書いたなんてセンチメンタルなことを俺はしたのだろうか。
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