なくした約束

田古みゆう

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なくした約束(5)

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 会食中、俺はずっと不機嫌だった。不機嫌な理由は、田舎臭い料理が続くコースメニューのせいなどではなく、隣に座る友人のくだらない品評会のせいでもない。チラチラと頻繁に送られてくる視線が、実に鬱陶しかったのだ。

 鈴木は両隣の奴らと楽しそうに言葉を交わしながら、事あるごとに俺に視線を送ってきていた。その視線が「どう? 約束、思い出した?」とでも言っているようで、俺はまるで気が休まらず、せっかくの食事も味わえなかった。

 常に見られている居心地の悪い会食が終わるころには、酒も入り、周りの皆はすっかり出来上がっていた。初めのうちは遠慮がちだった声も、会終盤には大声で話す奴ばかりで、変に大人ぶって名刺交換なんかをしていた奴らは、肩を組んで大笑いしている。傍から見れば、それなりに盛り上がった同窓会になったのだろう。赤ら顔の幹事が、会食の終わりを告げた。

 いよいよこの後は、ビッグイベントと言っていたタイムカプセルの開封に向かうらしい。タイムカプセルは、料亭から十分程歩いた先の高校の中庭に埋めてあるので、各自で学校へ移動するようにとのことだった。皆がそそくさと店を出ていく後を追って、俺も友人と連れ立って料亭を出た。

 都会では大の大人がぞろぞろと列をなして歩く姿は当たり前の風景かもしれないが、田舎ではまずこんな光景に出会うことはない。なんだか不思議な集団だなと他人事のように、列の後ろをつかず離れずのんびりと歩く。少し前を行く女子の集団の中に、鈴木綾音の後ろ姿を見つけた。

 周りの女子たちよりも身長が低いのか、鈴木は少し見上げるようにして周りに相槌を打っていた。そんな彼女の楽し気な背中に、三つ編みおさげが垂れた背中を少し丸めたどこか寂しそうな後ろ姿が、ふと重なった。鈴木の背中を見やりながら、隣をぶらぶらとだらしなく歩く友人に向けて、胸に浮かんだ小さな違和感を投げる。

「なぁ。鈴木綾音って、あんなに周りと話す奴だったか?」
「あ? 鈴木? そういえば、いつも一人でいたような……あんまり周りと馴染んでる感じじゃなかったなぁ」
「だよなあ。なんか、俺も今そんな感じがしてさ。いつも列の最後尾を一人でのそのそと歩いてる感じ?」
「ああ。そうだったかも。なんだ? やっと鈴木のこと思い出したのか?」
「いや、……なんか、そんな感じだったなって朧げに思っただけで、まだ……」

 ごにょごにょと言い訳めいた事を口にしながら、もう一度鈴木を見る。
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