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不貞と毒
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「義姉さん、大丈夫?顔色が悪いし、すごく疲れた顔してるよ?」
「すごく疲れているわよ。介護鬱になりそう…。」
「え?カイゴウツ?」
「あ…、何でもないわ。
それより、ギル。誕生日おめでとう!
はい。プレゼント!」
今日はギルの誕生日をお祝いする為に、ランチの時間に2人でレストランに来ている。
前から約束していたから、この日だけは仕事は入れなかったし、伯爵家の執務も昨日のうちに、死に物狂いで終わらせてきた。
「義姉さん、忙しいのにありがとう。プレゼント開けてもいい?」
「勿論よ。」
「……これは万年筆?」
「そうよ。オーダーで作ってもらったの。
仕事で大切な契約の時にでも使って欲しいわ。」
「名入れがしてある…。
ありがとう。大切にする!」
近い将来、出戻りおばちゃんになる私からのプレゼントを、ここまで喜んでくれるなんて……。
義弟が可愛くて仕方がないんだけど。
しかも、久しぶりの外食は気分転換になるよね。
「義姉さん。あの女なんだけど、子爵家の侍医にも妊娠してないと診断されて落ち込んでいたみたいだよ。」
「…え?まだ妊娠していると思い込んでいたの?」
「うん。それを幼馴染の庭師に慰めてもらってるみたい…。」
「慰めてもらったって?」
「男女の関係になってるってこと。」
「は?でも、伯爵様が大好きだったのよ。」
「寂しさを紛らわしてくれれば、相手は誰でもいいんじゃない?
実家に里帰りをして不貞をしても、バレないって考えているのだろうね。」
「あの子、前はそんな風に見えなかったのにね。
離れの部屋にいるって言ってたけど、専属のメイドは常に側にはついていないのかしら?」
「食事とかを運んでくる時以外は、1人で部屋にいるって聞いてるけど。あの子爵家も裕福ではないから、使用人はそんなに多くはないと聞いたな。
不貞の現場はカメラで証拠を押さえているから問題はないんだけどね…。」
「カメラの出番があったのね。それは良かったわ。」
「それより問題なことがあってね…、あの女が庭師に、毒を用意して欲しいって頼んでいたんだよね。
その会話も録画されているからね。」
あの女!
「私殺されるの…?」
「義姉さんに直接盛るのか、自分が飲んで被害者の振りをするのかは分からないけど、あの女が伯爵家に戻って来たら、何かやるつもりなのだと思う。
毒物を所持していること自体が犯罪になるから、あの女が伯爵家に戻って来たら、抜き打ちで持ち物検査でもやる?」
「持ち物検査で簡単に見つかるかしら?」
「その話を聞いてから、庭師も監視対象にしているんだ。庭師が毒を買いに行っている所もカメラで撮るように指示を出してるよ。」
さすがギルね。
「もしかして庭師を捨て駒にする為に、体を使って誘惑でもしたのかしら?」
「あの女ならやりかねないかもね。
ところで、まだ伯爵は臥せっているの?」
「まだ具合は良くないわね。
早く元気になってくれないと、私の計画が狂うから困るのだけどね…。
あの女に襲われる夢を見たりして、不眠に悩まされているみたいよ。
あの女が不貞してくれたなら、ちょうど良かったわ。離縁が出来れば、伯爵様も眠れるようになって元気になれるかもしれないわね。」
「ハァー。義姉さんは優し過ぎだよ。
あんな男のことなんか心配しなくていいのに。」
「そうもいかないのよ…。
具合の悪い伯爵様を捨てた悪女とか言われたくないから、私と離縁するまでは元気でいてくれないとダメなのよ!」
「…はいはい。分かったよ。」
ギルとの楽しいランチを終えて伯爵家に戻ると、
「エレノア…、なかなか帰って来なかったから心配していた。
どこまで行っていたんだ?」
まだ体調は万全ではない伯爵様が玄関まで出てきた。
最近、すっかり面倒な人になってしまったようだ。
顔がひきつりそうになるのを何とか我慢して、可愛い?笑顔を作る私。
「伯爵様。ただいま帰りました。
まだ体調が悪いのですし、私が伯爵様の部屋に伺いますから、こんな冷える所まで出て来ないで下さいませ。」
「奥様。旦那様には何度も部屋に戻るようにお話をしたのですが、奥様が帰って来ない・どこに行ったのか・何かあったのではと、ずっとここでフラフラしていたのです。
非常に困りました。」
子供か!
「……トーマスも大変でしたね。」
「エレノア、私はただ君が心配だっただけだ。」
「ギルの誕生日をお祝いしてきただけで、何も心配されるようなことはありませんでしたわ。
さあ、お部屋に戻りましょう。」
「……誕生日のお祝い?」
ピクっと伯爵様の表情が一瞬で険しくなるのが分かった。
あっ!うっかり誕生日と言ってしまったわ…。
「エレノア…、行こう。」
伯爵様にグイッと手を引かれる。
具合が悪くなってから距離が近くなったよね。子供が母親の手を引いているみたいじゃないの。
ハァー。一気に疲れが…。
何なのよ…。こっちは多忙で寝不足なのに。
そのまま伯爵様の部屋に連れて行かれる。
「エレノア…、君は私の妻だ。他の男の誕生日なんて祝って欲しくない。」
その話かい!
「ギルは義弟ですわ。それに、ギルは私の誕生日を毎年祝ってくれていたのです。ですから、私だってギルの誕生日をお祝いしますわよ。」
あー、疲れた。いい加減、体力の限界だわ…
「……っ!来年のエレノアの誕生日は私が絶対に祝いたい。
約束して……、エレノア…?おい!」
あれ、目の前がグラっとして…る?
ドサッ!
「エレノア!しっかりしろ…エレノア!」
体力の限界を迎えた私は倒れてしまったらしい…
「すごく疲れているわよ。介護鬱になりそう…。」
「え?カイゴウツ?」
「あ…、何でもないわ。
それより、ギル。誕生日おめでとう!
はい。プレゼント!」
今日はギルの誕生日をお祝いする為に、ランチの時間に2人でレストランに来ている。
前から約束していたから、この日だけは仕事は入れなかったし、伯爵家の執務も昨日のうちに、死に物狂いで終わらせてきた。
「義姉さん、忙しいのにありがとう。プレゼント開けてもいい?」
「勿論よ。」
「……これは万年筆?」
「そうよ。オーダーで作ってもらったの。
仕事で大切な契約の時にでも使って欲しいわ。」
「名入れがしてある…。
ありがとう。大切にする!」
近い将来、出戻りおばちゃんになる私からのプレゼントを、ここまで喜んでくれるなんて……。
義弟が可愛くて仕方がないんだけど。
しかも、久しぶりの外食は気分転換になるよね。
「義姉さん。あの女なんだけど、子爵家の侍医にも妊娠してないと診断されて落ち込んでいたみたいだよ。」
「…え?まだ妊娠していると思い込んでいたの?」
「うん。それを幼馴染の庭師に慰めてもらってるみたい…。」
「慰めてもらったって?」
「男女の関係になってるってこと。」
「は?でも、伯爵様が大好きだったのよ。」
「寂しさを紛らわしてくれれば、相手は誰でもいいんじゃない?
実家に里帰りをして不貞をしても、バレないって考えているのだろうね。」
「あの子、前はそんな風に見えなかったのにね。
離れの部屋にいるって言ってたけど、専属のメイドは常に側にはついていないのかしら?」
「食事とかを運んでくる時以外は、1人で部屋にいるって聞いてるけど。あの子爵家も裕福ではないから、使用人はそんなに多くはないと聞いたな。
不貞の現場はカメラで証拠を押さえているから問題はないんだけどね…。」
「カメラの出番があったのね。それは良かったわ。」
「それより問題なことがあってね…、あの女が庭師に、毒を用意して欲しいって頼んでいたんだよね。
その会話も録画されているからね。」
あの女!
「私殺されるの…?」
「義姉さんに直接盛るのか、自分が飲んで被害者の振りをするのかは分からないけど、あの女が伯爵家に戻って来たら、何かやるつもりなのだと思う。
毒物を所持していること自体が犯罪になるから、あの女が伯爵家に戻って来たら、抜き打ちで持ち物検査でもやる?」
「持ち物検査で簡単に見つかるかしら?」
「その話を聞いてから、庭師も監視対象にしているんだ。庭師が毒を買いに行っている所もカメラで撮るように指示を出してるよ。」
さすがギルね。
「もしかして庭師を捨て駒にする為に、体を使って誘惑でもしたのかしら?」
「あの女ならやりかねないかもね。
ところで、まだ伯爵は臥せっているの?」
「まだ具合は良くないわね。
早く元気になってくれないと、私の計画が狂うから困るのだけどね…。
あの女に襲われる夢を見たりして、不眠に悩まされているみたいよ。
あの女が不貞してくれたなら、ちょうど良かったわ。離縁が出来れば、伯爵様も眠れるようになって元気になれるかもしれないわね。」
「ハァー。義姉さんは優し過ぎだよ。
あんな男のことなんか心配しなくていいのに。」
「そうもいかないのよ…。
具合の悪い伯爵様を捨てた悪女とか言われたくないから、私と離縁するまでは元気でいてくれないとダメなのよ!」
「…はいはい。分かったよ。」
ギルとの楽しいランチを終えて伯爵家に戻ると、
「エレノア…、なかなか帰って来なかったから心配していた。
どこまで行っていたんだ?」
まだ体調は万全ではない伯爵様が玄関まで出てきた。
最近、すっかり面倒な人になってしまったようだ。
顔がひきつりそうになるのを何とか我慢して、可愛い?笑顔を作る私。
「伯爵様。ただいま帰りました。
まだ体調が悪いのですし、私が伯爵様の部屋に伺いますから、こんな冷える所まで出て来ないで下さいませ。」
「奥様。旦那様には何度も部屋に戻るようにお話をしたのですが、奥様が帰って来ない・どこに行ったのか・何かあったのではと、ずっとここでフラフラしていたのです。
非常に困りました。」
子供か!
「……トーマスも大変でしたね。」
「エレノア、私はただ君が心配だっただけだ。」
「ギルの誕生日をお祝いしてきただけで、何も心配されるようなことはありませんでしたわ。
さあ、お部屋に戻りましょう。」
「……誕生日のお祝い?」
ピクっと伯爵様の表情が一瞬で険しくなるのが分かった。
あっ!うっかり誕生日と言ってしまったわ…。
「エレノア…、行こう。」
伯爵様にグイッと手を引かれる。
具合が悪くなってから距離が近くなったよね。子供が母親の手を引いているみたいじゃないの。
ハァー。一気に疲れが…。
何なのよ…。こっちは多忙で寝不足なのに。
そのまま伯爵様の部屋に連れて行かれる。
「エレノア…、君は私の妻だ。他の男の誕生日なんて祝って欲しくない。」
その話かい!
「ギルは義弟ですわ。それに、ギルは私の誕生日を毎年祝ってくれていたのです。ですから、私だってギルの誕生日をお祝いしますわよ。」
あー、疲れた。いい加減、体力の限界だわ…
「……っ!来年のエレノアの誕生日は私が絶対に祝いたい。
約束して……、エレノア…?おい!」
あれ、目の前がグラっとして…る?
ドサッ!
「エレノア!しっかりしろ…エレノア!」
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