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鬼嫁は休業中 2

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「おはようございます。
 伯爵様、昨夜は眠れましたか?」


 体調を崩している旦那様の面倒を見るために、家庭内別居を一時中断することにした私は、洗面を手伝うために、伯爵様の部屋にやって来た。


「エレノアか…。朝から悪いな。
 昨夜は真夜中に目覚めてしまって、それから眠れなかったんだ。」

 クマができて、悪霊にでも取り憑かれたような顔してる。
 これ…、ヤバくない?
 霊媒師ってこの世界にいないのかしら?


 早く元気になってくれないと困るのに…。

 このまま具合が悪いままになったら、私…、離縁するタイミングを逃しちゃう。

 いくら白い結婚だと言っても、具合の悪い亭主を捨てたなんで噂になったら、極悪妻とか言われて、私の事業に悪影響だわ。


 絶対に元気になってもらわなければならない!!


 顔が引きつらないように我慢よ!
 私は可愛い白衣の天使。鬼嫁封印。そう思い込んで関わらないと。


「伯爵様、真夜中に目覚めてしまったとは?怖い夢でも見たのですか?」

「………あの女に襲われる夢を見た。」


 えぇーー!



 私がこの前、

『いくら媚薬を盛られたと言っても、他の女と情を交わした人と普通の夫婦になるなんてムリ』

 とか言っちゃったから?

 どうしよう…。謝る?励ます?


「伯爵様、そこまで傷ついていたのですね…。
 それなのに、私は自分ばかりが辛いと考えて、伯爵様に酷いことを言ってしまいましたね。
 申し訳ありませんでした。」

 とりあえず謝っておくことにした。

「エレノアは悪くない。私は君に酷いことをして、沢山傷つけた…。私が悪い。
 でも私は…、あの女は許さない。」

 ホッとする私。

 だよねー!私は被害者ですよー!

「伯爵様。早く元気になって下さいませ。元気にならないと、あの女に太刀打ちできませんわ。」

「そうだな…。」

 フッと力無く笑う伯爵様。


 その日から、朝・昼・夕・夜と伯爵様の部屋に行き、甲斐甲斐しく世話をすることにした。
 目的は一つ、早く元気になってもらうために。


『伯爵様、美味しいと評判のプリンを買って来ましたわ。食欲がない時でも食べやすいですわよ。』

『伯爵様、よく眠れるというハーブティーをお持ちしました。』

『ぐっすり眠れるように、寝る前にマッサージしますわね。』

『伯爵様、今夜は少し冷えるみたいなので、毛布を一枚多くかけておきますわ。』

『リラックス効果のある入浴剤を用意しましたわよ。』

『眠れるまで付いていますから、安心してくださいね。』


 伯爵家の執務を手伝い、自分の事業の仕事をしながら、ひたすら頑張った。
 
 伯爵様が元気になってくれないと、予定通りに離縁出来ないからね。

 その甲斐あって、伯爵様は少しずつ回復してきたのだが、少々、私に依存するようになってしまった。





 ある日の朝食前。


「奥様。旦那様がお呼びです。」

 家令のトーマスに朝から声を掛けられる。

 はあ?朝から何なのよ?
 忙しくて寝不足でしんどいのに、朝から呼び出しを受けた私は、若干イラッとしながら伯爵様の部屋に向かう。


「伯爵様、お呼びですか?」

「エレノアか…?」

 死にそうな顔をして窓辺に佇む伯爵様がいた。
 今度は何?

「はい。おはようございます。」

 伯爵様の近くに行くと、急にグイッと手を引かれ、私は伯爵様に抱き寄せられていた。


 はあ?何してんだ、このセクハラ男!


「エレノアがこの邸から出て行ってしまう夢を見たんだ。
 悲しくて、寂しくて、死にそうになる夢だった。
 ……私を捨てないでくれ。」

 嘘でしょ?また面倒な夢を見てくれたわね!

 私、限界なんだけどー。

 精神科のドクター、誰か来てぇー!
 ナースコールを押したいくらいだわ。



「伯爵様、怖い夢を見てしまって落ち込んでしまったのですね。
 よしよし…。大丈夫ですわよー。ただの夢ですからねー。」

「エレノア、ずっとこうしていたい…。」

 ちっ!面倒だわ。

 私はこの男を大きな子供だと思うことにした……





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