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閑話 アブス子爵令嬢
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好きな人はロジャース伯爵様だと、勇気を出してお母様に打ち明けたのに。
お母様の表情は一瞬で厳しくなってしまった。
「ララ、ロジャース伯爵様だけは絶対に認められないわよ!」
「どうしてですか?伯爵様だし、素敵でお優しいお方なのです。」
「……没落しそうだという噂よ。」
「え?」
「先代の伯爵様と夫人が作った膨大な借金があるらしいわ。ロジャース伯爵様が良い方であっても、借金で苦しむような家門に嫁がせるなんてことは、私は絶対に致しません!」
全ての疑問が解けた。
膨大な借金があって没落しそうだから、どの御令嬢も相手にしていなかったのだわ。
友人が少ない私は何も知らなかった。
借金さえなければ、見目麗しくて素敵な方だから、きっと今頃は想い合うような相手がいたに違いない。
「ララ、ロジャース伯爵様は忘れなさい。ウチみたいな子爵家が縁を結べるような家門ではないわ。苦労するのが分かりきっているのですから。
…分かったわね?」
「……はい。分かりました。」
簡単に忘れることが出来たなら、どんなに楽なことか…。
初めての恋だったし、あんな素敵な方に優しくされたことだって生まれて初めてのことだったのに…。
でも、夜会で挨拶するくらいならいいわよね?
思いを伝えることは出来ないけど、遠くから見つめることくらいは許して。
次の恋を見つけるまでは…。
婚約者を決めるまでは…。
いつまでも思い続けていたら、あっと言う間に3年が経っていた。
20歳になった私は、そろそろ本気で婚約者探しをしなければならなかった。
しかし、私はロジャース伯爵様がまだ好きだったし、お母様はお母様で、うちよりも爵位が上の家門だと言い張って、子爵家や男爵家からくる数少ない縁談話にですら難色を示していたので、なかなか婚約者は決まらなかった。
そんな時だったと思う。
自分以外にも、ロジャース伯爵を見つめている令嬢がいることに気付いてしまった…。
その御令嬢は、エレノア・ベネット伯爵令嬢。
商売で成功している大金持ちの伯爵家の御令嬢。
私より少し年下のその御令嬢は、キラキラと輝くようなホワイトブロンドの髪に、パッチリとしたブルーの大きな瞳を持つ美しい少女だった。
沢山の令息が振り返って見惚れるくらいの美少女。
御令嬢に無関心だったはずのロジャース伯爵様ですら、ベネット伯爵令嬢には見惚れていたことがあった。
心が締め付けられるように痛い。
でも、もっと苦しく感じたのは、ベネット伯爵令嬢に挨拶をされて、嬉しそうにしていたロジャース伯爵様を見た時。
いつもは表情が乏しいロジャース伯爵様が、一瞬だけ表情を柔らかくするのだ。
私がいくら挨拶しても、あんな表情をしてくれたことは無かった。
飲み物を持って行っても、ただ普通にお礼を言われるだけ。あんな風に喜んでくれたことは無かった…。
ロジャース伯爵様とベネット伯爵令嬢は両思いに違いない。
でも、なせだろう…?
好きな人の幸せを願うべきなのに素直に喜べない自分がいた。
ベネット伯爵令嬢は、令息達に人気があるらしく、夜会では沢山の令息に言い寄られている姿をよく見る。
あれだけの美貌で、大金持ちなのだから当然ね…。
私とは全く違うタイプで、何の不自由もないんだろうな。羨ましい…。
後日、王宮での建国記念の夜会にて。
少し離れた所にベネット伯爵令嬢がいるのが見える。
……今日も憎らしいくらい美しいわ。ドレスも流行の最先端のものかしら?ステキに着こなしている。
あの令嬢を見ているだけで、こんなにも惨めな気持ちになるのね。
「おい、エレノア!
……私と踊って頂けませんか?」
えっ?あれは王子殿下じゃないの!王子殿下にダンスに誘われるくらい仲がいいの?
しかも殿下は〝エレノア〟って呼び捨てにしていたわ。
「…まあ、王子殿下。ここは学園のパーティーではないのですから、私なんて相手にせずに、殿下に思いを寄せる御令嬢方をお誘いしてはどうでしょうか?
ほら、見てくださいませ!沢山の御令嬢が殿下を見つめていらっしゃいますわよ。」
「……いいから、命令だ。踊るぞ!」
「…ちょっと、殿下!」
王子殿下は強引にベネット伯爵令嬢の手を引いて行ってしまった…。
何なの…?王子殿下からも言い寄られて。
しかも、殿下のお誘いを断ろうとしていたわ!
身分の高い殿方に沢山言い寄られているのだから、ロジャース伯爵様じゃなくてもいいじゃないの。
エレノア・ベネット……
貴女ばかり狡い!!
それから数ヶ月後に、ロジャース伯爵様とベネット伯爵令嬢の婚約が発表されたのであった。
お母様の表情は一瞬で厳しくなってしまった。
「ララ、ロジャース伯爵様だけは絶対に認められないわよ!」
「どうしてですか?伯爵様だし、素敵でお優しいお方なのです。」
「……没落しそうだという噂よ。」
「え?」
「先代の伯爵様と夫人が作った膨大な借金があるらしいわ。ロジャース伯爵様が良い方であっても、借金で苦しむような家門に嫁がせるなんてことは、私は絶対に致しません!」
全ての疑問が解けた。
膨大な借金があって没落しそうだから、どの御令嬢も相手にしていなかったのだわ。
友人が少ない私は何も知らなかった。
借金さえなければ、見目麗しくて素敵な方だから、きっと今頃は想い合うような相手がいたに違いない。
「ララ、ロジャース伯爵様は忘れなさい。ウチみたいな子爵家が縁を結べるような家門ではないわ。苦労するのが分かりきっているのですから。
…分かったわね?」
「……はい。分かりました。」
簡単に忘れることが出来たなら、どんなに楽なことか…。
初めての恋だったし、あんな素敵な方に優しくされたことだって生まれて初めてのことだったのに…。
でも、夜会で挨拶するくらいならいいわよね?
思いを伝えることは出来ないけど、遠くから見つめることくらいは許して。
次の恋を見つけるまでは…。
婚約者を決めるまでは…。
いつまでも思い続けていたら、あっと言う間に3年が経っていた。
20歳になった私は、そろそろ本気で婚約者探しをしなければならなかった。
しかし、私はロジャース伯爵様がまだ好きだったし、お母様はお母様で、うちよりも爵位が上の家門だと言い張って、子爵家や男爵家からくる数少ない縁談話にですら難色を示していたので、なかなか婚約者は決まらなかった。
そんな時だったと思う。
自分以外にも、ロジャース伯爵を見つめている令嬢がいることに気付いてしまった…。
その御令嬢は、エレノア・ベネット伯爵令嬢。
商売で成功している大金持ちの伯爵家の御令嬢。
私より少し年下のその御令嬢は、キラキラと輝くようなホワイトブロンドの髪に、パッチリとしたブルーの大きな瞳を持つ美しい少女だった。
沢山の令息が振り返って見惚れるくらいの美少女。
御令嬢に無関心だったはずのロジャース伯爵様ですら、ベネット伯爵令嬢には見惚れていたことがあった。
心が締め付けられるように痛い。
でも、もっと苦しく感じたのは、ベネット伯爵令嬢に挨拶をされて、嬉しそうにしていたロジャース伯爵様を見た時。
いつもは表情が乏しいロジャース伯爵様が、一瞬だけ表情を柔らかくするのだ。
私がいくら挨拶しても、あんな表情をしてくれたことは無かった。
飲み物を持って行っても、ただ普通にお礼を言われるだけ。あんな風に喜んでくれたことは無かった…。
ロジャース伯爵様とベネット伯爵令嬢は両思いに違いない。
でも、なせだろう…?
好きな人の幸せを願うべきなのに素直に喜べない自分がいた。
ベネット伯爵令嬢は、令息達に人気があるらしく、夜会では沢山の令息に言い寄られている姿をよく見る。
あれだけの美貌で、大金持ちなのだから当然ね…。
私とは全く違うタイプで、何の不自由もないんだろうな。羨ましい…。
後日、王宮での建国記念の夜会にて。
少し離れた所にベネット伯爵令嬢がいるのが見える。
……今日も憎らしいくらい美しいわ。ドレスも流行の最先端のものかしら?ステキに着こなしている。
あの令嬢を見ているだけで、こんなにも惨めな気持ちになるのね。
「おい、エレノア!
……私と踊って頂けませんか?」
えっ?あれは王子殿下じゃないの!王子殿下にダンスに誘われるくらい仲がいいの?
しかも殿下は〝エレノア〟って呼び捨てにしていたわ。
「…まあ、王子殿下。ここは学園のパーティーではないのですから、私なんて相手にせずに、殿下に思いを寄せる御令嬢方をお誘いしてはどうでしょうか?
ほら、見てくださいませ!沢山の御令嬢が殿下を見つめていらっしゃいますわよ。」
「……いいから、命令だ。踊るぞ!」
「…ちょっと、殿下!」
王子殿下は強引にベネット伯爵令嬢の手を引いて行ってしまった…。
何なの…?王子殿下からも言い寄られて。
しかも、殿下のお誘いを断ろうとしていたわ!
身分の高い殿方に沢山言い寄られているのだから、ロジャース伯爵様じゃなくてもいいじゃないの。
エレノア・ベネット……
貴女ばかり狡い!!
それから数ヶ月後に、ロジャース伯爵様とベネット伯爵令嬢の婚約が発表されたのであった。
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