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金貨

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 実家にいる間、情報ギルドに行き新たな投資先を探しつつ、自分でカフェでも経営してみたいと思った私は店舗探しなどをして過ごしていた。

 これから仕事が忙しくなりそうだと考えた私は、一応はまだ自分の旦那でもあるロジャース伯爵に手紙を出すことにした。
 ロジャース伯爵家に迷惑をかけない範囲で、私個人で事業をしたいと思っているので、ロジャース伯爵家の邸の中に、私の事業用の執務室として使用する部屋を貸して欲しいこと。また、そのための使用人を私個人で雇いたいので、その使用人達の使う部屋も貸して欲しいという内容の手紙だ。

 そんなことは手紙にしなくても、伯爵家に帰った時に直接会って話せばいいだけなのだが、あの男の顔は見たくなかったし、直接話したくもなかった。
 私としては家庭内別居に持っていくつもりでいるので、あの顔だけ男に関わるのは必要最低限にしたいと思っている。なので、実家の騎士に手紙を届けてもらうことにした。
 騎士は単騎ですぐに届けてくれ、返事の文までもらって帰って来てくれた。

 伯爵様からの手紙には認めてくれるという内容が書いてあった。
 当然よね! 貧乏伯爵家は使用人は少なくて、あの顔だけ男が一人で住んでいるから、部屋が沢山余っているのは知っているんだから。
 あの男が私に出来ることは、一応は妻である私に最低限の住む場所を提供することと、邸の部屋を事業用に貸すくらいのことだけだからね。

 よし! 私用の執務室に置く机やテーブルなどを準備しなければ。新しく連れて行くメイドと騎士、従者も探そうっと。

 そんな風に実家で忙しくしていたら、私はお父様とお母様にお呼び出しを受けることになった。
 激甘の両親だが、いつまでも嫁入り先に戻らない私にお説教でもするのかもしれない。緊張しながらお父様の執務室に行くと、びっくりする物を渡されたのだった。

「ノアにこれを見せていいものか迷っていたのだけどな……」

 お父様から書類を渡される。
 何の書類だろう? どれどれ……
 その書類には『アラン・ロジャースに関する報告書』と書いてあったのだった。

「お父様は伯爵様のことを調べていたのですね」
「大切な娘が気に入った相手を調べるのは当然だ。
 ノアがロジャース伯爵と結婚したいと言ったすぐ後に調べさせておいたんだ。
 あの時にロジャース伯爵のことを隠れて調べたと言っていたら、ノアは怒ると思っていたから隠していたんだよ。
 後でじっくり読んでおきなさい」

 確かに頭の中がお花畑だった当時のエレノアが、大好きな伯爵様のことを、両親が隠れて調べていたと知ったら怒っていただろう。
 あの時のエレノアは恋は盲目になっていたからなぁ……
 頭がお花畑だったエレノアのバカヤロー!

「ノアは近いうちに、ロジャース伯爵家に戻るのでしょう? これを持って行きなさい」

 お母様は、テーブルの上に大きめのコイン袋を三つゴトっと乗せるのであった。勿論、パンパンに金貨が入っていて重そうだった。
 えっと……、お金は自分でもある程度は持っているつもりなんだけどね。
 こんな大金どうしろと? お餞別ですか?
 ちなみにこの世界で、金貨一枚で平民の1ヶ月分の給料より多い額だと言われている。平民なら銅貨や銀貨で十分に生活できると聞いた。それくらい金貨は高価なのだが……

「お母様、このお金は何でしょうか?」
「ノアはメイドや騎士、従者に秘書官と多めの使用人を連れてロジャース伯爵家に行くわよね?」
「……はい」
「恐らくだけど、ロジャース伯爵家に前から仕えている使用人達は面白くはないと思うわ。見方によっては自分達は信用されていないと感じるでしょうし、ノアが連れて行った使用人とロジャース家の使用人とで何かトラブルが起こるかもしれないわ。
 それを使って上手く丸め込みなさい」
「……ありがとうございます」

 前世では引っ越した時にタオルとか洗剤を配ったけど、今世では金貨を配れというのね。
 今更だけど金持ちって凄いなぁ。実家が金持ちで本当に良かった。

 お父様とお母様は、私と馴染みの深いメイドや騎士、従者をロジャース伯爵家に出向させるように段取りをしてくれたのだった。

 
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