上 下
4 / 125

義弟

しおりを挟む
 数日前に結婚したばかりの娘がすぐに実家に戻ってきて、療養といいながら泊まり続ける姿はなかなか滑稽だと思う。

「義姉さん、いつまでいるつもり?
 愛する旦那様の所に帰らなくていいの?」

 私に激甘の両親は何かを察したのか、何も聞いてこなかった。
 しかし、こんな時に空気を読まずにストレートに聞いてくる人物がいる。それは親戚の家から養子に迎えた一つ下の義理の弟のギルバートだ。
 
「ギル、相変わらずデリカシーがない義弟ね……
 実はね……、伯爵様を愛していると思っていたんだけど、私の勘違いだったみたい。だから白い結婚を目指そうと思ってるの。
 あの伯爵様は信頼出来ない人だと判断したから、身を守るために護衛として騎士を借りていくわね。
 お父様達にはギルから上手く言っておいてくれる?」
「……はい?」

 サラサラの白金の髪にヘーゼルの瞳を持つ、なかなかの美形であるギルは、ポカンとした表情のまま固まってしまった。

「お父様とお母様に言うと悲しむだろうから、ギルだけに話しておくけど、結婚初夜に『君を愛するつもりはない』って言われて目が覚めたの。
 腹が立ったから、時期が来たら白い結婚を申請するわ。本当は今すぐに離縁したいけどそれは我慢する。
 白い結婚になれば婚姻自体が無効になるし、あの多額の持参金も返してもらえるでしょ?
 一人で生きていけるように今から仕事も頑張るわ。
 白い結婚が認められた後、ギルには迷惑はかけないようにするから、それまでよろしくね」
「義姉さん、それは本当なの?」

 いつも涼しい顔をしているギルが、珍しく深刻な表情をしている。

「本当よ。だから今日はこの後に新たな投資先を探しに、情報ギルドに行ってくるわ。一人で生きていくためには、お金は沢山あった方がいいからね。
 ……ギル、どうしたの?」

 いつもならため息をついて、私に呆れるはずのギルが泣きそうな顔をしていた。

「どうして……? どうして、そんな話を平気な顔して話すの?」
「私があんな顔だけの男に騙されたのが悪かったのよ……。私がバカだったの……」
「……分かった。騎士も秘書官もメイドも、姉さんが必要なだけ連れて行っていいよ」

 ええっー! 怖いくらいにギルが優しい。
 いつもなら、激甘の両親に苦言を呈する役目の辛口のギルが……

「ありがとう。何でも自分一人でこなせればいいんだけど、しばらくは実家の力を貸してもらうわね。
 そう言えば……、この結婚に最後まで異を唱えていたのはギルだったわね。次があるかは分からないけど、また縁談話があるような時は、ギルに判断してもらって決めるようにしようかしら」
「何を言ってるんだ! 義姉さんならいくらでもいい縁談はあるから、心配しなくて大丈夫だよ」

 ……ということで、いつもは厳しい義弟が珍しく優しいので、私は遠慮なく甘えることに決めた。

 私がロジャース伯爵家に戻ってからの少し先の話になるが、辛口のギルは私を心配してくれているのか、定期的に面会に来てくれるようになる。
 この義弟がここまで優しくてマメな男だったとは……。実家を離れてみて、初めて気づいたことだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

処理中です...