結婚したら、愛する夫が前世の憎い婚約者だったことに気付いてしまいました

せいめ

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記憶が戻った後の話

51 予想外

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 公爵家に戻った後、無断外出の説教をされると思っていた。外出禁止令が出て、騎士やメイドから監視されながら肩身の狭い日々を過ごさなくてはならないのだろうと。
 しかし公爵は全く怒っていなかった。

「私が邸から出さないで縛り付けていたから、アリーはここが嫌になって出て行ったんだろう? 君が心配だという理由で、外出は私と一緒じゃないと認めてこなかった。それが負担に感じていたんだろう?
 悪かった……。君は活発な性格だから、毎日窮屈だったよな。
 これからは君の外出は認める。王妃殿下に会うことも反対しない。だから……黙って出て行くことはしないでくれ!」

 前世で両親の目を盗んで推し活をしていた時と同じような感覚で、キャンベル侯爵家が気になったから無断外出をして見に行っただけなのに、公爵は私が邸を出て行ったと勘違いしているようだ。

 まさか、こんなに心配を掛けていたとは思わなかった。無断外出はバレなきゃいいと思っていたけど、悪かったわね。

「ちょっと外を歩いて息抜きをしたいと思って出かけただけです。私こそ申し訳ありませんでした。
 私一人での外出を認めて下さるなら、もうこんなことは致しません。本当に申し訳ありませんでした」

 公爵は素直に謝る私を見て、表情を柔らかくした後にまた抱きしめてきた。

「もういいんだ。謝らないでくれ。無事に帰ってきてくれてありがとう……」

 前世でツンツンしていた公爵は、すっかり角が取れて丸い性格になっている。
 
 絆されるつもりはなかったのに……

 可愛がっていた弟の変貌ぶりにショックを受け、精神的に弱っている時に公爵から優しく抱きしめられるのは、今の私にとっては複雑な気持ちだった。

「……っ! 本当に申し訳ありませんでした」

「アリー、謝るのはもう終わりだ。疲れただろう? お茶でも飲もう」

「はい……」

 公爵とお茶をした後、迷惑をかけたメイド達に謝ると彼女達は予想外の反応だった。

「奥様が寝ているはずのベッドの中にはクッションが入っていてかなり驚きましたわ。でも、奥様が窮屈そうに毎日を送っていたことに気付いたので、ずっと気になっておりました」

「奥様が公爵様から自由を勝ち取れて良かったですわ! 邸に閉じ込められるように生活していた奥様をみんな心配していたのです」

 メイド達にも私が窮屈な生活を嫌になって出て行ったように見えたらしい。本当は前世の実家の様子が気になって無断外出したのだが、そんなことは話せないので否定するのはやめた。

 その騒動から数日後、タイミングよく王妃殿下からお茶会の招待を受ける。今回は私一人での招待で、公爵は何か言いたげな表情をしつつも快く送り出してくれる。

 王妃殿下との二人きりのお茶会は久しぶりで、嬉しくて話が止まらなくなってしまう。王妃殿下は人払いをしてくれたので、ずっと聞きたかったことも遠慮なく聞くことが出来た。

「王妃殿下、私の両親はどこにいるのでしょうか?
 二人は元気にしていますか?」

「……アリスの両親のことかしら?」

「はい。私があんな死に方をした後の両親の話を聞きたいのです」

「叔父様と義叔母様は領地で生活しているわ。時々、手紙のやり取りはしているの。アリスが亡くなった時は見ていられなかったけど、今は元気にしているそうよ」

 元気にしていると聞き、安堵から肩の力が抜ける。

「元気にしているのですね……良かった。今世の家族には恨みしかありませんが、前世の家族は大好きだったのでずっと気になっておりました。
 それで……私の趣味の推し活の宝物はどうなったかは知っていますか?」

「推し活って、観劇の? 貴女も好きねぇ」

「はい! ロミオの出演していた観劇のパンフレットや姿絵などのコレクションがどうなったのか気になりまして。やはり捨てられてしまったのでしょうか?
 本当は両親に会いに行きたいくらいですが、今の私が突然尋ねることは出来ませんし、何を言っても混乱させるだけでしょうから」

「アリスの弟が侯爵家を継いで王都にいるのだから、聞いてみればいいじゃないの」

「……ディーは、私の知る可愛い弟ではなくなってしまったようです。
 可愛かった弟のことは、思い出として心の中だけで想うことにします」

 すると、王妃殿下は深いため息をつく。

「……可愛かった弟があまりにも変わってしまったと悲しんでいるわよ。
 キャンベル侯爵、そろそろ出てきなさい!」

「えっ?」

 王妃殿下が窓の方に声を掛けている。不思議に思っていると、カーテンの陰から前世の弟であるキャンベル侯爵が罰の悪そうな顔をして出てきたのであった。

 
 
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