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記憶が戻った後の話
50 弟の変化
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前世の弟からそんな目で見られるとは思わなかった。
ディーから見れば、今の私は亡くなった姉が嫌っていた元婚約者の妻。こんな態度を取られるのは仕方がないのかもしれない。
公爵がアリスに冷たい態度をとっていたところを何度か見られているし、アリスだった私は仲の良かったディーに婚約解消した後の夢を語ったりしていた。
ディーからすれば姉を苦しめる公爵は大嫌いだろうし、大嫌いな公爵の妻である私に良いイメージを持つはずがないのだ。
分かってはいても、可愛がっていた弟から冷淡な目を向けられるのは辛い。
「……バレていたようですわね。
ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はアリシア・アンダーソンと申します。
偶然、こちらの屋敷の前をお忍びで散歩していましたら、何かを勘違いした使用人に中まで連れて来られました。
そろそろ帰る時間なので、今日はこれで失礼させていただきます」
「私はディック・キャンベルと申します。噂のアンダーソン公爵夫人にお会いできて光栄です。
夫人を溺愛する公爵閣下が心配すると大変ですから、公爵家には帰りが遅くなると私から連絡を入れましょうか」
ディーのこの冷ややかな感じは、私に皮肉を言っているように見えた。
社交界では、公爵が元婚約者そっくりの若い妻を溺愛している話は有名だ。元婚約者の家族としては、今の私の存在自体が不快なのかもしれない。
公爵を憎むのは仕方ないけど、何の事情も知らない若妻にまで辛く当たらないで欲しい。
可愛いディーはこんな性格になってしまったのね……
弟の変化を見ているのは辛いから今日はもう帰ろう。こんなに辛い気持ちになるなら、ここに来なければよかった。
「結構ですわ。私は帰らせていただきます」
「……夫人?」
話していてもキリがないので、そのまま強引に部屋を出てきてしまった。使用人達が私をジロジロと見ている中、邸から外に出た私は正門の方へ向かって足早に歩き出す。
邸の中から出てきた私を警備の騎士達は不思議そうに見つめていたが、特に何も言われずに済んだ。
侯爵家の外に出た私は、公爵家に戻るために急いでいた。
しかし、あと少しという所まで来た時に街中の様子が違うことに気づく。街中に見たことのある騎士が沢山いたのだ。私はその中の一人と目が合ってしまう。
「奥様、ご無事で良かった!」
「おい! 奥様を保護したと急ぎで閣下に報告しろ」
「はい!」
「奥様、お怪我はありませんか? 閣下が間もなく到着するはずです。少しお待ちください」
「……」
無断外出がバレて騎士達が探していたのね。終わったわ……
公爵家の騎士に囲まれて顔色を悪くする私は、まるで指名手配犯のよう。道行く人達にジロジロ見られて最悪だ。
すると、そこに公爵の乗っているであろう馬車が到着して勢いよくドアが開く。
この感じは相当怒っているわ。今日はこの後に説教が待っているのね。
しかし、公爵は怒るどころか泣きそうな顔で私を抱きしめてくる。沢山の騎士や街の人が見ている前で恥ずかしがることもなく堂々と。
うっ、ギュッと強く抱きしめるから苦しい。
「アリー、見つかって良かった……
怪我はしてないか? 君がいなくなったと聞いて、私は死ぬかと思った。誰かに攫われたのかと思ったが、ここにいるということは邸を飛び出したんだな? 私が嫌いになったのか? 捨てないでくれ!」
苦しさと恥ずかしさで私の方が死にそうなんですが……
「……っ! く、苦しいですわ……」
「あ、すまない!」
公爵は腕の力を緩めるが、私のことは抱きしめたままだ。
「あの……、みんなに見られて恥ずかしいので、そろそろ離してもらってもよろしいですか?」
「ダメだ! 君を離したらまたいなくなってしまうだろう? 私はもう君を離さないと決めたんだ!」
公爵はこんな性格だった? アリスの婚約者だった頃はクールな男だと思っていたのに。
「いなくなりませんので離してくださいませ!」
そんなやり取りをしていると、公爵の筆頭護衛騎士が身兼ねて声を掛けてくれる。
「閣下、とりあえず邸に戻りましょう。今のお二人は街中で注目を浴びて道が混み出しております。
邸で夫婦二人きりでゆっくりと話し合いをして下さい」
「……そうだな」
そのまま馬車に乗せられて公爵家に帰ることになった。
ディーから見れば、今の私は亡くなった姉が嫌っていた元婚約者の妻。こんな態度を取られるのは仕方がないのかもしれない。
公爵がアリスに冷たい態度をとっていたところを何度か見られているし、アリスだった私は仲の良かったディーに婚約解消した後の夢を語ったりしていた。
ディーからすれば姉を苦しめる公爵は大嫌いだろうし、大嫌いな公爵の妻である私に良いイメージを持つはずがないのだ。
分かってはいても、可愛がっていた弟から冷淡な目を向けられるのは辛い。
「……バレていたようですわね。
ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はアリシア・アンダーソンと申します。
偶然、こちらの屋敷の前をお忍びで散歩していましたら、何かを勘違いした使用人に中まで連れて来られました。
そろそろ帰る時間なので、今日はこれで失礼させていただきます」
「私はディック・キャンベルと申します。噂のアンダーソン公爵夫人にお会いできて光栄です。
夫人を溺愛する公爵閣下が心配すると大変ですから、公爵家には帰りが遅くなると私から連絡を入れましょうか」
ディーのこの冷ややかな感じは、私に皮肉を言っているように見えた。
社交界では、公爵が元婚約者そっくりの若い妻を溺愛している話は有名だ。元婚約者の家族としては、今の私の存在自体が不快なのかもしれない。
公爵を憎むのは仕方ないけど、何の事情も知らない若妻にまで辛く当たらないで欲しい。
可愛いディーはこんな性格になってしまったのね……
弟の変化を見ているのは辛いから今日はもう帰ろう。こんなに辛い気持ちになるなら、ここに来なければよかった。
「結構ですわ。私は帰らせていただきます」
「……夫人?」
話していてもキリがないので、そのまま強引に部屋を出てきてしまった。使用人達が私をジロジロと見ている中、邸から外に出た私は正門の方へ向かって足早に歩き出す。
邸の中から出てきた私を警備の騎士達は不思議そうに見つめていたが、特に何も言われずに済んだ。
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しかし、あと少しという所まで来た時に街中の様子が違うことに気づく。街中に見たことのある騎士が沢山いたのだ。私はその中の一人と目が合ってしまう。
「奥様、ご無事で良かった!」
「おい! 奥様を保護したと急ぎで閣下に報告しろ」
「はい!」
「奥様、お怪我はありませんか? 閣下が間もなく到着するはずです。少しお待ちください」
「……」
無断外出がバレて騎士達が探していたのね。終わったわ……
公爵家の騎士に囲まれて顔色を悪くする私は、まるで指名手配犯のよう。道行く人達にジロジロ見られて最悪だ。
すると、そこに公爵の乗っているであろう馬車が到着して勢いよくドアが開く。
この感じは相当怒っているわ。今日はこの後に説教が待っているのね。
しかし、公爵は怒るどころか泣きそうな顔で私を抱きしめてくる。沢山の騎士や街の人が見ている前で恥ずかしがることもなく堂々と。
うっ、ギュッと強く抱きしめるから苦しい。
「アリー、見つかって良かった……
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苦しさと恥ずかしさで私の方が死にそうなんですが……
「……っ! く、苦しいですわ……」
「あ、すまない!」
公爵は腕の力を緩めるが、私のことは抱きしめたままだ。
「あの……、みんなに見られて恥ずかしいので、そろそろ離してもらってもよろしいですか?」
「ダメだ! 君を離したらまたいなくなってしまうだろう? 私はもう君を離さないと決めたんだ!」
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「いなくなりませんので離してくださいませ!」
そんなやり取りをしていると、公爵の筆頭護衛騎士が身兼ねて声を掛けてくれる。
「閣下、とりあえず邸に戻りましょう。今のお二人は街中で注目を浴びて道が混み出しております。
邸で夫婦二人きりでゆっくりと話し合いをして下さい」
「……そうだな」
そのまま馬車に乗せられて公爵家に帰ることになった。
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