まだ２０歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか？

新しい生活

商会のパーティー 2

　フィール商会長の別荘は普通に豪華だった。貴族の邸と何ら変わりない。
　ちょっとした貴族よりも裕福なのが分かる。平民でも成功している人は、こんな邸で優雅に暮らしているのだろう。

　エドガーは男爵令息だけあって、自然な感じで私をエスコートしてくれた。

　広間の入り口では、商会長と夫人と思われる50代くらいの夫婦が招待客を出迎えている。夫婦の隣には、この前、うちの支店に来ていたスコット様がいる。
　スコット様は30歳前後だと思う。もしかして、フィール商会の跡取りなのかしら？

　とりあえず、招待して下さったのだから、挨拶しないといけないわね。

　品良く挨拶するエドガー。さすが男爵令息だわ。商会長夫妻も目を細めている。
　私も久しぶりにきちんと挨拶しよう。

「ヨーク商会のメアリーと申します。本日はご招待ありがとうございます。」

　余計なことは喋らずに挨拶は一言にした。そのかわり、カーテシーをした。

「まあ！貴女がメアリーさん？綺麗な方ね。」

　夫人がなぜか私に話しかけて来た。私の予想では、『今夜は楽しんで下さいね。』と声を掛けられて終わると思っていたのに。
　あまり話すとボロが出そうだから、知らない人とは必要以上に話したくないのに。

「母上、彼女は美しいだけでなく、紅茶を淹れるのがとても上手なのですよ。」

　横からスコット様が話に入ってくる。

「勿体ないお言葉でございますわ。」



　挨拶待ちのゲストが沢山いたので、私達は会話を切り上げて広間の中に入って行った。

　広間の中でクロエも合流して、美味しいご馳走やスイーツをいただく。
　美味しい物を食べるだけなら、パーティーは楽しいのね。


　クロエが花摘みに行き、エドガーと2人で飲み物を飲んでいると…

「あ、あの…。私と踊って頂けませんか？」

　可愛らしい女の子がエドガーにダンスのお誘いに来た。
　エドガーはカッコいいから、さっきから女の子達からチラチラと見られていたのよね。

「いや、私はダンスは……」

「エドガー、せっかくこんなに可愛いお嬢様が誘って下さったのだから踊ってあげて。私はここにいるから。」

「……分かった。一曲だけ踊ったら、すぐに戻るから、ここにいて。」

　ふふっ。あの女の子、嬉しそうだったわ。

　ここにいる人は平民ばかりだから、ダンスなんて踊らないのかと思っていたのだけど、みんな割と普通に踊っている。
　商会で働けるくらい優秀な人達だから、平民と言っても、裕福な方が多いのかもしれないわね。

　その時…、

　「メアリー。良かったら、私と踊って頂けないか？」

　声を掛けてくれた方を振り向くと、スコット様だった。
　ダンスは久しく踊ってないから、あまり踊りたくないのだが、大事な取引先の人に誘われたら断れない。

「はい。喜んで…。」



　スコット様はダンスがお上手だった。そして、この方も見目が良く、背が高くて顔も整っている。さっきから、沢山の視線を感じているのだが、みんなスコット様を見ているのだろう。

「みんなメアリーを見ているようだ。」

　貴方を見ているのよ…

「とんでもないですわ。皆様、スコット様を見ているのでしょう。」

「ふっ！分かった。そういうことにしておこう。
　それより、さっき君と一緒にいた男は恋人か？」

　エドガーのことかしら？

「エドガーでしょうか？違う支店の友人ですわ。」

「…そうか。恋人かと思ってしまった。」

「ふふっ！私には恋人はいませんわ。」

「……それは良かった。」

「…え？」

「い、いや何でもない。」



　久しぶりのパーティーは、美味しい物を沢山食べて楽しく過ごすことが出来た。


　しかし、パーティーの後日、また旦那様そっくりな護衛騎士に顔を合わせることになる。