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「なぁんだ、もうちゃんと答え出ちゃってるじゃないですか」


 ユノンは馬車の背もたれに深く寄りかかった後、両手を上げて伸びをした。

 なぁんだってなによ。なぁんだって。それに答えって……。


「答えって……別に私は……」

「だって同情でもペット枠ではも、嫌だって思ってるってことですよね?」

「それは……そうだけどさぁ」


 アレンには抱いたことのない感情があるのは本当。マルクには思惑があって私を婚約者にしたのは理解はしているけど、でもそれでもただ同情したから選ばれたのは嫌だって思う。

 アレンの時は、親が決めて仕方なく結婚するのも気にはならなかったのに。なんでこんなにも、同じじゃないんだろう。

 貴族の結婚なんてどうせって割り切れないくらいの感情が確かにそこにはあった。


「ご自分のことにはどんなことでも鈍いお嬢様でも、少しは自覚して下さったっていうか、そういう感情が目覚めたことはいいことじゃないですか」

「そういうって、どういうよ」

「誰かや何かを好きだっていう気持ちと、自分の思いに耳を傾けること、みたいな? 前はほら、他の人の都合や顔色ばかりをうかがってて、自分のことは全部後回しにされてましたからね」


 だってそれはいつでも私にとっては仕方のないことだったから。自分の思いを貫いたりしたら、何も成り立たなかったし。

 
「それにいいんじゃないですか? 貴族の恋愛結婚、流行りみたいだし」

「流行りって」

「ほら、あのバカップル」

「ああ、あそこはむしろ打算が大きそうなんだけどな。シーラは私のものだから欲しかったわけで、アレン様は私との結婚が迫ってきて余計に他に逃げたかったわけだし」

「確かにソレ言えてますね。でも例えあれが本当に純愛だったとしても、順序がダメ過ぎるし」

「そうなのよねー。愛を貫いてって主張したいのなら、せめて順番を間違えなきゃよかったのに。私は初めからアレン様になんて興味なかったから、こんなに押し迫ってからじゃなければ、すんなり婚約者の座なんてあげたのにね」


 なにも秋に結婚式が迫ってないか、せめて寝取りじゃなかったら。他の貴族たちだって同情的だったでしょうに。自分たちでその可能性を捨ててるあたりが、残念過ぎるわ。


「まぁバカップルはどうにもならないので、先ほどの方にどうやって告白されたんですか」

「いや、告白とかはされてないわよ。流れで、婚約をってなっただけで」


 ユノンはどうでもいいとばかりにシーラたちの話を放り投げ、マルクのことに興味を示す。でもそんなに面白い話じゃないんだけどなぁ。


「アレン様がおれのことが好きで興味をひくために嫌がらせをしているんだろう。それならうちで使用人として使ってやるみたいなことを言い出してね、その時にマルク様が私とは先ほど婚約をしたから君はもう興味などないから大丈夫だ、みたいなことを言って下さったの」

「うわ、アレン様って相当なナルシストですね。お嬢様にどれだけ好かれていると思っているんだか。あはははは、笑える―。ああでも、だからマルク様が同情で婚約をしてくれたのなら嫌だな、ってとこに至るんですね」

「そうなの。アレン様からのあまりにひどい仕打ちを見兼ねて、な同情だと少し嫌だなって思ったの。……思ってしまったのよ!」


 もうここまで来たら認めよう。だってどう頑張っても本当のことなんだもん。

 自分の気持ちをちゃんと口に出すと、胸のざわつきがほんの少し治まった気がした。
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