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 まずはそう。一番に腹がたったシーラたちのコト。自分たちが勝手にやったことを棚に上げて、私が自分たちの幸せを妬んで難癖をつけたって言い張っていたし。

 あそこまで自分たちのことが見えないっていうか、中心に回っているって思う人たちも珍しいわよね。

 ある意味、絶対に幸せだと思うわ。回りは死ぬほど迷惑だけど。


「城まで乗り込んで、悲劇のヒロインぶる女と、未だにおれのことが好きだからこんなことをしたんだろうっていうナルシスト男が身内だったなんて、お嬢様も大変ですねー」

「やめてよ、なんかしみじみと言われると悲しくなるし」

「いやだって本音ですよ。あたしなら絶対にいらないですし、あんな身内なんて」

「私だっていらないわよ」

「でもほら、結構長く頑張ってきたじゃないですか」

「それは、ね。いつかは良くなって変わるかもしれないって淡い期待があったし。まぁ、そんなものは幻想にすぎなかったけど」

「いや、あんなの悪化するばかりで良くなる兆しもなかったじゃないですか」


 兆しねぇ。まぁなかったけどさ。でも自分が我慢していれば、その努力はいつか報われるんじゃないかって本気で思っていたのよね。

 もちろんあの二人だけじゃなくて、両親にも。

 いつか私のことを思ってくれて、理解してくれて、大事にしてくれる日が来るんじゃないかって。認めてもらえるんじゃないかって。

 今思えば、人間そんなに簡単に変わるのならば、苦労はしないわよって思うし、あの頃の私に声をかけられるのならば、時間の無駄だからやめておきなさいって言えるのに。

 全部が無駄だったとは思わないけど、私のことを無価値だと思う人間なんて、私にとっても無価値でしかなかったってこと。

 あんなに家のことに打ち込まなければ、もう少し女の子らしく生きることも出来たのかもしれないわね。

 領地経営とか、計算書類とにらめっこするばかりじゃなくて。きちんとした花嫁修業だって……。


「あ」

「ん? どうしました、お嬢様」

「私、考えたらまともな花嫁修業ってやったことないんだった」

「そうでしょうね。お忙しかったですし。で、今それはどこに話が繋がるんですか? いきなり突拍子もないこと言われても困るんですけど」

「うん……それがさぁ。突拍子もないっていうか、なんていうか。あの夜会で、婚約が決まったのよ」

「へー。婚約が決まったんですか。それはおめでとうございます。んで、誰と誰がですか?」

「ん。だから、ね」

「はい」

「私と、先ほどのグラン宰相とのよ」

「へーーーー。先ほどの方は宰相様なんですか。え、で、え?」

「うん……」

「は?」

「だって」


 自分でもずいぶん意味不明な会話だとは思う。どこをどうしたら、婚約を破棄された報告をして婚約を決めてくる人間がいるのだろう。

 しかも相手はアレンなどよりも身分の高い、この国の宰相なわけで。おいそれと、しかもしがない貧乏男爵令嬢が婚約できるような相手ではないのだから。

 ユノンは口を半開きにさせたまま、何度か無言で瞬きだけを繰り返していた。理解が追い付かない。それは私も一緒なんだけどね。


「拾ってきたんじゃなくて、拾われちゃったパターンですね。理解しました」

「なんかそれも絶対にちがーーーーう」


 もぅ、どこをどうしたらそうなるのよ。そこらへんに捨てられていた動物じゃないんだし。

 あれ? いや、ある意味あっている気もしてきたわ。どこかに捨てられたペットのように思えたから、同情されたっていうのはどうなのかしら。

 それならほら、マルクにとって私はペット枠ってことだし。


「でもペット枠だったら、少し嫌だな……」


 思わず口から、本音がこぼれ落ちた。
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