BloodyHeart

真代 衣織

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迷案

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 ——そうだ。
 名案を思い付き、リリアは顔を上げる。
「外部からの攻撃は、光線と水にすればいいんじゃないでしょうか?」
 悩みが晴れたのは、ほんの一瞬だった。
「撃たないと分かれば意味ないです」
 那智に、晴れやかな笑顔で跳ね除けられる。
「つまり、お前は正義が優先か?」
 羽月は平静に問い掛けているが、何故か威圧感が見え隠れしている。
「だって……。民意が正義を左右する。危機を作れば、羽月さん達は正義じゃなくなる……」
 臆しながらも意見するリリアだが、威圧感に尻込みしてしまう。
「いちいち正義にこだわってたら、命が幾つあっても足りねぇよっ」
 否定する羽月は笑っているが、眼光が鋭く研がれている。
 そうだった。
 まだ羽月は怒っていないが、リリアは罪悪感を抱き始める。
 再生も治癒も魔人みたいにはいかないんだ。
 羽月さん達が強いから忘れてた。
「でも……。軍人の皆様の存在意義が問われてしまう」
 罪悪感に気後れするも、リリアは反論する。
「つまり、軍人は正義の生贄か?」
 羽月の声が低くなる。表情も怖い。
「ち、ちがっ……」
「そういう事になんだろっ」
 否定しようとするも、羽月の言葉が突き刺さる。
 私が今思った正義が、デスハラが起こる原因なんだ。
 申し訳なく、リリアは顔を伏せた。
 罪悪感に支配されるリリアだが、緊迫感には包まれていない。
 横では、伊吹と旭がテレビゲームを楽しんでいる。那智は気にせずタブレットのキーボードを打っている。
 同時に、円錐の入れ物からポテトチップスを取ろうとした伊吹と旭は手が触れ、手が下だった旭が伊吹の手を叩く。
 痛そうな反応をする伊吹を、旭はポテトチップスを口に咥えて不快に睨む。
 全くもって平時の日常だ。
「でも、このままじゃっ……」
 責任感から言葉を絞り出したリリアは、苛まれる罪悪感により涙を流してしまった。
「出てけ。泣き出すんじゃ、話しにならねぇよっ」
 羽月は容赦なく、冷たく吐き付けた。
 さすがに旭は非難しようと、振り向き睨む。
「で、でも……」
「出てけって、言ってんだろっ!」
 続くリリアの言葉を聞かず、羽月はデスクを蹴り飛ばした。
 蹴った自身のデスクが伊吹と旭のデスクを巻き込む。空になったポテトチップスの入れ物を覗き込んでいた、伊吹の後頭部にぶつかった。
 身を縮ませたリリアと、振り向いていた旭は避けた為、当たっていない。
「ごっ、ごめんなさい! ごめんなさい」
「いえいえ、お気になさらず——」
 温厚に気遣う那智の言葉すら申し訳ない。恐怖したリリアは、ペコペコと全員に頭を下げる。礼法通りにドア前で一礼し、退出して行った。
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