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不運な不動
しおりを挟む「——私は、軍規に従っているだけです」
リリアが聞かされた事情を話すと、那智は穏やかに否定した。
福田司令官と横田隊長から訳を聞いたリリアは、警察部隊総本部内三〇一隊室に駆け込んだ。
「死人を出すが前提の、捨て駒作戦には参加したくないからな」
那智の後ろにある窓に寄り掛かり、煙草を吸っている羽月が口を挟む。
「えっ、何ですか? その作戦……」
衝撃の事実にリリアは驚く。
「私達の作戦を聞いて下されば戻りますよ。そうお伝え下さい」
にこりと笑みを向け、那智は言う。
「俺達だけの時と違って、いい金も貰えないしな。リリアちゃん、結界の中はゲート使えないんだよね? 他に使えないケースって何があるの?」
ドア前に立つリリアの横で、胡座を組み、旭とテレビゲームをしている伊吹が質問してきた。
「後は、二十キロ離れていないと可動しません」
「じゃ、飛んで来たんだ」
「はい」
リリアの答えに、伊吹は息切れしていた理由が判明する。
「那智さん、自分で電話しなよ」
振り向き那智を睨み、旭は苦々しく口を開く。
「いや、あの、こっちに向かうと仰ってました」
強制連行か……。作戦練り直す気はねぇな。
リリアの言葉に考えを読み、羽月は溜息交じりに紫煙を吐く。
灰皿に煙草を消すと、那智が視線を交えてくる。那智も同じく考えを読んだ。
「あの、何でお二人の作戦は却下されたんですか?」
羽月と那智の策なら落ち度はない筈——。リリアからすれば理解に苦しむ判断だ。
「結界の外側から攻撃。分断させる」
羽月に返答に、リリアは一気に青褪める。
「それは……却下されますよ。原発に当たれば——」
「当たりませんよ」
余裕たっぷりに那智は否定した。
「結界により空間は操られますが、本当に建物が動いている訳ではありません。無人機ならば、設定した対象を正確に攻撃し続けます」
目を見開き、驚きながら理解したリリアに、那智は「不動ですから」と付け加える。
「上層部の頭と同じでな」
羽月が口にした皮肉は理解出来ず、リリアは頭に疑問符を浮かべた。
「不動じゃねぇよっ。見る度に毛が薄くなってるよ」
冗談を思い付き、伊吹は下品に笑う。
「外部じゃなくて、内部だろ」
旭が指摘する。
「名案なのに、何で駄目なんでしょうか?」
「報道のカメラがあるからだ。自ら危機を作れば防衛省は非難の嵐って事だ」
リリアの質問に羽月はあっさりと答える。
その答えにもリリアは理解を示す。
「それで、説得を押し付けられたお前はどうするんだよ?」
意地悪く笑い、羽月は困惑すると分かる質問を突き付けた。
「えっ、どっ、どうしよう……」
どうすればいいんだろ?
どっちの言い分も正しいし……。
羽月の思った通り、リリアは困惑してしまう。
「私には無理でした、って言って逃げな。これからはそうしろよ」
親切そうに羽月は助言する。
手元のタブレットを開いた那智と視線を交わす。二人には、新しい企みが思い付いていた。
「現状の打破……。それとも正義……。どちらかのリスクを負えと言うなら……」
声に溢れ出る程、リリアは俯き悩み抜く。
必死の頼みを聞かない訳にはいかない。
王族として教育を受けたリリアには、頼みを聞かないと言う選択肢はなかった。
国民の声を聞き、反映させる為の王権だと教わり生きている。
懇願から逃げるのは、無責任な職務放棄——。
リリアは大罪になると思っていた。
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