BloodyHeart

真代 衣織

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疑惑のゲート

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「——そろそろ帰る。ご馳走様」
 散々、一方的に注意事項を伝えたシェリーは、コーヒーを飲み干して席を立った。
「ゲートまで送りますよ」
 うんざりした顔で親切を言う羽月に、シェリーを呆れた溜息をついた。
「あぁ、まだ何かあんのか?」
 露骨に苛立ちを見せ、羽月は尋ねる。
「人口減少で、不動産は余り値崩れを起こしている。特に大都市部は……。なのに、何故、相良中佐は事故物件に住んでいる?」
 大都市部の人口減少は、戦火を免れる為もある。近年は、東京から電車で三十分程の郊外が人気エリアになっている。
「ああ。犯人が捕まっていないんで、軍人が住んでくれれば住民が安心するって言うんで……。まぁ、格安だったからですよ」
 二人の発言に、今迄オロオロしていたリリアが一気に青褪めた。
「えっ⁉︎ えっ? 事故物件⁉︎ 嘘ですよね?」
「本当だ。この階の共用廊下で、フロア借りしていたIT社長が、メッタ刺しにされて殺された」
 寒慄するリリアに、羽月はトドメを刺す事実を話した。
「では、失礼する」
 シェリーは玄関に向かい、羽月も付いて向かう。
「シェ、シェ、シェリー先生、お気を付けて……」
 と言うリリアは、ソファーから立つも、崩れる様に膝を付き、助けを乞う様に右手を伸ばしている。
 ——ゲートを登録したマンションのエントランス前でシェリーは振り向く。羽月に鋭い視線を向けた。
 ゲートは、建造物内と空中には登録出来ない。
「あまり無礼な真似をするなよ。我が王国の侮辱行為に値する。私と近衛隊には、王族に危害を加える者を始末していい権限があるっ」
 湧き上がる怒りを押さえ、シェリーは威嚇する。
「王族は治外法権ですからね」
 羽月は軽く笑った。
「……気に食わねぇのは、立場を取られた事じゃねぇな。俺に対する疑心暗鬼だ」
「そんな貴様に、女王陛下は尽力してくれている。敬意を持てっ!」
「持っていますよ。忠誠心を評価しない権力者は信頼出来る」
 馬鹿にした様な羽月に、シェリーの怒りは煽られた。
 この野郎っ……。
 沸騰する怒りを、シェリーは奥歯で噛み砕く。
「疑心暗鬼は持ち帰る」
 釘を刺し、シェリーはリストバンドから鍵を出し、地面に刺した。
 一般的な玄関ドア程度のゲートが現れる。
「レガイロみたいな、善意を仕向ける悪党もいますからね。お気を付けて——」
 シェリーの背中に、羽月は挑発としか思えない言葉を掛けた。
 右手だけを向け、シェリーは赤い刃を一筋放った。
 羽月は体を横にし、ズボンのポケットに手を入れたまま、ひらりと躱す。
 再び前を見ると、ゲートは消え、シェリーは帰って行った。
 ——羽月が玄関のドアを開けると、体育座りでリリアが待っている。
「……お、お帰りなさい」
 上げた顔は涙目で青褪めている。胸中が分かり易く声が震えている。
「飯食ったら、将棋でもするか? 気ぃ紛れるだろ?」
「は、はい。是非ぃ……。将棋、気になって調べてたんですぅ」
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