BloodyHeart

真代 衣織

文字の大きさ
上 下
41 / 133

セキュリティ?

しおりを挟む
 
「あの、もう大丈夫ですから……」
「室内の安全を確認してから帰りますっ」
「でも、人様のお家ですから……」
 リリアとシェリーは、羽月の住まい二七〇一室の玄関前で、車内から続くやり取りをしていた。
「リリア様の安全確保が私の仕事ですから」
 全く引き下がらないシェリーに、リリアは溜息が出た。
「……⁉︎」
 勢いよくドアが開き、ドアを背にしていたリリアを、シェリーは腕を掴み引き寄せた。
「上がっていきます? コーヒーぐらいは淹れますよ」
 ぶつかりそうになったにも関わらず、悪びれる様子のない羽月が声を掛けてくる。帰ったばかりらしく、着ているスーツは着崩していない。
「ありがとう。安全確認も兼ねて、お邪魔させて頂く」
 丁寧な口調だが、シェリーの目には静かな怒りが浮かんでいる。
「——何か、御手伝いする事ありませんか?」
「ねぇよ、何も」
 キッチンで、コーヒーをドリップしている羽月に、リリアが尋ねる。
 リビングのソファーは、L時の短い部分を移動させ、向き合う形にしてある。
 上座に座らせられたシェリーは、テーブルの上にある時計に目を留めた。
 水を入れた皿に、ドーナツ型の加湿器が付けられ、ビー玉が並べてある。空中に表示される時刻が反射され、とても綺麗だ。
 羽月とリリアが見ていない事を確認し、ブラウスの上に着けたコルセットの内側から、ビー玉の様な監視カメラを取り出す。それを皿にあるビー玉の一つとすり替えた。
 フッとシェリーは笑みを漏らす。
「シェリーさん、砂糖とミルクは入りますか?」
 羽月の問い掛けに、シェリーの片眉が上がる。
「気安く名前で呼ばないでもらおうか?」
「えっ? ミッシェルが苗字ですか?」
 軽く驚き、羽月はリリアを見た。
「そうです」
 こくこくと頷きながら、リリアは小声で知らせる。
「私も、苗字か名前か……。性別すら分からなかった」
 嫌な顔をしながらシェリーは言う。
 気にも掛けずに、羽月はスティックシュガーとコーヒーフレッシュを取り、悩んでいる。
「入れますよ」
 小声でリリアが代わりに答える。
 ソーサーに、スティックシュガーとコーヒーフレッシュを一個ずつ置き、羽月はテーブルに持っていく。
 置くと羽月は、後ろに付いて来たリリアの頰を片手で抓った。
「浮かねぇツラしてたな」
「⁉︎」
「苦労知らずと思われて、冷たくあしらわれたんだろ」
「えっ⁉︎ ええっ……」
 完全に言い当てられ、リリアは抓られた頰を押さえ、目を見開き驚いた。
 羽月はリリアに、シェリーの隣を指差し、座るように促した。
「勉強する所と割り切って、真面目に授業受けてりゃいい。その内、親切な奴が声掛けてくるだろうよ」
 下座に腰を下ろし、羽月は平静に助言した。
「はい! そうします」
 頭にあった靄を晴らし、リリアは満面の笑顔で聞き入れた。
 分かってくれる。もう、スッキリだ。
 羽月に親切心は無いが、リリアには有り難かった。
「友情は自然と生まれるものだ。無理に築くものじゃない」
 正論だと思い「分かりました」と言い、リリアは挙手の敬礼をする。
「怒り買わないよう、送迎は無しにした方がいいですよ」
「それに、駅から王都迄二時間かかりますし……。ゲートキーも有るし、端末も有りますから安全です」
 チャンスと思い、羽月に続けてリリアは言い詰める。
 ゲートキーは、王族ゲートパスの刻印を隠す、リストバンドの中に入れてある。
「分かりました。取り敢えずは無しにします」
 取り敢えずを強調し、シェリーは承知した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

Re:BORN 〜欺瞞の楽園〜

中岡 始
キャラ文芸
――完璧を装った男が支配する、欺瞞と欲望の世界。すべては"復讐"から始まった。 東京の夜を支配するカリスマ実業家・久世玲央。 ファッションブランド〈LEONIX〉の創始者にして、SNS総フォロワー数数百万。 彼の言葉一つ、投稿一枚が、トレンドを生み、経済を動かす。 完璧なルックス、知性、財力、そしてカリスマ性。 “理想の男”として崇められる彼には、誰もが憧れ、誰もが跪く。 だが――その仮面の下には、かつて「倉橋透真」と呼ばれた少年の“復讐”の意志が眠っていた。 「俺は、選ばれる側ではない。選ぶ側に立つ」 過去のいじめ、蔑視、無力。 それらすべてを燃料に、玲央は"理想の偶像"として再構築された。 だが、久しぶりに目にした「ある名前」が、彼の完璧な世界に波紋を広げていく。 かつて自分を笑った女・三浦美咲。 かつて自分を蔑んだ男・沢渡俊介。 そして…その周囲に連なる者たち。 玲央は静かに、しかし確実に“ゲーム”を始める。 それは、欲望と虚栄、そして真の目的に彩られた一大叙事詩。 欺くのは、世界か。自分か。 これは、すべてを手にした“完璧な男”が仕掛ける、静かなる地獄の幕開け。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

夜勤の白井さんは妖狐です 〜夜のネットカフェにはあやかしが集結〜

瀬崎由美
キャラ文芸
鮎川千咲は短大卒業後も就職が決まらず、学生時代から勤務していたインターネットカフェ『INARI』でアルバイト中。ずっと日勤だった千咲へ、ある日店長から社員登用を条件に夜勤への移動を言い渡される。夜勤には正社員でイケメンの白井がいるが、彼は顔を合わす度に千咲のことを睨みつけてくるから苦手だった。初めての夜勤、自分のことを怖がって涙ぐんでしまった千咲に、白井は誤解を解くために自分の正体を明かし、人外に憑かれやすい千咲へ稲荷神の護符を手渡す。その護符の力で人ならざるモノが視えるようになってしまった千咲。そして、夜な夜な人外と、ちょっと訳ありな人間が訪れてくるネットカフェのお話です。   ★第7回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。

処理中です...