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セキュリティ?
しおりを挟む「あの、もう大丈夫ですから……」
「室内の安全を確認してから帰りますっ」
「でも、人様のお家ですから……」
リリアとシェリーは、羽月の住まい二七〇一室の玄関前で、車内から続くやり取りをしていた。
「リリア様の安全確保が私の仕事ですから」
全く引き下がらないシェリーに、リリアは溜息が出た。
「……⁉︎」
勢いよくドアが開き、ドアを背にしていたリリアを、シェリーは腕を掴み引き寄せた。
「上がっていきます? コーヒーぐらいは淹れますよ」
ぶつかりそうになったにも関わらず、悪びれる様子のない羽月が声を掛けてくる。帰ったばかりらしく、着ているスーツは着崩していない。
「ありがとう。安全確認も兼ねて、お邪魔させて頂く」
丁寧な口調だが、シェリーの目には静かな怒りが浮かんでいる。
「——何か、御手伝いする事ありませんか?」
「ねぇよ、何も」
キッチンで、コーヒーをドリップしている羽月に、リリアが尋ねる。
リビングのソファーは、L時の短い部分を移動させ、向き合う形にしてある。
上座に座らせられたシェリーは、テーブルの上にある時計に目を留めた。
水を入れた皿に、ドーナツ型の加湿器が付けられ、ビー玉が並べてある。空中に表示される時刻が反射され、とても綺麗だ。
羽月とリリアが見ていない事を確認し、ブラウスの上に着けたコルセットの内側から、ビー玉の様な監視カメラを取り出す。それを皿にあるビー玉の一つとすり替えた。
フッとシェリーは笑みを漏らす。
「シェリーさん、砂糖とミルクは入りますか?」
羽月の問い掛けに、シェリーの片眉が上がる。
「気安く名前で呼ばないでもらおうか?」
「えっ? ミッシェルが苗字ですか?」
軽く驚き、羽月はリリアを見た。
「そうです」
こくこくと頷きながら、リリアは小声で知らせる。
「私も、苗字か名前か……。性別すら分からなかった」
嫌な顔をしながらシェリーは言う。
気にも掛けずに、羽月はスティックシュガーとコーヒーフレッシュを取り、悩んでいる。
「入れますよ」
小声でリリアが代わりに答える。
ソーサーに、スティックシュガーとコーヒーフレッシュを一個ずつ置き、羽月はテーブルに持っていく。
置くと羽月は、後ろに付いて来たリリアの頰を片手で抓った。
「浮かねぇツラしてたな」
「⁉︎」
「苦労知らずと思われて、冷たくあしらわれたんだろ」
「えっ⁉︎ ええっ……」
完全に言い当てられ、リリアは抓られた頰を押さえ、目を見開き驚いた。
羽月はリリアに、シェリーの隣を指差し、座るように促した。
「勉強する所と割り切って、真面目に授業受けてりゃいい。その内、親切な奴が声掛けてくるだろうよ」
下座に腰を下ろし、羽月は平静に助言した。
「はい! そうします」
頭にあった靄を晴らし、リリアは満面の笑顔で聞き入れた。
分かってくれる。もう、スッキリだ。
羽月に親切心は無いが、リリアには有り難かった。
「友情は自然と生まれるものだ。無理に築くものじゃない」
正論だと思い「分かりました」と言い、リリアは挙手の敬礼をする。
「怒り買わないよう、送迎は無しにした方がいいですよ」
「それに、駅から王都迄二時間かかりますし……。ゲートキーも有るし、端末も有りますから安全です」
チャンスと思い、羽月に続けてリリアは言い詰める。
ゲートキーは、王族ゲートパスの刻印を隠す、リストバンドの中に入れてある。
「分かりました。取り敢えずは無しにします」
取り敢えずを強調し、シェリーは承知した。
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