お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ

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第6章:聖女の使命

第61話 聖玉

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 屋敷に戻ると、私たちはそれぞれの部屋に戻り入浴を済ませた。

 髪を乾かし終わった私はレイチェルに告げる。

「レナートを呼んでくれる?」

 レイチェルはうやうやしく頭を下げたあと、侍女の一人に指示を出した。




 私の前に姿を現したレナートは、すっかり気落ちしているみたいだった。

 こちらを見る事もできず、床に目を落としている。

「うわぁ……レナート、ちゃんとご飯と睡眠はとった方が良いよ?」

 レナートが驚いたようにこちらを見た。

「……お嬢様、お怒りではないのですか」

「怒ってるよ? もう二度とあんなことを口にしないでね。
 それを約束できるなら、また専属にしてあげる」

 レナートが顔から喜びをあふれさせた。

 そのまま勢いよく私に向かって頭を下げる。

「申し訳ありませんでした!」

 私は苦笑を浮かべながら告げる。

「もう終わったことだよ――それより、紅茶を入れてくれる?」




 昼食の席では、お母様が嬉しそうに私を見つめていた。

「よかった、いつものシトラスに戻れたのね」

「お騒がせしました。お兄様のおかげで、気持ちを立て直すことが出来ました」

 アンリ兄様が、お母様に意を決したように告げる。

「そのことで母上にお伝えしたいことがあります。
 私はシトラスをめとりたいと思います。
 シトラスにも、うなずいてもらいました」

 お母様が微笑んで応える。

「そう、やっと決心がついたのね。
 でも婚姻は十五歳までできないわ。
 だからシトラスが十五歳になるまで、あなたたちは兄妹でいて頂戴」

「はい、心得ております」

「兄妹だから婚約者にもしてあげられないけど、それも我慢してね」

 そっか、なんだかめんどうな関係なんだな。私たちって。

 うっかり昨晩、子供が出来る事をして本当にできちゃったら大変な所だったのか。




 昼食中、侍女が一通の手紙を持ってきた。

「王都から使者が参りました」

 お母様が手紙を受け取り、素早く目を通していく。

「アンリ、あなたの読み通りね。
 詳細は書いてないけど、すぐに王都に来て欲しいとあるわ」

「では食事を済ませたら、急いで出立しましょう」


 昼食を済ませた私たちは出かける準備を進めた。

 といっても、すでに準備万端だったようで、やることはほとんどない。

 馬車に乗りこむのは、アンリ兄様とお母様、お父さんにお母さん、私とレナートだ。

 護衛を連れた私たちは、急いで王都を目指して馬車を走らせた。




****

 王都の別邸では、お父様が私たちを待っていた。

「早かったね、そちらでも何か異変があったのかな?」


 アンリ兄様が、私の身に起こったことを伝えていった。


「……なるほど、怪異が現れたのか。
 グレゴリオ最高司祭に話を聞いた方が良さそうだ。
 彼は今、宮廷で聖玉の調査をしている。すぐに向かおう」

「お父様、聖玉に何があったのですか?」

 お父様が小さくため息をついた。

「亀裂が入った。もう一度亀裂が入れば砕けてもおかしくない。それくらいのね」

「そんなに大きな亀裂が……。
 ですが、お兄様の読み通りですわね。では宮廷へ向かいましょう」


 私たちは八人乗りの馬車に乗りこみ、宮廷へ急いだ。




 ――宮廷。私の嫌な記憶がたくさん詰まった場所だ。

 馬車が宮廷の敷地に入っていくと、もう手の震えを抑えることが出来なくなっていた。

 アンリ兄様が手を握ってくれる。

「大丈夫、今のこの場所はお前を害する場所じゃない」

 私は無言でうなずいた。

 ここに来るのも、今回の人生では二度目だ。

 ダヴィデ殿下の夜会では耐えられたのだから、今度も耐えられるはずだ。


 私たちはお父様に連れられて宮廷内部へと進んでいく。

 宮廷の奥まった部分が神殿区画となっていて、その奥に聖玉があるらしい。

 騎士たちが警護する入り口を抜けた先は、大きなすり鉢状の広間になっていた。

 その中央に台座があり、その上に子供の頭くらいの、七色に輝く白い玉が置いてあった。あれが聖玉だろう。

 遠目にも、聖玉に亀裂が入っているのが見て取れた。

 想像していたより大きな亀裂だ。前回の人生で、二回目の亀裂が入った時と同じくらいに見える。

 その傍では、グレゴリオ最高司祭が聖玉に向かって何かをしているようだった。

 お父様が聖玉に近づきながら声をかける。

「グレゴリオ最高司祭、シトラスを連れてきた」

「おお、来てくださいましたか!」

「それで、何か分かったか?」

 グレゴリオ最高司祭が首を横に振った。

「急激に聖玉の力が衰えていますな。
 原因はまったくわからないままです」

 私がグレゴリオ最高司祭に尋ねる。

「異変があったのはいつ頃ですか?」

「三日前の昼前だと思います。当直の騎士が、亀裂の入る大きな音を聞き付け、聖玉を確認した時にはもう、この状態でした」

 昼前――たぶん、レナートが私に禁句を告げた時刻だろう。

 私は心を決めた。

「グレゴリオ最高司祭、話を聞いてくださいますか」


 私は、自分の心に起こったことも含めて、あの日起こった全てを伝えていった。


「――どう思いますか?」

 グレゴリオ最高司祭が眉間にしわを寄せていた。

「魔神は人の心を惑わす存在だと伝承されています。
 その偽物は、魔神の力が漏れ出たものかもしれません。
 そしてこれは言いにくいのですが……現在、最も聖玉を崩壊させる力を持つのは、シトラス様で間違いないでしょう」

 やっぱりそうなるのか。

 人々の救済をする聖女が世界を滅ぼす力を持つとか、笑えない冗談だ。

 ただ苦しむ人々を救っているだけじゃ、だめだってこと?

「どうしたら良いと思いますか」

「シトラス様が人々を見捨てることが無ければ、おそらく大丈夫でしょう」

 それは難しい注文だった。

 私の中で、その思いは心にぬぐい取れない汚れのようにこびりついている。

 それを消し去れと言われても、無理に思えた。

 グレゴリオ最高司祭が優しく私に告げてくる。

「あなたは聖女、世界を救う使命を持つ者。
 ですがあなたもまた、世界の一部なのです。
 あなたが救われないようでは、世界を救ったことにはなりません。
 どうか、それを忘れないようにしてください」

 それはいつか、お父さんが私に言った言葉。

 でも私は、それを両立する方法なんて知らない。

 それを知ってる人なんて――ふと私の目が、聖玉にとまった。

 私は深いため息をついて決心をする。

 ……あれをやってみるか。

「聖玉に聖女の力を使っても構いませんか」

無垢なる妖精セイント・フェアリーを試すおつもりですか? 成功率は低いと思いますが」

「そうなのですか?」

「これほど強い力をもつ聖遺物の意志を顕現けんげんさせるのは、とても消耗するでしょう。
 今のあなたに耐えられるとは思えません」

「ですが、少しでも手掛かりが手に入るかもしれません。やるだけやってみます。
 ――≪無垢なる妖精セイント・フェアリー≫! 聖玉よ、私の質問に答えて!」

 私の身体から、生命力が搾り取られるように力が抜けていく。

 視界が暗くなったけど、歯を食いしばって踏ん張った。

 聖玉から、一人の少女が現れた。

 それはいつもの妖精とは違う姿、ソバージュのかかったブロンドの少女。

 私は肩で息をしながら、質問を投げかける。

「――あなたが、聖玉の妖精?」

『そうよ。私に姿を与えるなんて、無茶をするわね。
 長くは維持できないでしょうから、手短に話すわよ』

 私は妖精に無言でうなずいた。

『聖女の力の源は、人々への慈愛、救いたいと願う心。
 あなたは本来、それを持って生まれた人。
 だけどあなた、混じってしまっているわ』

「混じってる? どういう意味?」

『どうしてそんなことになっているのかわからないけれど、あなたの心は本来のあなた以外の異物が混じってる。
 それが聖女の力をそこなわせてるのよ。
 その異物があなたの中で大きくなると、聖玉に影響が出てしまう。
 今回の亀裂は、それが原因ね』

「……どうしたらいいの」

『もうこの聖玉は力を失いつつある。新しい聖玉が必要よ』

「どうやったら作れるの?」

『聖地で聖女が魂を聖神様に捧げると、それが聖玉になるわ』

 魂を……捧げる?

「ちょっと待って、そんなことをしたら私は死んじゃわない?」

『ええ、魂を捧げれば当然、死んでしまうわね』

「聖玉を作ったのは初代聖女でしょう?! 初代聖女は初代国王に嫁いで子供を残したじゃない!」

『嫁いだのは初代聖女の妹よ。初代聖女は聖玉を作って死んだわ。
 聖地の場所はわかる?』

「それはどんな場所?」

『聖神様の力が強い場所よ。聖女なら、見つけることが出来るはず――そろそろ限界ね。もう私の姿を作っては駄目よ? 次はあなたの命がないわ』

 それだけ言うと、妖精は姿を消していった。

 私の意識はそれを見届けると同時に途切れていた。
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