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第2部 街を駆け巡る〝ペットテイマー〟 第7章 〝ペットテイマー〟アイリーンの街へ帰る
70. アイリーンへの帰還
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ドラマリーンの街での用事も終わり、私はデレック様と一緒にアイリーンの街へ向かうことになったんだけど、デレック様が連れてきた魔獣、すっごい迫力。
獅子型の魔獣で〝サンドリオン〟っていうらしいけれど、移動速度がとにかく速いらしいんだ。
キントキでついていけるかなぁ?
「キントキ、デレック様についていける?」
『いまなら多分大丈夫だよ。シズクが特殊変異個体を2匹も倒してくれたおかげで、魔力も相当高まっているし』
「そうなの?」
『そうだよ。僕も新しいスキルが増えているし、落ち着いたらみんなに教えてもらいなよ』
「わかった。そうするね」
「相談は終わりましたかな?」
いけない、デレック様を待たせちゃった。
「はい。お待たせしました」
「いえ、旅の同行者がいきなり増えたのです。お気になさらず」
「そうも参りません。他の街のギルドマスター様なんですから」
「ではそういうことに。参りましょうか。行くぞ、ガラム!」
「行こう、キントキ!」
『任せて!』
私とデレック様が並んで走ると邪魔になるからということで、デレック様が前を走っているけれど、本当に速い。
これなら4時間くらいでアイリーンの街までついちゃいそう。
でも、キントキもなぜかそれについていけているんだよね。
どんなスキルを覚えたんだろう?
「ほほう、その犬。なかなかできますな」
『シズクの仲間だからね!』
「まだスピードを上げてもついてこられますか?」
『大丈夫だよ!』
「では、全速力で。ガラム、走れ!」
『シズク、落ちないようにね』
「う、うん」
デレック様が〝スピードを上げる〟って言ったけど本当にスピードがぐんぐん増していった。
でも、キントキもそれにぴったりくっついていって……ああ、キントキ、どうなっちゃったの!?
結局、途中休憩は1度だけで済み、3時間ほどでアイリーンの街までついちゃった。
早かったなぁ。
「おや? シズク特使、もうドラマリーンからお戻りで? 今日まで滞在の予定だったのでは?」
「いや、今日まで滞在していたんだけど、デレック様の騎獣とキントキが速すぎて、ここまで3時間で着いちゃった」
「それはそれは。そちらの方がデレック様ですか?」
「はい。ドラマリーンの冒険者ギルドマスターです。失礼のないようお願いいたします」
「かしこまりました。身分証だけ拝見してもよろしいでしょうか?」
「うむ。これだ」
「確かに。ようこそ、アイリーンの街へ」
「先触れもなしの急な来訪ですまないな。特使様、アイリーンの冒険者ギルドまで案内していただけるか?」
「はい。こちらです」
私たちはキントキや騎獣に乗ったまま街の中を歩いて行く。
そう、私も街中をキントキに乗って歩く許可が出ているんだよね!
走ることは禁止だし、普段は使わないけど。
なにせ、子供が寄ってきちゃって危ないから。
子供も、人が乗れるサイズの大きな犬が歩いているのは珍しいみたいだし、キントキも乱暴にされなければ怒らないからね。
キントキを大きくしたままにしておくと、目的地に着くまで余計時間がかかるんだよ。
今日はデレック様の魔獣も一緒だから近づいてこないみたいだけど、視線はひしひしと感じている。
これは帰る前に少し遊んであげないとだめかなぁ。
子供たちの視線を感じながら街中を歩いて行くと、やがて冒険者ギルドまでたどり着いた。
私はキントキから降りて元のサイズに戻ってもらい、デレック様は魔獣専用の小屋に預けてくるって。
デレック様が戻ってくるのを待ってから冒険者ギルドに入ろう。
「あ、お帰りなさい、シズクちゃん。……デレック様までご一緒でしたか」
「すまないな、先触れなしに押しかけてしまって。サンドロックはいるか?」
「はい。本日シズクちゃんが戻る予定ですのでいます。私がご案内いたしますのでどうぞ。シズクちゃんも一緒にね」
「はい。わかっています」
リンネさんに案内されてギルドマスタールーム、サンドロックさんの部屋までやってきた。
リンネさんが入室許可を取るり私が入ってきたことには驚かなかったけど、デレック様が入ってきたことには相当驚いていたね。
まあ、他の街のギルドマスターが先触れなしにいきなり現れれば当然か。
「久しぶりだな、サンドロック」
「お、おう。デレック、久しぶり。シズク、なんでデレックまでいるんだ?」
「ええと、私が帰るとき、デレック様も一緒についてくることになって」
「そうか。デレック、シズクはそんなに役に立ったか?」
「ああ。我が街でも多大な貢献をしてくれた。キラーヴァイパーとヴェノムヴァイパーの大量討伐にそれぞれの特殊変異個体の駆除、新人冒険者たちへウルフ狩り講習、キラーヴァイパーとヴェノムヴァイパーの簡単な倒し方まで教えてもらった。ギルドマスター同士の折衝を行うついでにその礼も述べなければと考えてな」
「気にすんな。すべてシズクがやりたくてやったことだ。シズク、キラーヴァイパーとヴェノムヴァイパー、それぞれどれくらい倒してきた?」
「キラーヴァイパーは百匹以上、ヴェノムヴァイパーは……数十匹かな?」
「……おまえ、それは感謝もされるぞ。肉や素材は独占してないだろうな?」
「ああ、そちらも問題ない。後日行ったキラーヴァイパーとヴェノムヴァイパーの狩り方を教えてもらったときの狩猟数で十分に我が街の冒険者ギルドは潤った。特使様からもいくらか買い取ったが、保管場所の都合上、それほど買い取れなかったからな。今後は我らの街でも討伐数が増えるだろう。特使様が狩り取った分はアイリーンの街で好きに使ってもらいたい。特に特殊変異個体など、どれくらいの金額で買い取りどのように扱えばいいかわからない代物だからな」
「シズク、お前も仲間がいるからって特殊変異個体を狩りすぎだぞ? 武器は特別よくなっているが、お前自身はただのステップワンダーだ。一撃でももらえば防具の防御力とは関係なしに体の骨が砕ける。そこは忘れるな」
「はい。わかっています」
「あと、狩り取ってきた特殊変異個体ってのには俺も興味がある。そんなものを扱えるのはアダムとその嫁くらいだ。そっちも呼んでどんな防具が作れるのか相談だな」
「わかりました。私はこのあとどうすればいいでしょう?」
「そうだな。お前はいまのところアイリーンの街からの特使、つまり領主預かりってことになっている。ケウナコウ様に報告してこい。ギルドマスター同士の話はお前にも聞かせられん」
「承知しました。では、失礼します」
そうだよね、特殊変異個体の皮を取ってきても、それを防具にできなくちゃ意味がないよね。
アダムさんでできればいいなぁ。
********************
「サンドロック、そのアダムとやら。特殊変異個体の革製品まで作れる職人なのか?」
「ドワーフの名匠だ。ちなみにその嫁はドワーフでありながら、アカデミーの最高権威錬金術師の称号を持っている」
「なるほど。それならば特殊変異個体の装備作りもお手の物か」
「そうなる。さて、面倒くさいギルドマスター同士の折衝はさっさと終わらせちまおう」
「そうだな。私もその特殊変異個体の装備とやらに興味がある」
「下手すりゃオリハルコンの武器ですらはじける鎧ができるぞ? さて、そっちの要望を聞こうか」
********************
「……以上がドラマリーンの報告になります。ケウナコウ様」
「シズク、想像以上の大冒険だったようだな。それにしても、キラーヴァイパーとヴェノムヴァイパーの素材がそれほど手に入ったか。キラーヴァイパーはお主も使っているからわかるだろうが、軽くてしなやかでありながら頑丈。ヴェノムヴァイパーはキラーヴァイパーよりも少し重く防具としての性能も落ちるが、錬金術師がその血肉と結合させ作れば猛毒耐性を得られる装備になるのだ。領主家としてある程度買い取らせてもらいたいが構わないか?」
「はい。もちろんでございます」
「助かる。〝オークの砦〟攻めに向けて少しでも装備を強化しておきたかったのだ。それから、お主が狩り取ってきた特殊変異個体の素材も気になるな。アダムたちが検分するときには私も立ち会わせてもらおう。私の防具もミスリル製。そろそろ買い換え時だからな」
「構いませんが、領主様の鎧がレザーアーマーというのも示しがつかないのでは?」
「そのときは表面だけをミスリルで覆ってもらうよ。おそらく、ミスリルを貫通されてもその下の革鎧は貫通できないだろうからな」
「かしこまりました。それで、この特使服ですが……」
「それは、そのままお主に預ける。今後も他の街へ使いに出すことがあるかもしれぬ。キントキはドラマリーンから3時間で帰ってくることができるほど速くなったのであろう? それならば特使役として出向いてもらうのはぴったりだ」
「ですが、私はDランク冒険者です。もっと高いランクの冒険者の方が」
「お主はD〝+〟ランクだ。+ランクを与えられる者は、街を脅かすほどの難事を解決した者のみ。例え冒険者ランクがDであろうとも+の意味がわからぬようでは交渉の価値などない」
「……わかりました。この重責、果たしてみせます」
「うむ。ただ、洗濯をするのはお主だと難しかろう。我が家の者に任せるのであとで着替えて置いていってくれ」
「はい。あと、ミィちゃんも引き取ってくださりありがとうございます」
「こちらこそ。娘があの子猫を見た瞬間からずっと目を離していなかったからな。乱暴に扱わないとも約束したし、ウサギたちとも関係は良好なようだ。リオにはいい学びとなるだろう」
「そうあってほしいです」
「さて、報告は以上か?」
「はい、以上になります」
「では、別室にて特使服を着替え、家の者に預けてから帰るといい。メイナとミーベルンも待ちわびているだろう」
「わかりました。これで失礼いたします」
「ああ。ご苦労だった」
ケウナコウ様への報告も終わったし、あとは特使服を預けて帰るだけか。
センディアではミーベルンに会えたこととエンディコットさんに会えたこと以外は嫌なことばっかりだったけど、ドラマリーンは楽しかったなぁ。
早く〝オークの砦〟も片付けてメイナお姉ちゃんとミーベルンをアイリーンの街に連れて行ってあげたいよ。
特使服も預け終わり、キントキのことを見ていた子供たちとも遊び終わったらメルカトリオ錬金術師店に帰るのが夕方近くになっちゃった。
私の夕食、あるかなぁ?
「ただいまー」
「あ、ようやく帰ってきたのね、シズクちゃん」
「お帰りなさい、シズクお姉ちゃん」
「メイナお姉ちゃんもミーベルンもただいま。サンドロックさんやケウナコウ様への事情説明やキントキを見かけた子供たちとの遊びに時間がかかっちゃって」
「もう。……まあ、無事に帰ってきてくれたんだからいいわ。そろそろ閉店の時間だし、看板をしまってもらえるかな?」
「うん、いいよ。それで、私の夕食って……」
「ちゃんと用意してあります。キントキが歩いていたことは私の耳にも入っていたからね。遅いからミーベルンと一緒に心配していたんだよ?」
「あはは……ごめんね」
「ともかく、お店を閉店したら夕食の準備をしましょう。ミーベルンも手伝ってね?」
「うん!」
ああ、私の家に、メイナお姉ちゃんとミーベルンのところに帰ってきたんだな。
次に長く離れちゃうのは〝オークの砦〟攻めの時だろうけど、それまでは私の家を守らなくちゃ。
獅子型の魔獣で〝サンドリオン〟っていうらしいけれど、移動速度がとにかく速いらしいんだ。
キントキでついていけるかなぁ?
「キントキ、デレック様についていける?」
『いまなら多分大丈夫だよ。シズクが特殊変異個体を2匹も倒してくれたおかげで、魔力も相当高まっているし』
「そうなの?」
『そうだよ。僕も新しいスキルが増えているし、落ち着いたらみんなに教えてもらいなよ』
「わかった。そうするね」
「相談は終わりましたかな?」
いけない、デレック様を待たせちゃった。
「はい。お待たせしました」
「いえ、旅の同行者がいきなり増えたのです。お気になさらず」
「そうも参りません。他の街のギルドマスター様なんですから」
「ではそういうことに。参りましょうか。行くぞ、ガラム!」
「行こう、キントキ!」
『任せて!』
私とデレック様が並んで走ると邪魔になるからということで、デレック様が前を走っているけれど、本当に速い。
これなら4時間くらいでアイリーンの街までついちゃいそう。
でも、キントキもなぜかそれについていけているんだよね。
どんなスキルを覚えたんだろう?
「ほほう、その犬。なかなかできますな」
『シズクの仲間だからね!』
「まだスピードを上げてもついてこられますか?」
『大丈夫だよ!』
「では、全速力で。ガラム、走れ!」
『シズク、落ちないようにね』
「う、うん」
デレック様が〝スピードを上げる〟って言ったけど本当にスピードがぐんぐん増していった。
でも、キントキもそれにぴったりくっついていって……ああ、キントキ、どうなっちゃったの!?
結局、途中休憩は1度だけで済み、3時間ほどでアイリーンの街までついちゃった。
早かったなぁ。
「おや? シズク特使、もうドラマリーンからお戻りで? 今日まで滞在の予定だったのでは?」
「いや、今日まで滞在していたんだけど、デレック様の騎獣とキントキが速すぎて、ここまで3時間で着いちゃった」
「それはそれは。そちらの方がデレック様ですか?」
「はい。ドラマリーンの冒険者ギルドマスターです。失礼のないようお願いいたします」
「かしこまりました。身分証だけ拝見してもよろしいでしょうか?」
「うむ。これだ」
「確かに。ようこそ、アイリーンの街へ」
「先触れもなしの急な来訪ですまないな。特使様、アイリーンの冒険者ギルドまで案内していただけるか?」
「はい。こちらです」
私たちはキントキや騎獣に乗ったまま街の中を歩いて行く。
そう、私も街中をキントキに乗って歩く許可が出ているんだよね!
走ることは禁止だし、普段は使わないけど。
なにせ、子供が寄ってきちゃって危ないから。
子供も、人が乗れるサイズの大きな犬が歩いているのは珍しいみたいだし、キントキも乱暴にされなければ怒らないからね。
キントキを大きくしたままにしておくと、目的地に着くまで余計時間がかかるんだよ。
今日はデレック様の魔獣も一緒だから近づいてこないみたいだけど、視線はひしひしと感じている。
これは帰る前に少し遊んであげないとだめかなぁ。
子供たちの視線を感じながら街中を歩いて行くと、やがて冒険者ギルドまでたどり着いた。
私はキントキから降りて元のサイズに戻ってもらい、デレック様は魔獣専用の小屋に預けてくるって。
デレック様が戻ってくるのを待ってから冒険者ギルドに入ろう。
「あ、お帰りなさい、シズクちゃん。……デレック様までご一緒でしたか」
「すまないな、先触れなしに押しかけてしまって。サンドロックはいるか?」
「はい。本日シズクちゃんが戻る予定ですのでいます。私がご案内いたしますのでどうぞ。シズクちゃんも一緒にね」
「はい。わかっています」
リンネさんに案内されてギルドマスタールーム、サンドロックさんの部屋までやってきた。
リンネさんが入室許可を取るり私が入ってきたことには驚かなかったけど、デレック様が入ってきたことには相当驚いていたね。
まあ、他の街のギルドマスターが先触れなしにいきなり現れれば当然か。
「久しぶりだな、サンドロック」
「お、おう。デレック、久しぶり。シズク、なんでデレックまでいるんだ?」
「ええと、私が帰るとき、デレック様も一緒についてくることになって」
「そうか。デレック、シズクはそんなに役に立ったか?」
「ああ。我が街でも多大な貢献をしてくれた。キラーヴァイパーとヴェノムヴァイパーの大量討伐にそれぞれの特殊変異個体の駆除、新人冒険者たちへウルフ狩り講習、キラーヴァイパーとヴェノムヴァイパーの簡単な倒し方まで教えてもらった。ギルドマスター同士の折衝を行うついでにその礼も述べなければと考えてな」
「気にすんな。すべてシズクがやりたくてやったことだ。シズク、キラーヴァイパーとヴェノムヴァイパー、それぞれどれくらい倒してきた?」
「キラーヴァイパーは百匹以上、ヴェノムヴァイパーは……数十匹かな?」
「……おまえ、それは感謝もされるぞ。肉や素材は独占してないだろうな?」
「ああ、そちらも問題ない。後日行ったキラーヴァイパーとヴェノムヴァイパーの狩り方を教えてもらったときの狩猟数で十分に我が街の冒険者ギルドは潤った。特使様からもいくらか買い取ったが、保管場所の都合上、それほど買い取れなかったからな。今後は我らの街でも討伐数が増えるだろう。特使様が狩り取った分はアイリーンの街で好きに使ってもらいたい。特に特殊変異個体など、どれくらいの金額で買い取りどのように扱えばいいかわからない代物だからな」
「シズク、お前も仲間がいるからって特殊変異個体を狩りすぎだぞ? 武器は特別よくなっているが、お前自身はただのステップワンダーだ。一撃でももらえば防具の防御力とは関係なしに体の骨が砕ける。そこは忘れるな」
「はい。わかっています」
「あと、狩り取ってきた特殊変異個体ってのには俺も興味がある。そんなものを扱えるのはアダムとその嫁くらいだ。そっちも呼んでどんな防具が作れるのか相談だな」
「わかりました。私はこのあとどうすればいいでしょう?」
「そうだな。お前はいまのところアイリーンの街からの特使、つまり領主預かりってことになっている。ケウナコウ様に報告してこい。ギルドマスター同士の話はお前にも聞かせられん」
「承知しました。では、失礼します」
そうだよね、特殊変異個体の皮を取ってきても、それを防具にできなくちゃ意味がないよね。
アダムさんでできればいいなぁ。
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「サンドロック、そのアダムとやら。特殊変異個体の革製品まで作れる職人なのか?」
「ドワーフの名匠だ。ちなみにその嫁はドワーフでありながら、アカデミーの最高権威錬金術師の称号を持っている」
「なるほど。それならば特殊変異個体の装備作りもお手の物か」
「そうなる。さて、面倒くさいギルドマスター同士の折衝はさっさと終わらせちまおう」
「そうだな。私もその特殊変異個体の装備とやらに興味がある」
「下手すりゃオリハルコンの武器ですらはじける鎧ができるぞ? さて、そっちの要望を聞こうか」
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「……以上がドラマリーンの報告になります。ケウナコウ様」
「シズク、想像以上の大冒険だったようだな。それにしても、キラーヴァイパーとヴェノムヴァイパーの素材がそれほど手に入ったか。キラーヴァイパーはお主も使っているからわかるだろうが、軽くてしなやかでありながら頑丈。ヴェノムヴァイパーはキラーヴァイパーよりも少し重く防具としての性能も落ちるが、錬金術師がその血肉と結合させ作れば猛毒耐性を得られる装備になるのだ。領主家としてある程度買い取らせてもらいたいが構わないか?」
「はい。もちろんでございます」
「助かる。〝オークの砦〟攻めに向けて少しでも装備を強化しておきたかったのだ。それから、お主が狩り取ってきた特殊変異個体の素材も気になるな。アダムたちが検分するときには私も立ち会わせてもらおう。私の防具もミスリル製。そろそろ買い換え時だからな」
「構いませんが、領主様の鎧がレザーアーマーというのも示しがつかないのでは?」
「そのときは表面だけをミスリルで覆ってもらうよ。おそらく、ミスリルを貫通されてもその下の革鎧は貫通できないだろうからな」
「かしこまりました。それで、この特使服ですが……」
「それは、そのままお主に預ける。今後も他の街へ使いに出すことがあるかもしれぬ。キントキはドラマリーンから3時間で帰ってくることができるほど速くなったのであろう? それならば特使役として出向いてもらうのはぴったりだ」
「ですが、私はDランク冒険者です。もっと高いランクの冒険者の方が」
「お主はD〝+〟ランクだ。+ランクを与えられる者は、街を脅かすほどの難事を解決した者のみ。例え冒険者ランクがDであろうとも+の意味がわからぬようでは交渉の価値などない」
「……わかりました。この重責、果たしてみせます」
「うむ。ただ、洗濯をするのはお主だと難しかろう。我が家の者に任せるのであとで着替えて置いていってくれ」
「はい。あと、ミィちゃんも引き取ってくださりありがとうございます」
「こちらこそ。娘があの子猫を見た瞬間からずっと目を離していなかったからな。乱暴に扱わないとも約束したし、ウサギたちとも関係は良好なようだ。リオにはいい学びとなるだろう」
「そうあってほしいです」
「さて、報告は以上か?」
「はい、以上になります」
「では、別室にて特使服を着替え、家の者に預けてから帰るといい。メイナとミーベルンも待ちわびているだろう」
「わかりました。これで失礼いたします」
「ああ。ご苦労だった」
ケウナコウ様への報告も終わったし、あとは特使服を預けて帰るだけか。
センディアではミーベルンに会えたこととエンディコットさんに会えたこと以外は嫌なことばっかりだったけど、ドラマリーンは楽しかったなぁ。
早く〝オークの砦〟も片付けてメイナお姉ちゃんとミーベルンをアイリーンの街に連れて行ってあげたいよ。
特使服も預け終わり、キントキのことを見ていた子供たちとも遊び終わったらメルカトリオ錬金術師店に帰るのが夕方近くになっちゃった。
私の夕食、あるかなぁ?
「ただいまー」
「あ、ようやく帰ってきたのね、シズクちゃん」
「お帰りなさい、シズクお姉ちゃん」
「メイナお姉ちゃんもミーベルンもただいま。サンドロックさんやケウナコウ様への事情説明やキントキを見かけた子供たちとの遊びに時間がかかっちゃって」
「もう。……まあ、無事に帰ってきてくれたんだからいいわ。そろそろ閉店の時間だし、看板をしまってもらえるかな?」
「うん、いいよ。それで、私の夕食って……」
「ちゃんと用意してあります。キントキが歩いていたことは私の耳にも入っていたからね。遅いからミーベルンと一緒に心配していたんだよ?」
「あはは……ごめんね」
「ともかく、お店を閉店したら夕食の準備をしましょう。ミーベルンも手伝ってね?」
「うん!」
ああ、私の家に、メイナお姉ちゃんとミーベルンのところに帰ってきたんだな。
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