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第一章 踏み荒らされ花
やるしかないんだ
しおりを挟むカイナ村に戻るとすぐに、皆がくる前にライドの遺体に頭を戻す。すると、魔王様が何も言わずに引っ付けてくれた。傷口が分からないように。
「……ありがとうございます」
小さい声でお礼を言う。
アークは自分が孤児だって言ってたけど、アークの叔父さんは良い人だね。無表情で、厳しい話し方だけど。そんなことを考えてると、少しだけ、魔王様の眉間に皺が寄った。なんかそれがおかしくて、俺は少しだけ笑う。
「「「アーク!!」」」
ライドに花を添えてると、いきなり背後から名前を呼ばれた。振り返ると同時に抱き付かれる。
「心配掛けてごめん。ライドとアイリスさん、無事連れて帰って来れたよ。でも……」
一瞬口元に浮かんだ笑みが消え、悔しくて泣きそうになる。
生きて連れ帰ることはできなかった――
「ちゃんと連れ戻してくれた」って、優しい皆は反対に俺を慰めてくれる。それがさらに、俺の復讐心の糧になった。
実は……心臓のことは皆には内緒だ。あまりにも無惨で酷い話だから。絶対ショック受けるに決まってる。それでなくても、親を失ってショックを受けてるのに。だから、アイリスの傷は戻る前に魔王に治してもらった。
でも、その胸に心臓はない。心臓は俺の手元にある。ライドの分も。正確には二つとも俺の中にある。
戻そうとしたんだよ。なのになぜか、アイリスさんの心臓が魔石へと変化したんだ。ほんと驚いたよ。魔石に変化したのも驚いたけど、その綺麗さにも驚いた。凄くキラキラしてたんだ。
それだけでも驚いたのに、その魔石が俺の中に吸い込まれるように消えるなんて。考えてもいなかった。
瞬間、胸が熱くなる――
熱さの原因はアイリスさんの魔石じゃなくて、ライドが別れ際に渡してくれた御守だった。取り出してみると、中には黒い魔石が入っていた。俺はその黒一色の綺麗な魔石がなんなのか、すぐにわかった。
「…………なんで、心臓なくして動いてるんだよ……謎だよ、ライド……」
俺がその魔石をライドの頭と一緒に抱き締めると、その魔石も俺の中へと吸収された。
アイリスさんとライドの心臓は魔石へと姿を変えて、今俺の中にある。
俺の中に二人はいる。
この状況に驚くことなく、魔王様は「いずれ、理由を理解する日が来る」と教えてくれた。
いずれって、いつなんだろ?
それ以上は詳しくは教えてはくれなかった。突っ込んで訊きたかったけど無理そうだ。皆の前では訊けないし、また日を改めて訊くしかないよな。
「無事でよかったよ~ゲス司祭に攻撃された時、心臓止まるかと思ったよ~~」
半泣きでマリアが抱き付く。
えっ……? 何で知ってるの?
マリアの頭を撫でながら、ジムとレイに視線を向けたら、二人とも涙目だった。何故か、側近のソルガさんも涙目だ。どうして?
「ああ。私が流したんですよ、この魔法具で」
そう言いながら、リュートはローブの胸元にあるシルバーの金具に手をやる。
「この魔法具は便利でね、映像と音声を記録出来るし、対の魔法具があれば、そのまま映像と音を対の魔法具に飛ばすことが出来る優れ物なんですよ。まぁ、遠くに飛ばそうとしたら、かなりの魔力を有するのが難点ですけどね」
胡散臭い笑みを浮かべながらリュートは説明してくれた。でも、肝心なことが抜けている。
「どうして……?」
そう尋ねると、わざとらしく溜め息を吐きながら教えてくれた。
「側近の大半が勇者に反感を持っていますからね。面倒事が起きないよう、予防策をとっただけです」
根は良い人なんだよな……言い方がアレだけど。
つまり、少しでも他の側近たちに受け入れ易くするために、わざわざ無修正の映像を流してくれたんだ。
ソルガさんが何故涙目かは分からないけど、彼もまた皆と一緒に見ていたんだろう。
「配慮、ありがとうございます」
素直に俺は頭を下げた。
「お礼は結構ですよ。その代わり、厄介事を起こさないで下さいね」
ほんと、誤解されるような言い方だよな。
「はい」
そう返事すると「分かれば宜しい」と答え、逃げるようにその場を離れた。
「ああいう言い方しなくても」
マリアが文句を言う。俺は訂正した。
「リュートさんは、本当はとても優しい人だよ。少し素直じゃないだけで」
「まぁ……彼のおかげで、味方は出来たけどね」
文句を言いながらも、ちゃんとマリアも分かってる。ジムもレイも。
「……あのゲス野郎の啖呵は中々よかったけど、一つ間違ってるよ」
唐突にレイがそんなことを言ってきた。
「ああ。間違ってるぞ」
「うん。間違ってた」
ジムとマリアもレイと同じことを言う。
「えっ!? どこが?」
急にそんなこと言われたら焦るよ。今更、間違いを訂正出来ないし。
「アークは一人で仇をうつって言ってたげど、俺たちも一緒だから」
「俺たちを仲間外れする気か?」
「そんなことしないよね?」
一緒に来てくれるの……?
「……いいのか? 元々、俺のせいで――」
俺がいたから……村が襲われて、皆の家族が殺されたのに、それでも、一緒に戦ってくれるの? そんな都合のいい話ってあっていいの?
皆は巻き込まれただけだ。
責められても仕方ないって思っていた。詰られ怒鳴られても受け入れるつもりだった。「自分から進んで復讐の道に入ることはない」と、言わなくちゃいけないのに、そう言う前に「一緒に戦ってくれる」って言ってくれた。同情でも嬉しい。
「「「それは違う!!」」」
こんな時でも、ほんと息がピッタリなんてズルいよな。
「本当に、一緒に戦ってくれる?」
「「「勿論!!」」」
視界が歪む。俺は唇を噛み締め俯く。小さな嗚咽が漏れる。皆何も言わずに、俺が落ち着くまで一緒にいてくれた。
今日だけは泣こう。
でも、明日からは泣かない。涙が出そうになったら、上を見て我慢する。
俺は強くならなきゃいけないんだ――
村人たちの埋葬が終えた後、並ぶ墓標の前で魔王様は俺に言った。
「五年だ、五年の猶予を与えてやる。その間に力をつけろ。それまで、最高の教育の場を与えてやる。そして、五年後の今日までに、自分の存在価値を我々に示せ。いいな」
与えられた猶予は五年ーー
短い。だけど、やるしかないんだ!!
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