裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹

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第二章 ラッシュ港攻略

五年後

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 ラッシュ港はエルヴァン聖王国の南西に位置している港だ。エルヴァン聖王国の交易の一つで海運の一手を握っている。

 魔族領からは遠いが、船を利用すれば動作もない。陸地を進むより何倍も時間が短縮される。魔族でも、山越えはさすがにしんどいからな。それに、空を移動する種族の拠点にもなるだろう。

 なので、俺たちはここを制圧しにきた。

 ラッシュ港が隣接する街の中央広場に、俺は一人立っている。

 大した変装もしないで。珍しくない冒険者スタイルだ。但し、ローブを深く被り顔は隠していたが。まぁでもこの天気だ。町民のほとんどが足元しか見ていない。

「……漸くここまで来たな」

 俺は雨がやんだ空を見上げながら呟く。

 魔王陛下が提示した五年は、ほんとあっという間だった。

 確かに約束通り、最高の教育をつけてくれたけど、マジで思い出したくない程のスパルタだったな……何度死に掛けたことか。いや、実際に何度か死んだよな。でもそのおかげで、今俺はこの場に立てている。

『何一人で黄昏れてるのよ。詰めはこれからなんだから』

 耳飾り型の魔法具から聞こえてくるのはマリアの声だ。一緒に聞こえてくるのは微かな呻き声。

「分かってる」

『まぁ、固いこと言うなよ。アークにも色々思うことがあるんだよ』

 ジムが俺の味方をしてくれた。こちらも、呻き声が。

『それは皆同じでしょ。今日は私たちにとってなんだから』

 マリアとジムの掛け合いが始まった。いつものことだ。

 でも……今日は特別な日だ。

『おーい。三人とも、そろそろ時間だよ。現実に戻れ。時間は合ってるか?』

「『『勿論』』」

 レイの声に、息の合った俺たちの声。レイからは呻き声は聞こえなかった。一掃したんだな。

「『『『5、4、3、2、1、0』』』』」

 0の声と同時に、ジムたちは一斉に魔石を攻撃する。危険視していた自滅トラップは作動することなく魔石は壊れ、さっきまで煌々と放っていた光も消えた。

 実はこの魔石、三つ同時に壊す必要があった。少しでもタイミングがズレたら、爆発する仕組みになっていたからだ。

 危険な作戦だったけど、この作戦が一番成功確率が高くて、簡単だった。俺たちにとっては。

 同時に広場中央にある魔石の光も徐々に消えていく。魔物、魔族侵入防止の結界が消えた。

 作戦、第一段階終了ーー

 案外、誰も気付かないもんだな。

 魔石の異常に全く気付かない住人たち。

 消える筈はないという勝手な思い込みだろうな。完全な平和ボケ。だから、誰も気にも留めていない。未来なんて不確定要素なのにな……そんなことを考えながら、俺は一人待っていた。

 ジムたちは代わりに持って来ていた魔石を台にセットする。

『『『次は、アークの番だ(よ)な』』』

「まかしとけ」

 俺はそう告げると魔石に近付く。ここにきて、数人が魔石の異常に気付いた。いや、俺が魔石に近付けている異変に気付いただけだろう。

 今更気付いても遅いけどな。

 ニヤリと嗤う。

 そして、俺は持ってきた瓶の中身を魔石の上から垂らした。吸収されていく。と同時に、魔石の色が変化し始めた。

 そう……眩い光から黒い光に。

『こっちの魔石も黒く染まって来たぞ』

『私の方も』

『作戦の第二段階終了だな』

「ああ。後は、この街と港を制圧するだけだ。早く来いよ。来ないと楽しみが減るよ」
 
 自然と声がウキウキしてしまう。

 魔石の書き換え完了。

 俺が垂らしたのは魔物の血と人間の血だ。侵入されたくない種族の血を魔石に垂らすと、結界によってその種族は侵入を阻まれる。余程の高位種でない限り。

 つまり、新たな人間はこの街に入って来れなくなった。あくまで陸からだけど。海からは別だ。まぁそれも、ちゃんと手は打ってある。

「貴様!! 魔石に何をした!? 今すぐ魔石から離れろ!!」

 そんなことを言う前に、攻撃すればいいのに。つくづく甘いよな。

「書き換えたんだよ。魔族用に」

 聞かれたから教えてやった。俺って親切だろ。

「貴様、魔族か!!」

 おかしなことを言う奴だな。そもそも魔族なら、この結界潜れる訳ないだろ。おかしくて、思わず笑ってしまった。

 馬鹿にされたと感じた兵士は激高する。

「いや、人間だよ」

 一応訂正する。すると、唾を飛ばしながら吐き捨てた。「この裏切り者が!!」と。

「裏切り者か……それ、不愉快だな。確かに俺は人族だけど、魔国の民だから。魔国の民が祖国のために働くのは当たり前だろ。お前らもそうだろ?」

 わらわらと集まって来た兵士やハンターたちに向かって俺は問い掛ける。

 罵声と共に攻撃を仕掛けてくる兵士とハンター。少し離れた場所には魔術師。

 二段階攻撃か……教科書通りの攻撃法だよな。悪くはないけど、俺には効かない。

 俺は剣を抜く。身構える兵士と冒険者。俺はニヤリと嗤うと、剣を横に一直線に振った。

 二段階攻撃は連携攻撃。前衛がいて始めて成り立つ。ということは、前衛がいなくなれば簡単に崩れるってことだ。

 五人いた前衛が血を吹き出しながら崩れ落ちる。

 突如起こった惨劇に悲鳴が上がった。逃げ惑う市民たち。

 元々、無血開城なんて目指せしていない。無駄に殺しはしないだけ。必要なら殺す。俺を攻撃してきた冒険者や兵士たちのように。

 精々逃げればいい。逃げる場所なんてどこにもないけどな。

 始めから市民に手を出すつもりはないが、こちらに攻撃を仕掛けてくるなら容赦はしない。そのことは、カイナ班の皆に伝えてある。

 魔術師たちに視線を戻すと、魔術師たちの詠唱が止まっていた。後退る魔術師たち。

「駄目だなぁ~敵にのまれたら駄目でしょ。それに、詠唱なんてチンタラやってたら攻撃されるよ。こんな風に」

 俺は左手を前に翳した。同時に空中に浮かぶ魔法陣。

「…………無詠唱!? そ、そんな馬鹿……な…………」

 そう呟くと同時に、魔法陣から繰り出された炎は魔術師たちを包み込む。そして、あっという間に彼らは消し炭になった。苦しまずに逝かしてやる。せめてもの慈悲だ。

 それを皮切りに、街のあちこちから悲鳴と煙が上がる。

 でも、空は地上とは対象的に晴れ出す。分厚い雲が薄くなり、所々、陽の光が大地を照らした。

 まるで、神が地上での行いを擁護するかのように。

 さあ、第三段階開始だーー

 
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