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第一章 踏み荒らされ花
俺は神を否定する
しおりを挟むこの場所には見覚えがあった。
まだ俺が王子と呼ばれていた時に、何回か訪れたことがある。礼拝に参加するためだ。五年経っても当時と全く変わってはいない。
装飾品は一切飾ってなく、あるとすれば精巧な彫刻ぐらい。一色で統一された場所だからこそ、記憶に残っていたんだろうな。
そう、ここは王都にある聖教国の教会だ。
俺と魔王、リュートは、やたら広い通路を進む。
魔族は教会に近寄れない。神に反目している愚かで穢れた存在だから。そう広く認識されている。だから、人は自分たちを害する魔族を敵対するのだと。
だが、それは全く違う。
魔族は人族と同じ様に、一つの種族でしかないのだ。似ていても、魔物と魔族は違う種族であり、成り立ちそのものが違うのだ。
聖教国の教えとは正反対。
しかし、それが真実。その事を教えてくれたのはアイリスさんだった。
待ってて。必ずアイリスさんを取り戻すから。
迷うことなく、俺たちは奥へ奥へと進む。段々通路が狭くなる。ここから先は、俺も行ったことがない。
途中、下っ端の司祭が俺たちを止めようとするが、近付くことさえ出来ずに魔王にふっ飛ばされている。
神殿が使うような魔法じゃない。これって……魔力。凄い。
改めて魔王の凄さに圧倒されながら、俺たちは進み、やがて立派なドアの前で止まる。
魔王がドアをふっ飛ばそうとした時だった。中から、高らかに笑う男の声が聞こえてきた。
「クックック。アッハッハ。やっと、大聖女の心臓が手に入ったぞ!! これで魔石が作れるぞ!!」
魔王の言った通りだった。
やっと……やっとと言ったのか。じゃあ、前からアイリスさんの心臓を狙ってたのか。司祭のくせに!!
醜い現実を知り、俺は顔を歪ませ奥歯を強く噛み締める。
昼間から酒を飲んでいるようで、やたら陽気で下卑た笑い声が聞こえてきた。聞くに耐えない笑い声に虫唾が走る。怒りで体が震えた。司祭のまだ宴は続いている。
神に遣える司祭でありながら、特殊な液体に漬けられた心臓の瓶を酒のつまみにしていた。その姿は醜悪ものだったが、彼を咎めることが出来る者などこの教会には誰一人いなかった。反対にいるのは、彼に擦り寄りおこぼれを貰おうとする、卑しい者たちだけだ。
「おめでとうございます、エモンズ大司祭様。大聖女の心臓ですね。さぞかし、立派な魔石が作れることでしょう。これで、貴方様の夢に一歩近付けますね」
おべっかを使いゴマをする声がした、
大司祭が、皆をーー許さない!! 絶対!!
ライドを抱く手に力が入る。更に強く奥歯を噛み締めた。口の中に鉄の味が広がる。
「ああ。大きな一歩だ。それにしても、あのライドという男には驚かされたわ。まさか心臓がなかったとはな。卑しい魔族だからか……まぁいい。大聖女の心臓が手に入ったのを良しとしよう」
司祭の悦に入った声が廊下まで響いた。
コイツらは人の命など道具としか思っていない。だから平気で壊せるし、壊しても罪悪感なんてないんだ。自分に役に立つ命は良い道具、そうでないのは、悪い道具。只それだけなんだ。
心底嫌悪する。腸が煮えくり返る。こんな人間がこの世に存在するだけで、害悪だ!!
「…………許さない」
低い。とても低い声が出た。怨嗟の籠もった声だった。魔王とリュートが少し驚いたように俺を見る。俺は軽く頷いた。
魔王は躊躇うことなく、扉をふっ飛ばした。
突然の来訪者に腰を抜かす腰巾着。エモンズ大司祭は驚愕し、思わず持っていた瓶を床に落とした。慌てて拾うよりも早く、魔王は魔力で瓶を自分の手元に手繰り寄せた。
「返せ!! それは私のだ!!」
唾を飛ばしながら、エモンズ大司祭は激高する。光の刃が俺たちを襲う。だが、その刃は俺たちを傷付けることはなかった。たじろぐ、エモンズ大司祭。
「違う!! これは。アイリスさんのものだ!!」
反射的に、俺は怒鳴り返した。
そこで、始めてエモンズ大司祭は俺の存在に気付いた。途端に、下卑た笑みを浮かべる。
「これはこれは、元勇者様ではありませんか。魔力がない方が、このような魔力に満ちた神聖な場に来られても、魔力を得られることはありませんよ」
「……マジ、気持ち悪い」
「そうでしょそうでしょ。魔力を持たない者にとって、この場は酷でしょうな」
更に醜悪な笑みを浮かべる、エモンズ大司祭。いや。ゲス野郎。
「はぁ!? 勘違いするな、これくらいの魔力で、魔力酔いを起こす訳ないだろ。どんだけ、自分が優れてると勘違いしてるんだ。気持ち悪いのは、お前らみたいなゲス野郎と一緒の空気を吸ってるのが気持ち悪いんだよ!! 分かったか!!」
「魔力なしが、舐めた口をーー」
司祭は怒りで真っ赤に顔を染め歯ぎしりする。
「魔力至上主義か。愚かの極みだな。だから、最大の過ちを犯しても気付かない」
魔王が心底侮蔑を込めた目で司祭を見下す。
「何を「許さない。俺はお前らを許さない」
俺は司祭の声をこれ以上聞きたくはなかった。
「許さないだと。魔力がないお前に何が出来る。この私を、エモンズ大司祭を殺すか? 出来るのか? それとも、一緒にいる男たちの手を借りるのか?」
鼻で嗤う司祭。
目の前にいるのが魔王だと、司祭は気付いていないのか。だとしても、特に問題ない。
「ほんとにゲスだな。結界が壊れたことも気付かないで、まだ、そんなことがほざけるなんてな。今は殺さない。二人にも頼まない。いいか、殺すのは俺だ。必ず力を付けて、お前の前に現れる。だけど、只では殺さない。お前から全てを奪い、この世の地獄を骨の髄まで味合わせてやってから殺してやる。それまで、精々、下卑た笑みを浮かべてるんだな」
これは宣言だ。
俺自身に対して。そして、この世界に対してだ。
「なんたる不敬!! 神に懺悔しなさい!!」
背を向けた俺に、腰巾着が恫喝する。
「神? お前らのような者が司祭を務めている神を崇めろって? このような非道なことをする国を守護する神を崇めろって? 冗談だろ。俺はそんな神を崇める程、心は広くない。そんな神など、こちらからクソ食らえだ」
そう吐き捨てると同時に雷が落ちた。
「神が怒ってらっしゃる」
震えながらも、俺を責める腰巾着。反対に、ゲス野郎は、「精々、足掻け魔力なしふぜいが」と嘲笑う。
その言葉、いつか後悔させてやる!!
俺は心の中でそう誓った。
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