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第一章 踏み荒らされ花
奪還
しおりを挟む「少しは、魔力耐性がついてきたようだな」
その言葉の意味を理解するより早く、下から吹き上げる風にシャツが大きく捲り上がる。
……え? 下から風……
何も考えずに下を向いた。
「なっ、なっ、な」
俺は尻餅を付いて下を指差す。
「何が言いたいんだ? 馬鹿が更に馬鹿になったのか?」
酷っ。
「今俺たちは、エルヴァン聖王国の上空にいるんですか!?」
「見たら分かるだろ」
完全に馬鹿にした口調で答える魔王。
「ほんとに騒がしい人間ですね」
同行しているリュートの呆れた声。そして、まるで下等生物を見るような蔑む目で、俺を見下ろしている。俺はムカッときたが、食って掛かりはしなかった。
「小僧、あれを見ろ」
魔王が指差す。俺はその方向に視線を向けた。
瞬間、息が止まった。
時も止まった。
人って、ショックが大き過ぎると体が固まるんだな。音も一切消え、周りの景色も視界から消えた。まるで白い空間の中に放り込まれたようだ。
なのに、鮮明に見えるんだ。
晒されたジークの首と、磔にされ、心臓をえぐり抜かれ、真っ赤な血で染まったアイリスさんの姿だけは――
「……大聖女と呼ばれた方が、こうも簡単に殺られるとは」
「何年もの間、カイナ村に強固な結界を何重にも掛け続けた上に、転移魔法の発動。そして、襲撃。さすがの大聖女様も魔力が尽きたんだろ。それか、人質を取られたのか……どちらにせよ、胸糞悪い光景だ」
リュートと魔王が何を話しているのか理解出来なかった。頭が、心が拒否していた。そんな中で、ただ……一つだけ唯一理解出来たのは……
「…………俺のせいで死んだんだ。村も、俺がいたから襲われたんだ。皆、俺のせいで…………」
力なく、聞き取れにくい声でポツリポツリと呟く。
「そうだな。だからどうした? 自分のせいで村が滅び、大勢の村人が死んだ。それでどうしたい。責任を感じて自ら死ぬか?」
ここで俺が「死ぬ」と言ったら、迷うことなく、魔王は俺をこの場から落とすだろう。だけど、
死ぬ……俺が責任をとって…………
死ぬのは簡単だ。
ここで俺が「死ぬ」と言ったら、迷うことなく、魔王は俺をこの場から躊躇うことなく落とすだろう。簡単に死ねる。辛い思いをこれ以上しなくていい。でも、それは只の逃げだ。一番楽な道だ。馬鹿な俺でもそれくらい分かる。
蘇るライドとアイリスの少し沈んだ笑顔と声。そして、アイリスの涙。
ーーアーク、生きて。愛しているわ。
ーー必ず戻って来るから、預かっててくれ。
約束は守らないと怒られるよな……
それに、仲間たちにも怒られる。
「…………出来ない。俺は生きなきゃいけない。どんなに惨めな姿で地を這っても、残飯をあさっても、生き残らなきゃいけないんだ。だって、俺が逃げ出したら、アイリスさんとジークの想いを殺すことになる!! 二人をまた殺すことになる!!」
魔王とリュートは黙って、俺の叫びを聞いている。
「なら、やるべきことは分かるな」
そう静かに問い掛けてきた魔王に、俺は小さく頷いた。
「ライドとアイリスさんの亡骸を奪還する」
「元々、そのために来たんですけどね」
確かにそうだけど、今それを言わなくていいだろ。
「うるさいぞ、リュート。では、さっさと取り戻そうか」
ニヤリと笑う魔王。俺の襟首をガシッと掴むとそのまま飛び降りた。
フワッと体が浮いたと同時に、バシッと耳元で何か弾けるような大きな音がした。稲妻みたいなものも見えた。
結界……?
しかし、すぐに抵抗は消え、俺たちは真っ逆さまに落ちて行く。地面に着く瞬間だろう、またフワッと体が浮いた。そして、強かに腰を打った。
腰を擦ってると、悲鳴が上がった。まぁそうだろうな。空から降ってきたんだから。段の上にいるからか、騎士と兵士たちも続々集まって来るのが見える。
「早くしろ!!」
魔王が俺を叱責する。
俺は慌てて立ち上がると、自分が着ていたシャツを脱いだ。それでライドの首を包む。それから、リュートさんに手伝ってもらい、アイリスさんを解放した。涙が出そうになったが、歯を食いしばり我慢する。
兵士たちが俺たちに剣と槍先を向けていた。魔法を仕掛ける者たちもいた。しかし、俺の顔を見ると、半数近い騎士と兵士は戸惑い動きを止めた。彼らはユリウスの顔を見たことがあるんだろう。
「…………ユリウス王子が何故?」
やっぱり勘違いしている。双子だから当然といったら当然か。残りの騎士や兵士たちも、つられるように動きを止める。困惑しながら。
今のうちに。
俺は魔王がどこからか出してきたマントで手早くアイリスを包む。リュートがアイリスさんを抱え上げた。俺はライドを。
「罪人どもを何処に連れて行くつもりです!!」
その言葉に、俺は自分の感情がスーと消えていくのを感じた。
「罪人? ライドとアイリスさんがか。何も悪いことをしていない者を平気で殺し、晒し者にするお前たちの方が、俺にとったら、極悪人に見えるけどな」
そう吐き捨てると、彼らから背を向けた。
「後は心臓だな」
魔王の言葉に俺は頷く。
何故、心臓を刳り取られたのか分からないけど、取られたものは絶対に奪い返してやる。絶対にだ。
魔王はアイリスさんの心臓が何処にあるか分かっているようだった。一点の方向に視線を向ける魔王。
そっちは確か……
俺たちの体はまた宙に浮く。そして今度は、そのまま移動する。
「心臓は魔力が一番集まる所。大聖女の魔力を追えばいいだけです。魔力がある者なら誰でも出来ますよ」
代わりに答えてくれたのは、リュートだった。
アイリスさんが大聖女だってことは知らなかった。でも、今なら納得出来る。
「何故、心臓を?」
「魔石を生成するためだろうな」
今度は魔王が教えてくれた。
「魔石って、作れるんですか!?」
驚いた。
魔石は魔物が死ぬ時に稀に落とすレアアイテムだ。魔物の命の結晶って言ったらいいかな。それを作り出す?
「魔石は命の結晶だ。命の源である心臓を使えば生成は可能だ。余程の魔力の持ち主で、外道でなければ無理だが」
殺すだけで飽き足らず、その命まで蹂躪するのか。怒りが沸々と湧き出す。
その感情を胸に抱きながら、俺は広々とした大理石の床に魔王とともに降り立った。
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