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第一章 踏み荒らされ花
踏み荒らされた花
しおりを挟む魔王は俺たちを見下ろし、ニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべると立ち上がった。
皆、ずぶ濡れの俺を背に庇う。フーと毛を逆撫でにした仔猫のように。いや、マジで仔猫だよな。とするなら、魔王はトラか。
「仲間に庇われ憐れだな。勇者」
明らかに馬鹿にされ、蔑みが混じった視線に、俺は何も言い返すことが出来ない。事実だからだ。
「魔王。俺は勇者じゃない、アークだ」
そう訂正すると、また鼻で笑われた。
「相変わらず、威勢だけはいい。まだ動けるか?」
一応魔王は俺を気遣っている風だが、その声と視線は「これしきでへばるとは情けない奴だ、動け」と命じていた。
ライドと似た顔でそんな目をされると、かなりヘコむな。でも、それが今の俺の現状だ。痛烈に思う。俺は何にも出来ない、只のガキだと。
「…………ほんと、俺はつくづく情けない奴だよな。戦う術も、ジムのような体力も、レイのように弁がたつわけでもない。そんな頭もない。マリアにさえ負けてる」
ほんと、ないないづくしだ。情けなくて、顔を上げれない。
「そんなことないよ!! アークは「そうだな。お前は何も出来ない只のガキだ」
マリアの台詞を遮るように、魔王が興味無さそうに吐き捨て肯定する。悔しくて、俺は唇を噛み締め俯くしかできない。
すると、コツコツという足音とともに黒い影が、磨き上げられた床に映る。段を下り魔王は俺たちのすぐ前に立っていた。
「時間が勿体ない。行くぞ」
そう告げる魔王。
同時に、俺たちの足元が赤く光出し魔法陣が現れた。それは、あの地下室と見たのと一緒だった。違うのは色だけだ。
「着いたぞ」
そう言われ目を開けると、そこは俺たちの故郷カイナ村だった。
見慣れた村。
だけど今は、見慣れない様相に変わり果てていた。
建物は派手に壊され、あちこち赤く染まっている。そして、無惨にも殺された村人たち。その姿は俺が知っている者とは明らかに違っていた。
変化が解けている。でも、誰だか分かる。その死体を鳥たちが突いていた。
「「嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だーーーーーーー!!!!」」
そう叫び、崩れるように両膝を地面に付いたジムとレイの、言葉にならない慟哭が村に響いた。マリアは悲鳴さえ上げれずに、ボロボロと涙を流しながら座り込んでいた。
魔力酔いでフラフラだったがなんとか動けた俺は、慟哭もせず、涙も流さない。代わりに、唇を強く噛み締め、爪が手のひらに食い込み血が滲むまで握り拳を強く握り込む。
俺は村人の死体に駆け寄ると、鳥たちを追っ払った。払っても払っても、隙あらば突こうとしてくる鳥たち。
「………アーク……俺、布集めてくる」
レイは目元を乱暴に拭うと、近くの民家に駆け込む。マリアもレイに続く。ジムは俺と一緒に鳥たちを追い払い続ける。そんな俺たちの様子を魔王はジッと見詰めていた。
鳥たちと格闘してると、レイが大きな布を持って来た。その布を村人の下に滑り込ませると四人で端を掴み持ち上げた。そのまま、教会の裏手にある共同墓地まで運ぶ。黙々と。
次第に、手の感覚がなくなってきた。それでも、歯を食いしばり運び続けた。
ジムとレイの両親もいた。レイの両親は、生まれたばかりの妹を庇い亡くなっている。妹もすでに冷たくなっていた。ジムの両親は二人折り重なるように。
陽が暮れても俺たちは休むことはなかった。
次の日も、運び続ける。
そして村の入口で見付けたんだ。ライドをーー。
必死で村に殺戮者を入れまいとしたんだろう。二十人は有に超える敵の遺体の中にライドはいた。
息を飲み、立ち尽くすジムとレイ。後退り、腰を抜かして口元に手をやるマリア。俺はフラフラと側に行き崩れるように両膝を付いた。俺の中で様々な感情が溢れ出し一気に弾けた。ライドを抱き締め、何度も何度も大切な家族の名前を泣き叫ぶ。
「ライド、ライド、ライド、ライド、ライド!!」と。
ライドは何も答えはくれない。死んでるから。それ以前に、ライドにはある筈の首がなかったんだ。
「おそらく、持ち帰ったのだろうな。アイリスと一緒に」
いつの間にか魔王が側に来ていた。俺は力なく魔王を見上げた。あまり表情が変わってはいなかったが、魔王が必死で怒りを抑えているのが分かった。この人なりに、ライドのことを気に掛けていたのかもしれない。
……持ち帰った? ライドの首とアイリスさんを……なら、持ち帰った場所は――
「……エルヴァン聖王国」
「おそらくな」
独り言のような小さな声に魔王は答える。
俺はその場にライドを静かに寝かした。持って来た布を、ライドの上にソッと被せる。
「魔王様、頼みがあります。俺をエルヴァン聖王国に連れて行ってくれませんか」
「……危険だと承知したうえでか?」
俺は静かに頷く。
「分かった。リュート、ソルガはいるか」
「はい。お呼びでしょうか。魔王陛下」
「呼んだか。魔王陛下」
現れたのは、謁見の間にいた魔王の側近の二人だった。一番、人に近い姿をした男の人と二足歩行をしている狼だ。
「今から、小僧と一緒にエルヴァン聖王国に行って来る。リュートは俺と一緒に。ソルガはガキ共を手伝ってやれ」
「「「俺(私)たちも一緒に行く!!」」」
皆はそう言ってくれたけど、それは無理だ。ジムは尻尾と耳が生えてる。レイは耳が尖ってるし、マリアの頭には角と背中には黒い羽が生えていた。魔族だって言ってるようなものだ。
「自分の姿を見てみろ」
魔王にそう言われて、皆は渋々引き下がった。
俺は皆を安心させるように微笑んだつもりだけど、僅かに口元が歪んだだけだった。
「俺が戻って来るまで、ライドのことをお願い」
「「「……分かった」」」
「ありがとう」
魔王と側近のリュートと一緒に、俺はエルヴァン聖王国に向かった。
ライドとアイリスさんを取り返すためにーー
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