裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹

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第一章 踏み荒らされ花

一蓮托生!!

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「いい加減、目を覚ませ!!」

 苛々した声と同時に冷たいものが俺を襲う。薄っすらと目を開けると、全身ずぶ濡れだと気付いた。

 俺に水を掛けたのはコイツか。

 中々目の焦点が合わない。目眩がする。酷い乗り物酔いの感覚に似ていた。食べ物の匂いを嗅いだら、まず間違いなく吐く。

「魔力酔いだ。病気じゃない。ほっとけば治る」

 魔力酔い?

 聞いたことがある。確か……濃密な魔力を急に浴びた時になるって聞いた事がある。

 濃密な魔力……

 頭の中で反復した瞬間、頭がはっきりとした。

「ライド!! アイリスさん!!」

 上半身を無理矢理起こし周囲を確認する。途端に目が回って、また冷たい床に戻る。気持ち悪さに呻く。

「今世の勇者は、軟弱で馬鹿だな」

 呆れと馬鹿にする声が降ってきた。

 今、何て言った……?

 一回頭がはっきりとしていたから、靄が掛かっていたような感じは消えていた。自分を馬鹿にした男に視線を向ける。

 玉座か? 

 椅子に座る男の足元が見えた。吐き気と目眩に耐えながら、ゆっくりと顔を上げる。やっと、男の顔を見ることが出来た。思わず、見開いて見てしまう。

「ライド……」

 ポツリと口から出た。

 そっくりだった。髪の長さと目の色は違うが。造形はそっくりだった。ライドを十歳程歳がいった感じだ。

 もしかして、兄弟? でも、ライドは家族は死んだって言ってたけど……

「そんなに似てるか? まぁ似ていてもおかしくはないな。俺は人間でいう、叔父っていう奴だ」

 嘘は言ってないと思う。だからといって、俺たちを歓迎しているとも思えない。そう考えて、ふと気付く。

 ……皆は?

 吐き気と目眩が残る状態のまま、今度こそ周囲に目をやる。そして始めて気付いた。ライドの叔父という奴以外の存在に。

 人とは明らかに容姿が違う男が二人。酷似しているが、一部人とは違う部分がある男と女。計四人が憎々しい目で俺を見下ろしていた。

「やっと気付いたか?」

 ライドの叔父さんの目はとても冷たい。

「皆を何処にやった!!」

 俺はふらつきながらも起き上がる。

「すっかり忘れていたのに、今更心配するのか?」

 蔑むようなライドの叔父さんの声に、ズキリと胸が痛む。事実だから。それでも俺は追及する。

「答えろ!! 皆を何処にやった!!」

 子供の恫喝に、ライドの伯父は鼻で笑いながら答えた。

「手厚く保護している。我々の同胞だからな」

「同胞……?」

 何を言ってるんだ!? 俺の仲間は魔族じゃねーぞ。

「知らなかったのか? お前と一緒に来た子供たちは、それぞれ、人とは異なる血を色濃く受け継いでいるぞ」

 えっ。そうなのか……全然知らなかった。

 黙り込んだ俺を見て外野が騒ぎ出す。俺を蔑み、罵る声。そんな声など俺は気にならない。今の俺にとって、そんな声などどうでもよかった。俺が気になるのは一つだけ。

「……そうか。保護したってことは無事なんだな」

 心底ホッとする。と同時に察した。目の前のライドの叔父が何者かをーー。

「魔族の子を心配するのか?」

 ーー見え透いた嘘を言うな。 
 
 そんな声が聞こえた気がした。

 当たり前だ。長い間、人族と魔族は争い続けている。魔族の土地を狙う人族の一方的な難癖のせいで。その象徴が勇者だ。

「当たり前だろ。一緒に育った仲間だ。心配しない方がおかしいだろ。例え、アイツらの姿が人とは違っていても、仲間には変わりない」

「口では何とでも言えるな」

 確かにそうだな。否定はしない。

「信じてくれようが、くれまいが、俺には関係ない。ところでライドの叔父さん、いや、魔王、俺を殺すのか?」

 そう尋ねると、魔王は目を見開く。おかしそうに口元を歪める。

 顔はライドとそっくりだけど、中身は全然違うよな。

 いつ殺されてもおかしくない場面なのに、呑気なことを考えてる自分がおかしくなる。知らず知らずのうちに、俺も笑みを浮かべていたみたいだ。

「死にたいのか?」

 おかしなことを訊くよな。

「いや、死にたくない。やり残した事があるから」

「ほぉ~やり残したことがな。それは何だ?」

 分かりきったことを訊いてくる。

「そんなの、決まってるだろ。村の皆を弔ってから、村の皆を殺した奴らに復讐する」

「勇者が魔族を弔うのか? 人を殺すのか?」

「勇者? そんなもの、五年前に捨てた。ここにいるのは、ただのアークだ。アーク・フェルトだ!!」

 普通なら緊張し震え言葉を発するのも難しい中で、どうしてか、俺は全く緊張していなかった。

「アーク=フェルトか……」

 魔王は何が愉快なのか分からないが、クックックと笑い出す。しかし側近たちは、不快そうに顔を歪ませる。

 そこまで話した時だった。突然、謁見の間の扉が開く音が聞こえた。

 振り返ると同時に、マリアとレイ、そしてジムが駆け寄って来るのが見えた。少しだけ姿が違う。頭に角が生えてたり、獣の耳と尻尾があったり、尖った耳が見える。

 それでも、僕の大切な仲間だ!!

「「「アーク!!」」」

 一斉に抱き付かれた。バランスを失いお尻を強打。

「痛っ~。よかった……皆無事で」

 皆が無事で目頭が熱くなる。

 こんな時でも、レイはよく見てるんだな。俺のお尻に治癒魔法を掛けてくれた。っていうか、魔法使えたんだ。知らなかった。でも、そんなことどうでもいい。皆が無事なら。そう思っていたら、突然レイが魔王に厳しい目を向けた。

「魔王陛下。何故、アークはずぶ濡れなんです? どうして、治療を受けてないんですか?」

 レイが魔王を責めだした。

「何故、俺がその人間の、ましてや、俺たちと敵対する勇者を保護しなければならんのだ?」

「確かに、アークは勇者です。しかし、まだ目覚めてもいない子供です。魔王陛下ともあろう方が、そんな子供を恐れているのですか?」

 俺は慌ててレイを止めようとした。

「アークは俺たちの仲間だ。仲間を傷付ける奴は魔王陛下でも許さね」

 ジムまで参戦してきた。挙げ句の果てに、

「まだ目覚めていないアークを虐げるなんて、貴方たちが嫌悪している人間と同じじゃないですか」

 マリアまで参戦してきた。

 皆の気持ちは嬉しいけど、これってかなり不味い状況じゃないか。

 慌てて止めようとする俺に、皆はとても良い笑顔で言った。

「「「一蓮托生!!」」」って。

 ほんとコイツらって……無鉄砲だけど最高だよ。でも、少し使う場所間違ってないか?

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