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第一章 踏み荒らされ花
マリアの心配事
しおりを挟むあの日から、マリアの様子がおかしい。元気がないっていうか。言葉数が少なくなったというか。とにかく、静かになった。纏ってる空気も重い。
それは、マリアのことを狂犬と称したジムとレイも心配する程だった。
なんだかんだいっても、仲がいいんだよな。それもそうか。小さい村だから、赤ちゃんの時から一緒だもんな。正直、ちょっと羨ましい。
そんな思いを懐きながら、俺はさり気なくマリアの机の上にノートを置いた。
「マリア、今日算数当たるんだろ。ほら」
とても吃驚した顔された。でもすぐに、マリアは顔を歪めて俯く。
「え……怒ってないの? 私のこと嫌いなんでしょ」
ボソボソと小さな声で呟くマリアに俺は言った。
「俺は暴力は嫌いだって言っただけだ。それに、悪いことをして謝らない奴も嫌いだ。まだ謝ってないだろ?」
その言葉に、勢いよくマリアは立ち上がる。椅子が派手な音をたてて倒れた。今度は俺が吃驚した。
「謝る!! 謝るから、私を嫌いにならないで!!」
俺がマリアを嫌いになることなんてないのに。でも、これは違うよな。それじゃあまるで、
「マリアは俺に嫌われたくないから謝るの? だったら、謝罪じゃないよな」
それだったら、謝罪をしない方がいい。される側に悪いだろ。
マリアに背を向け、レイとジムの方に行こうとする俺にジムが言った。「それくらいにしてやれよ」と。
それが切っ掛けで、マリアはやっとジムとレイに謝ることが出来た。
マリアは意地っ張りなところがあるからな。
ホッとしたのか、笑みを浮かべるマリアを見て、俺の顔にも笑みが浮かぶ。そんな俺の耳元でレイが囁く。
「やっぱりアークは男前だね。ありがとう」
レイは気付いたようだ。俺は少し嬉しくて口元が緩む。
「あ~レイ。アークに引っ付き過ぎ!!」
マリアがレイに手を伸ばす。それをサラリと躱したレイは、反対に見せ付けるように肩を抱き顔を引っ付けてきた。
「俺とアークは親友だからいいんだよ。な、アーク」
俺は頷く。すると、ジムも「ズルい」と言いながら、反対の肩に手を回してきた。
「俺も!! 俺たち親友だよな」
ジムがそう言うと、すかさずレイが「親友って、強要するものじゃないよね」と茶化す。俺を挟んで小突き合うジムとレイを見て、俺は声を上げて笑った。
「勿論、ジムもレイも俺の親友だよ」
ん……? どうしたんだ? みんな、顔が赤くなってるけど。
「……やっぱり、アークは男前だよ」
成り行きを見ていたクラスのみんなも、レイの言葉に大きく頷いていた。
「そうか。俺はレイの方が男前だと思うけど」
場の空気が読むのが上手いし、さり気に周りを見て行動してる。男前っていうのは、レイのような奴だと思う。
「……そうだよな。アークって、そういう奴だよな」
レイが言った。意味が分からなくて首を傾げる俺を見て苦笑する。益々わからなかった。
「レイって、ほんとにズルい!! なに一人で、アークとわかり合ってるのよ」
プーと頬を膨らませてむくれるマリア。うん。可愛い。
「女にはわからないもんがあるんだよ。それで、ほんとはどうしたんだ? アーク以外に心配事があるんじゃないか?」
さっきまでとは違い、真面目な顔をしてレイは尋ねる。俺とジムも驚いてマリアを見る。クラスの皆も集まってきた。
「何か心配事があるのか? 力になるから言ってみろ」
俺がそう言うと、ジムも続けて言った。
「そうだぞ。アークの言う通りだ。俺たちが解決してやる」
マリアは俯き小さな声で「無理だよ……」と呟く。
「無理かどうかは聞くまで分かんないんだから、言ってみなよ」
レイの後押しが効いたのか、渋っていたマリアがポツリと呟いた。
「…………お父さんが帰って来ないの。予定では一昨日帰ってくるはずなのに」
ゼルおじさんは商人だ。主に、村の特産物を他の町で売って、代わりに日用品とかを買ってきてくれる。鉛筆や紙は貴重な品だけど、内緒でくれたこともある。面白いおじさんだ。
「ゼルおじさんが?」
ジムの台詞に小さく頷くマリア。
「荷馬車が壊れたのかな?」
「わかんない」
「だったら、ライドに近くまで見に行ってもらったらどうだ?」
俺の提案にパッと明るくなるマリア。
「いいの?」
「勿論」
「じゃあ、帰りみんなでお願いに行こう」
レイの提案に俺たちは大きく頷いた。
この時、馬鹿な俺はまだなにも気付いていなかった。
いっぱい咲かせようとしていた花が、無残にも踏み付け荒らされようとしていることをーー
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